「暑い!!」
あまりの暑さに飛び起きた。
するとフサフサとした犬の毛が自分のカラダを
包んでいる。
「あちっあちぃーっ」
パジャマ代わりのティーシャツが汗でビショビ
ショに湿ってる。
気持ち悪さに、裾から持ち上げて脱ぎ捨てた。
部屋の空調は夏を忘れさせる心地良さなのに、
オレは犬(狼)の腹に抱えられるように寝させら
れてるせいで、オレの体温だけが異常に上昇し
ていた。
犬は汗を掻かない。汗を掻かないかわりに舌、
口で、調節する。
オレは犬の足の間から自分の足を抜いて怒鳴
った。
「テメー起きろ!!犬!!」
犬の足をガンガン足の裏で蹴ってやる。
犬は敏感だから、たぶんそんな事しなくても、
オレが起きた事で目は覚めてたと思うけど、オ
レは暑くて夜中に目が覚めたという苛立ちから
アオオオカミ様を蹴りつけてやった。
「イタイ。蹴るな」
犬の顔がオレの方に向く。
長い舌が伸ばされてオレの首筋から目の下まで
をべロンと舐め上げた。
「わーーー!!」

こっコイツ!オレが顔舐められんのヤダって知っ
てるクセにっ・・・!

「汗っかき」
アオオオカミが笑ってオレの背中にも舌を伸ば
した。
裸の背中、背骨に沿って舌を這わせられる。
「やっやめ・・!!」
ゾクッとオレの背筋が伸びた。
「全部舐めてやろうかシアン」
「いっいい!!やめろってば!ってか、犬が人
型で寝てればオレだってこんな汗かかないんだ
よ!」
オレは犬の顔を両手で遠ざける。
「そうか。気が抜けてた。寝る前は人型だった
ハズだったんだけどな」
犬は自分の口の周りもペロリと舐めて。
それから。
喉をつっぱらせ、手足を踏ん張る。
と、みるみると蒼っぽい毛が短くなり、人肌が
現れていく。犬の手足から滑らかな指先が覗く。
カラダがしぼむように小さくなると、そこには
人間でいうなら長身の黒髪のオトコが裸で、横
たわっていた。

「これなら暑くないか?」
「う、うん・・って、下なんか履けよ・・っ」
「いい、めんどい」
なんかまたとんでもない変身シーンを見させら
れたせいで目がぱっちりと覚めてしまった。
もう暑いとかそんな問題じゃない。
なのに。
イヌはオレを背中から抱き締めて、また足を絡
ませて再び寝入ろうとする。
長い腕がオレの前で交差してる。
その指に触ってみた。
そしたら、その指がオレの指に絡み付いてくる。
指を一本ずつ組み合わせられて掌を握られた。
頭上からはイヌの寝息。
なんか恥ずかしくなって、オレはドキドキして
しまう。

もう何回もイヌとはセックスしてる。
だけどあの時ってもう、せっぱつまってて、こ
んな余裕持ってイヌの裸とかカラダとか感じた
事なんか無かったんだ。
いつも終る時はオレ、記憶飛ばしてるしさ。
気が付いたらだいたいイヌは犬になってて横で
寝てるし。
なんか。
なんか、照れる。
イヌの胸板がオレの背中にピッタリとくっつけ
られてる。

いや、ちょっと待て!オレ!
普通、こっちが普通なんだよ!
(↑それでもホモ前提の普通)
いつも裸で犬と寝てる方がオカシイっつーの!

そんな事を考えてるせいで、心臓はバクバク言
うし、目は覚めちゃってるし、緊張してカラダ
動かせないしで、オレはまた汗をかき始める。

そっと足を抜こうとした。
もう膝の裏とか汗かいてる。
その足をまたイヌの足が捉える。

・・・っ暑いんだってばぁ・・!

