「ここに座りなさい。二人共」
紫の作務衣着たツルッパゲが正座して言った。
メシが終わると親父が急にオレ達を親父の部屋へ呼
びつけた。
広々とした畳の部屋にポツンと座卓と座椅子。
後は、教本が何冊か。
とてもプライベートスペースに思えない。
自分の親父ながらに、これが坊さんの生活かと感心
してしまう。。
「何?父さん急に」
ビビリの兄貴はキチッと正座して、いつも悪い顔色
をもっと青褪めさせた。
兄貴はまだ7時だってのにさっさとフロも入って、
パジャマ姿。
「オレ、出かけなきゃなんだから早くして」
オレは腕時計をはめながら、まぁ正座してやった。
座ると穴空きジーンズから膝が飛び出す。


オレ、鐘ケ成志庵(カネガナルシアン)16歳と、
兄貴の綾拓(リョウタク)19歳は、17代も続く
鐘が成る寺に生まれ、まぁそこそこ平和に暮らして
た。
家の敷地にお墓とかあるけど一回も幽霊とか見たた
めしは無いし。
時々掃除手伝う位いで正月だって自由だ。

「シアン。リョウタク。お前達、梧聖(ゴセイ)叔
父さんの事は知ってるな?」

親父はゆっくり、なんか知らんけど唇震わせながら
叔父さんの話を始めた。

梧聖叔父さんは、世捨て人だ。
親父の二番目の兄貴で、十代で世俗から離れ、どっ
かの山ン中で暮らしてる変わりモンだ。
親父より2つ年上だから今年57歳だろう。
コンビニも無いとこ住んでられるんだから仙人だね。

「知ってます。入院してたんですよね」
兄貴が言ってオレは驚いた。
「え!?そなの?」
なんでそんな事知ってんだよコイツ。
「リョウタクは一度お見舞いに行ってるんだよシア
ン」
驚くオレに親父が捕捉してくれた。
「実は・・・叔父さんが昨日亡くなった。癌だった
そうだ」
「・・・・・」
「・・・・・」
オレと兄貴は絶句した。

だって、オレなんか一回も会った事ない知らないオ
ッサンの話だしサ。
しかも変わった人だっつーし。
関係無いもんね。

「では、お通夜は」
兄貴がまともな事を言って、あ、そうかと気づいた。
やっぱウチでやるんだよな。
「いや、・・・・遺体は、・・・もう無いのだ」
「へ!?」
「どうゆう事ですか?」
通夜も葬儀も無しで?もう荼毘にフシタって事?
「死んだ梧聖の魂も肉体も、・・・全て神はに捧げ
られたよ。この鐘が鳴る寺に言い伝わる生き神様に
な。シアン、リョウタク。ようく聞きなさい。これ
からお前達に言う事は、私と私の兄弟が子供の時、
それこそお前達より幼い頃に聞かされた話だ。」
親父の格好でそんな風に切り出されると、サスガの
オレだって、なに言っちゃってんの?父ちゃんとは
ツッコメなかった。
雰囲気ありすぎるよ。
ただの親父の部屋(和室)なのに、そこが本堂に思
えてくるから不思議だ。
親父の後ろに蝋燭が見えてきそうだ。
ゴクって喉が鳴って慌てて、オレは聞きたくも無い
のに聞いてた。
「い、生き神・・・って何?」
それ聞いた兄貴と親父は眉間を寄せた。
「お前って奴は・・・!!そこまで無関心だったか
!!この親不幸者めっ・・梧聖が報われんわ」
一喝の後、親父は盛大な溜息をついた。
「うちの寺には代々伝わる生き神様がいるって正月
に本山へお参りに行くじゃないか。毎年父さん言っ
てたじゃないか」
本山はウチの裏山だ。
ちょっと階段昇ったとこに祠がある。
「あー・・、なんだっけ・・・狐?」
「日本古代から生き続ける蒼狼様だ。お前にはそこ
から話さなければならないのか・・全くお前は・・」
親父は額を軽く押さえて頭を振った。
「いいか。今夜、お前達どちらかの夢枕に生き神様
が降りて来るという話だ。生き神様に気に入られた
方がこの寺の正当な後継者として、生き神様へその
身を一生仕える事になる。わかるか?シアン、リョ
ウタク」
「わかんない」
「シアン!」
「だって生き神様ってナニ?だいたいオレまだ高校生
だよ?寺継ぐって・・・ムリじゃん。坊主じゃねえし」
オレは真っ茶ッ茶の髪を摘んで見せた。
兄貴だって茶髪じゃないけど坊主でもない。
だいたい仏教とかも勉強した事なんかねえんだし。
「安心しろ。お経が読めれば十分勤まる。お前達は、絵
本替わりに聞かされてきたモノだ。サワリ位いなら空で
言えるハズだ。そうだろう。それこそが、この家に生ま
れてきた子のさだめ。受け継ぐ土台は幼子の時から作ら
れてきているのだ」
「いや、そうじゃなくってサ。ガッコあるし!」
「梧聖も、17歳だった。」
親父がオレ達の後ろを見つめるように言った。
思わず、後ろを振り向きたくなる。そのキモチを押さえた。