もう一度足を抜こうとする。
また足が追っかけてきてイヌの股へと封じ込め
られてしまう。

「イ、イヌ。あ、ついって・・」
ついに、堪えられなくなって弱音を吐いた。
すると、クスクスとイヌが笑ってる。
「汗っかき」
また言われて、イヌがオレのうなじを舐めた。
「な、舐めるなっ」
「舐めたい。シアンを舐めたい」
「わっわかったからっフロ!シャワー浴びさ
せてっ頼む!」
「だめ」
「いっイヌ・・・!アッは、はずかしいぃからっ」
後ろから圧し掛かられて、イヌの手がオレの顎を上
に上げさせる。
唇が正反対にくっついた。
「なにが恥ずかしいんだ?」
「オレ、汗臭いよ・・シャワー・・」
顔を背けながら小声で訴えた。
「臭くない。シアンはどこも臭くない。この匂い、
好きだ。オレを興奮させる」
それで、またイヌがオレにキスした。
今度はディープなヤツ。
イヌの舌は長くていつも上顎チロチロやられて、むず
がゆくなる。

ソコ、触んないでっソコ擽られると、オレ、めちゃく
ちゃベロ動いちゃうっ・・・!

ついでにうつ伏せでぺしゃんこになってたチンポまで
硬くなっていく。
「かわいいシアン。もう、勃ったろ?するか?シアン」
「しっしないっしないっ」
オレは一生懸命、首を横に振った。けど。
「シアン、どうしていつも『するか』って聞くと、『し
ない』なんだ・・?何かシャレなのか?こんなにカラダ
は、したがってるのに・・・どうして反対の事言うんだ?」
言いながらイヌがオレの勃起したチンポを触る。
「ヤッ・・・!!」

お前にオレの気持ちなんかわかるかよ!!
誰が好き好んで、犬のチンポ挿入したがるか!!
お前が、ヤルから、オレはヤラれるだけで・・!

「気持ちいいだろ?」
イヌの手が上下してる。
オレは心持ち、ケツ上げちゃって、イヌの手が動き易く
しちゃってる。
「なぁ。シアン?気持ちいい?」
耳元で掠れた声が鼓膜に響く。
「う、んっ・・」

もうダメだぁ・・・って、目を閉じようとしたら、

「目開けてて。ちゃんとイク時の顔、オレに見せて」

だって。
オレ、薄目なんとか開けてイヌの顔を見つめた。

なんて、エロい事言うんだろう・・、この神様・・。
ああ、でもホント気持ちいい・・。
出ちゃう。
出ちゃうよ。

イヌがフッと笑った。
霞む視界の向こうに口角を上げるイヌの顔が見えた。
「こんな顔するんだな。いつもいつも見逃してた。シアン
をゆっくり見てる余裕いつも無かったからな。お前、いつ
もオレに犬になるなって怒るから、オレ必死で」

ウソ吐くなよ・・・。オレに挿れたらすぐ犬に戻っちゃう
クセに・・・っ

イヌが唇を開いてキスした。
オレも口開けて受け入れる。
口が綺麗に噛みあって。
舌が交じり合った。

「好きだシアン。食っちまいたいシアン」
「やだよ、今は・・。もっと一緒居たいよオレ・・」
額を合わせてイヌが溜息を吐く。
「食いたい。シアン」
「ダメ。食べるな・・舐めてもいいから、まだ、食べるな」
「うん。じゃ、全部」
「う・・ん」
イヌの大きい掌が、オレの背中を撫でる。片手はオレのチ
ンポをゆったりと扱きながら。
カラダ中をまさぐられて。
オレは小さく呻いた。

「いつか・・・喰えるんだな・・お前を・・」
イヌの囁きが舌の感触と一緒に降りていった。
イヌの髪を掴みながら。
「いつか・・・食べていいよ・・イヌ・・蒼狼様・・」
それでイヌがクスリと笑った気がした。










真夜中にそんな事やってるから、モチロンオレ達は
ぐうたらな夏休み。
イヌはもともと何にも縛られない生活してたけど。
時計も気にならない。今が朝か昼か夕方かもわかんない。
ただ、イヌの腕の中でまた手を握られて眠ってた。
そこで、気づいた。

アレ・・?イヌ、人のままだ・・。
でも、アレ?昨日は・・・あのままシて・・それでイヌは。

そっと振り返ってみた。
そこに。

・・・・・!!!

そこに寝ているのは。
オレの手を握って、背中からオレを抱いて寝ているのは!!

「彦・・・!!!!」(七夕にて・参照)
白っぽい金髪に日焼けした肌。切れ長の目がオレを見て
笑う。
「オヒサー」
オレは慌てて、ベッドから飛び降りた。
そんなオレの慌てぶりに彦が噴出した。
「なんも、してねえって」
「な、な、なん、なんで!?」
オレは自分が素っ裸だってのも忘れて彦を指差したまま
立ち竦む。
それに彦は肘ついてオレを見て笑った。
「おーい。丸見えだぞ。さすがにそれ見せられるとオレ
も我慢できなくなるぞ」
「おワッ」
オレは急いで、クロークの中へ飛び込んだ。
「いっイヌーーーー!!!イヌ何処行った!?」
オレは叫びながらシャツをひっかぶった。
「イヌなら電話してるぞ」
クロークの入り口に彦が寄りかかってオレを見てる。
「デ、デンワ!?」
オレはまだ丸出しだったケツを出来るだけ彦の視線から
引きながらパンツに足を突っ込んだ。
「そ。今日お出かけの日だからな」
「っていうか、なんで彦がいんの!?もう七夕終ったじゃん!」
「失礼な。オレだって一応集まりとか出なきゃならない位
にはエライ神様なんだぜ?いつもは鎖で繋がれてっけどな」

こんなどう見てもガテンなニイチャンが・・!?
マジでエライのか・・!?
っていうかいつも鎖で繋がれてるのに・・・神様って・・あり?

そこへイヌが顔を出した。
「誰が偉いって?」
「お、人狼」
「テメーいつの間に入った?・・シアン、何もされて無いか?」
イヌがクロークの中へ入って来てオレを抱き寄せた。
「だ、大丈夫・・。びっくりしたけど・・」
「オレだってな約束ぐらい守るぜ?百年くれー待ってやるよ」
そのセリフに、イヌが笑う。
「なんだよ」
彦が方眉を上げる。
「お前、相変わらず馬鹿だな。人間はな、百年生きたら死ぬんだよ」
「なに!?じゃ、オレが待つ意味ねえじゃねえか!!」
「やっと気づいたのかお前、バカ」
イヌがこれ見よがしにオレの頭を撫で回した。
「んだよっもうやーめたやめた!待つのなんかヤーメタ!」
「なら、お前の腕を貰おうか。オレとの約束を破るってんだからな」
イヌがニヤリと笑うと、彦がウッと顔を歪ませた。
イヌは得意そうに笑って、オレから手を離した。
「海に出掛けるぞシアン」
「海!?」
「なんだ、知らなかったのか?どうりでこんな真昼間まで寝てるわけだ」
彦が呆れた顔でクロークから出て行く。
と、イヌがオレに軽くキスした。
「急に悪いな。海に住んでるヤツが来い来いってうるさくてな。
すっぽかすつもりだったんだが、アイツが迎えに来たんで仕方ない。
一緒に行こうな?」

すっぽかすって・・・友達じゃないの?・・イヌって結構面倒くさ
がりだよな。

「オレは全然いいよ海。つーか行きたかったし」
言うと、イヌがオレの唇をペロッと舐めた。
「いい子だ」
と、その後ろから彦の声が掛かかった。
「なぁいい加減にして行こうぜ」









真っ青な海。
青い空。
白い砂浜。
黄色い声。
色とりどりのパラソル・・・・。


「イヌ、・・・ここ?」
「ここ」

オレ達は、ソンナ夏のワンシーンとは無縁な。
誰も居ない砂浜につっ立ってた。
人が居ない分ゴミとかも無いけどまったく人が寄り付かない
ようなサビレた雰囲気。
駐車場から降りてくる階段の一番下にあった花束が、いくら
オレに霊感なんてもんが無いとは言え、背筋を寒くさせる。
「誰もいない・・・」
「気持ちわりーんだろ」
イヌがサンダルに被った砂をはたく。
「キモチワリィ?」
「イヌ、コイツ本当に鈍感だよな」
「失礼な・・!オレはカネガナルの正当な後継者で、」
振り向くと彦がハーフパンツを脱いでるとこだった。
オレは慌てて前を向いた。
「ここにはな、万年失恋オトコが住んでるんだ。もっと沖の方
だけどな。まぁアイツのナンパが上手くいかないのはいつもな
んだが、負けが込むと、さすがにアイツもキレる。キレると、
予想も出来ない大波起こしたりしやがるから、ソレに巻き込ま
れた人間がここで溺れる。それが年に何回もあると、人間の方
もめったにここへ近づかなくなる。タタリとか言って」
「祟り・・」

嫌な言葉だなぁ・・・大丈夫かな・・。
おっかない神様じゃなきゃいいけど・・・。

心配するオレの横を水着に着替えた彦が抜ける。
「じゃぁちょっと呼んでくるからよ」
「オイ、水の上歩くなよ」
「初泳ぎ初泳ぎ〜!」
イヌの忠告も聞こえないように彦が海へと走って行った。
バシャバシャと水しぶきを上げながら波を蹴散らして走って行く。
「ハヤッ!」
「シアンも入るか?」
イヌがオレの手を引いた。
「えっ・・・お、泳いで、いいの?かな・・?」
グルッと浜を見回すと、腐れたタテ看板に『泳ぐな危険』。

コエェ・・・!!

「オレの側にいれば、大丈夫だ。ホラ」
顔を強張らせたオレにイヌが笑った。

いくら霊感が無いオレでも字にされてりゃアブナイって事位い
わかる。
しかも、かなりわけわかんない感じに。
とにかく危険って感じだ。

「へー、結構冷たいな」
波打ち際に足を入れると、砂が足の周りを流れる。
「気持ちイー!って、ちょい待った待った!」
ん?ってイヌが振り返る。
「ど、どこまで入んの?服濡れるって」
「ああ、・・・脱ぎたいのか」
「脱ぎたいって・・脱ぎたいんじゃなくって脱がないと濡れる
って言って」
る内に、イヌがオレのシャツを引き上げた。

わーバンザーイ。

ってソレをイヌが後ろの砂浜へ投げた。
「ちょっ水着!水着、車!」
「いいだろ。裸で」
言ってイヌは波から離れると、背中がバッテンに交差したタンク
トップを遠くに脱ぎ捨てた。
「良くない!良くないってっ彦もいるし!」
そのセリフにイヌが、あ、と言った。
「忘れてたな、今完全に、アイツの事忘れてたろイヌ」
「忘れてたな。シアンと海に入れると思ったらすっぽ抜けた」
って、言うイヌが笑う。
なんか恥ずかしくてオレは顔逸らした。
「シアン」
イヌの手がオレの肩を抱き寄せる。
「良かった。シアンに会えて、良かった」

夏の日差しをサンサンと浴びて、誰も居ない砂浜で。
オレはイヌにギュッと抱き締められた。

オレは泣き笑い。嬉しいんだけど、目が痛い。涙が浮かびそう
なのを我慢してた。
その時。

”よそでヤレ”

オレはその声に顔を上げた。
イヌも声の主を探してる。
「だ、誰?」
イヌがオレの手を握って波うち際をざぶざぶ歩いた。
声がした方、砂浜の端っこへとイヌが歩く。
イヌはやっぱオレなんかより耳がいいみたい。
何の迷いもなく、そっちへと向った。
ごつごつとした岩とか石とかの向こうに。

祠・・・?

っぽい、木製の百葉箱の大きいヤツみたいのがある。
「シアンちょっと、待ってろ」
イヌは石に昇って、そこへ向う。
オレは石の下からそれを見てた。
イヌがその扉を開けると。
体育座りの男がコッチを見てた。

ゾッ

思わず出そうになった悲鳴をなんとか飲み込む。
「こんなとこ居たのか、お前」
イヌの呆れた声。
「お前らが来るから驚かしてやろうと思ったんだ」
「他のヤツは?」
「昨日来たよ。で、帰った」
話しながら、そのヒト(?)は中から出て来た。
細身の体。
真っ黒の髪。
そしてすごい、色白。
白いっていうより、青白い。
病的だ。病的な白さだ。
絶句してるオレをその人が指差す。

ウワッ呪われるッ

思わず視線を外したくなった。
「もう交代したのかよ蒼!こないだまでオッサン
連れてたくせに!!」
「ハイハイ。妬まない妬まない」
二人がオレの方へと降りてくる。
「シアン。この辺の海に住んでる、ウズ」
「ど、ども」
頭を下げたオレを食い入るように覗き込んでくる。

こっコワイ・・!幽霊見た事ねえけど、幽霊っぽく
コワイ!!

「カワイイじゃん。お前、汚いよマジ。ただでこ
んなカワイイ子いただいちゃってるんだ?シンジ
ランネエよな〜。本当世の中って理不尽だよな!」

これが、神様が言うセリフなんだろうか・・?

「相当な振られ方したみたいだな、お前」
イヌがオレを覗き込んでたウズの肩を引き起こして
くれた。
「うるせー。もういいんだよ。オレの夏はもう終わり
なんだよ」
ウズは完全にひねてるみたいだった。
「なんだよ。せっかく慰めに彦も連れて来てやったのに」
「彦?・・・へー」
ウズの顔が少し緩んだ。
「また乱交パーティーでも開いてくれんの?」

乱交・・・!?

マジかよってイヌの顔を見るとイヌが視線を逸らした。

うそ・・・それって、イヌも、ヤッタって事・・!?

さっきまでの甘い関係が一瞬にして冷めた。

このっど腐れイヌ・・・!!!やっぱ犬は犬なんだ!!
ケモノなんだ!!畜生なんだよ!!

ギッと睨みつけると、イヌが慌ててオレに手を伸ばした。
「待て!シアン!オレは参加してねえぞ!」
「じゃ、なんで今目逸らしたんだよ!」
「オレはヤッテないが、・・・その・・・ナンパして
やったんだ」
「ナンパ・・・」
「そういや、お前のヤッテるとこって見た事無いナ」
ウズのセリフにイヌがマズイって顔をした。
「せっかく遠いとこまで来てくれたんだし」
ウズが笑う。
「ヤッテったら?ここでー」

ギョッとしてオレはイヌの手を握った。
完全に負のオーラに包まれたウズがニヤリと笑う。
「え、遠慮しときます・・」
引き攣った笑顔で返したオレを見て。
ウズが噴出した。
「ウソだよっウソ。そんな気分じゃないっつーの。イチャ
つかれる方がオレだってヤだよ。また、この二人にナンパ
して貰うから安心しな」
豪快に笑ったウズは意外に、子供っぽかった。

心臓が縮む。
機嫌の悪い神様のとこなんかもう二度と行きたくない・・!




それから、彦が戻ってきて、彦とイヌが二人でナンパへ出掛けた。

ま、ナンパくらいなら許してやるか。
どうせ、喋るのは彦で、イヌは居るだけでオッケイらしいから。

でも、ここで一番困るのは。

ウズと二人残されたオレだ・・!!!



海へ降りる階段に二人で座って待つ。
ウズはボーーッと海を見てる。
オレはヒリヒリする肩を撫でてた。
そしたら。
「ん?日焼けイタイのか?」
ウズがオレの方をだるそうに見る。
「あ、うん。ちょっと焼けたみたい」
その肩にウズが手を乗せてくる。

冷たい。

「キモチイイだろ」
「うん・・・キモチイイ」

けど。
冷たい。
すごい冷たい手。
やっぱり、人間じゃないんだ・・。
イヌとか彦とかと一緒なんだなぁ・・。

「蒼・・”イヌ”、好きか?」
ウズがそっぽ向いて言った。
「え、あ、・・・うん。たぶん・・」
「いいなぁ。アイツな、ずっと待ってたんだよ。お前だったんだな」
ウズがオレの肩から手を引いた。
「オレはさ。何回誰かを好きになっても、上手くいかねーんだよ。
きっとそういう風に決まってんだろうな。どんなに好きになっても
裏切られる運命なんだ」
自分の膝で頬杖をつくウズの横顔がすごく寂しそうだった。
「・・神様、なのに・・?」
「さぁ、神様なのかね?オレ。昔、好きなオトコの頼みを聞いて
やった事があったけど。そいつはオレを怖いって言ったよ。怖いって
泣いてさ。だから、可哀想で逃がしてやったんだ。やさしいっしょ?」
ウズのふざけ笑いに、オレは、呟いた。
「・・オレは、イヌ、怖く無いよ」
「ん・・・。なんかポケッとしてるもんなお前。フツウは一緒にいると
きっと、プレッシャーだぜ。その点いいよな〜お前みたいの」
笑いながら、ウズが、オレもそういうヤツ見つけようっと、って言った。

バカにされてたんだけど、全然怒る気になんなかった。
酷くウズが可哀想に見えたから。
好きな相手に、怖がられるなんて、寂しすぎ。
好きだからやってあげたい事ってあるじゃん。
なのに、好きだから、放して上げるなんて、そんな答え、オレは嫌だ。
イヌだったらどうするかな?
オレが怯えて怖がって泣いて逃げたら。
やっぱり放してくれる?
うーん・・・放さないと思う。
そんな思慮深さとかあったら、絶対オレの上に乗っかるような事しない
と思うし。
そうだよ。アイツ始めオレを脅してキスさせようとしたりしてたもんな。
結構強引だったぞアイツ。
セックスは少しずつやってってくれたけど・・。
それでも結局獣姦だもんなぁ・・・。
ソレ考えると。

オレはウズを見た。
ウズもオレに気づいてオレを見返す。
「スキだったら、いいんじゃん?」
「ん?」
「スキになってもらえるまで頑張ればさ」
言ったオレを少し驚いた顔でウズは見てた。
それから、にっこり笑って。
「シアン、おこちゃま〜」
ってオレの頭を撫でてきた。
「頑張ってもなぁ、そればっかはなぁ・・・」


「ねえ、何してんの?」
突如、聞き覚えの無い声が頭上に降って、オレとウズは上を見上げた。
と。
20代の前半って感じの男が4人立ってた。マジメそうには見えない。
「ここ遊泳禁止だよ」
ってウズの隣に一人が座りこむ。
それにウズがにっこり笑う。

この人が遊泳禁止にしてる張本人だぞって言ってやりたい。

笑いを堪えてると、オレの隣にも一人座った。

なんだよ・・・コイツら・・。

その顔をなんとなく睨みつけてるのに、そいつがこう言った。
「カワイイね。言われない?」
「言われない」
オレが声を硬くすると、ウズがオレの手を引いた。
「ウズ」
「行ってな」
ウズがオレを階段の下へと促した。
けどオレの腕を無精髭の坊主が掴んで止める。
「放しな。オレが4人相手してやるから」
ウズが立ち上がって、坊主の腕を掴んだ。
「へー・・言うね。ここが、そういうトコってもしか知ってた?」
ニヤケたオカッパがウズの肘を掴んだ。
「遊泳禁止だから、誰も来ねえアナバなんだよな」
クスクスと笑う4人に、ウズが笑って答えた。
「知ってるよ」
「・・ノリいいじゃん!何するか、わかってる?」
ニヤつく4人に、
「ファックだろ」
ウズがすごい事を言った。
4人が、いいねいいねー!って大笑いしてウズの肩を抱いた。
「ウズ・・」
オレが呼ぶ。
ウズが振り向く。
「シアン、”アレ”はシャレだよ。結局、彦とオレと皆でお酒飲
んでおわり。結局、オレはさ、そんな風にチャラつくことも出来
ないでウジウジしてんだよ」
「ウズ・・、ウズ、本当は強いんだろ!?そんなヤツラ、簡単に
やっつけられんだろ!?」
怒鳴ったオレに、4人が眉を寄せる。
「何、言ってんのアイツ」
「仲間ハズレがイヤなんじゃねえの?」
「そっか、おいでおいで。4対1じゃ、ちょっと可哀想だもんなぁ」
オレに向って来ようとする男の腕をウズが素早く掴んだ。
「アイツに手出すな。オレが4本でも5本でも銜えてやるよ」
「ヒューッかっこいいじゃん。でもさ、順番待ちってつまんねえんだよな」
「オレがシテやるって言ってるウチにヤっとけよ」
ウズの喋りは静かなんだけど、肝が座ってた。
それに気圧された男が、踵を返す。
「ウズ・・」
取り残されたオレは階段に足を掛けて迷った。

オレがアイツらに敵うわけねえ・・!でも、それじゃウズが・・っ
オレをかばってくれたのに!!

5人が路駐のデッカイワゴンに向う。
「なんだよ・・・アンタ神様じゃねえのかよっイヌみたいに強いんじゃ
ねえのかよ!?・・・イヌ・・!!イヌーーーーーーーー!!」
オレは体折って腹から叫んだ。

早く助けに来いよ!!!
ナンパなんかしてんじゃねえよ!!!

「シアンなんで泣いてる?」
いきなりの声に、足元から視線を上げると。
薄い蒼いでっかい犬が、オレの前にいた。
「イヌ・・っウズがウズが車に・・!!」
オレはあのワゴンを慌てて指差した。
それを犬が見上げる。
「早く!!イヌ!!」
オレは犬の顔に縋りついた。のに、犬はピクリとも動こうとしないで。
「なんでオレがアイツを助けなきゃいけないんだ?シアンが無事なら
オレはそれでいい」
なんて言った。
「もういいよ!オレが・・っ」
って階段を駆け上ろうとした時。
ガシャーッってワゴンのスライドドアが開いて、大量の水がそこから
溢れ出る。
それと一緒にあの4人も外へ流れ出て来た!
唖然。
そして、最後にウズが涼しい顔で車を降りてくる。
「過保護め」
ニヤリと笑ってイヌに言った。
「遊びすぎだ。慌てたぞオレは。車から飛び出しちまった」
「いや、マジ、ヤラれてやろうと思ってたんだけど、あんまり口が
臭いからヤんなってヤメタ。シアンごめんな?心配した?」
ウズはまた冷たい手でオレの頭を撫でた。
「な、なんだよっマジオレ、もう・・ッ」
半泣きになるオレを、ゴメンゴメンってウズが抱き締めた。
「これ、カワイイなぁ・・いいなぁ蒼は」
「返せよ」
「ケチ」
オレの頭上で神様同士が笑ってる。

ウズはどんな傷を抱いてるんだろう。
自虐的な神様。
いつかその傷は癒されるのかな。
こんなにやさしい手を持ってるのに。
怖くなんか無いのに。

顔を上げると、ウズが不敵な笑みを浮かべてた。
「また一つ海の怪談作っちまった」

当分この浜辺に、ウズは人を寄せ付けさせないみたいだ。
それだけはハッキリわかった。
もしかしたら。
ここが、何か、ウズの思い出の場所なのかも知れない。
だとしたら、なんてイタズラな神様だろ。













「ここドコだ」
オレが照れ笑いを浮かべてる頃。
彦は、カーナビの使い方がわからず、迷子になっていた。
さすが、天の川の掃除屋!
土地感無し!







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