冗談じゃねえぞ・・オレらの後ろにその死んだおっさんで
も見えてんじゃねえだろうなぁっ親父!

「梧聖叔父さんが・・・?だってじゃあ父さんは?父さん
が寺を継いでるじゃないですか・・。梧聖叔父さんは・・
若い頃に家出してるんじゃ・・・」
「私は他の兄弟と相談して、この寺で子孫を作る約束をし
たのだ。この寺を、神を守るためにはこの血を絶やしては
いけない。お前達もどちらかが結婚し、どちらかが・・・」
そこで、親父は言葉を切る。
それから一旦視線を自分の膝へ落としてまたオレ達を見た。
「・・・っだよ!早く言えよ!気になんだろっ」
「わかっているがな・・・ドダイ信じられん話だ。私でさ
え、神を信じながら生き神様を見るまでは、梧聖の最後を
知るまでは俄かには信じがたい事だったが・・・。」
また親父は右に左に頭を振った。

もしかして、うちの親父もかなり参ってるって感じ?
そうか・・・そうだよな。自分の兄ちゃんが昨日死んだん
だもんな・・。いくらオレにとっては一度も会った事なん
かねえおっさんだって、親父にしたら一緒に育った家族だ
もんな・・・。結構ツライに決まってるよな。

そんな風に気を使ったオレに親父はとんでも無い事を言った。
「シアン、リョウタク。どちらかが血を残し。どちらかが蒼
狼様と身を結ぶのだ」

目が点。

「蒼狼様にその身を一生捧げ、死後はその身を蒼狼様の肉と
して魂は昇華されると言う。梧聖は立派に勤めあげ、その身
を蒼狼様へと捧げた。立派な最後だった。」

死後・・?
身を捧げた・・?
肉として・・・?






「食べたって事ですか・・?・・・蒼狼様が・・?」
兄貴が掠れた声を出して言った。
親父は一瞬目を伏せて、両手を合わせると、うんうんと深く
頷いた。

ウ、ウ、ウッソーーーーーーーーーーオ!?
んなわけあるかい!!
神様なんだろ!?
何で神様が人喰うんだよ!?

「私達一族はその昔から蒼狼様に仕えてきた。蒼狼様は力
のある神様だ。我一族の先祖は帝の命で仕えたという。帝
は力ある蒼狼様を恐れ、人身御供に我ご先祖を選んだ。し
かし、蒼狼様はご先祖の話を聞き届けると、替わりに自分
の世話をさせる事で帝の願いを一つ聞いてやったそうだ。
帝は願いを叶え、我一族はそれから絶える事無く蒼狼様へ
仕えてきたそうだ。私の代は梧聖が。お前達の代では、シ
アン、リョウタク、お前達のどちらかが仕えるのだ。
それが、今夜だ。いいな?生き神様はお前達の話をきちん
と聞いてくれるだろう。ようく考えておくれ。それでもお
前達に残された時間は今夜眠るまでしか無いのだが・・」

親父はつらつらつらとまるでお経でも読む風に語って、ホ
ッと息をついた。
「そ、そんな・・っどうしたらいいかわかりません」
弱々の兄貴が泣き声を出す。
「そうだよ、父ちゃん。信じられるワケねえじゃん。んな
の!オレもう行くよ」
オレは腕時計を見た。もう7時半になる。
オレは慌てて立ち上がった。
「シアン!ちょっとどうするんだよ!?」
兄貴がオレのシャツを掴んで止める。
「ハ?夜だろ?夜考える。今オレ行かないと、セナちゃん
に怒られる」
セナちゃんは一コ上の先輩で、幼馴染。
今日は何人かでカラオケだ。
もちオンナノコもいる。
「じゃ、12時までには帰るからさ、あとヨロシク!」
「シアン!!」
叫ぶ親父と兄貴を置いて、オレは家を飛び出した。

なんか変な話聞かされたけど、こうやって外出るとバカバカ
しく思えた。
ナニ言ってんだよ親父も。
今何年だと思ってんだよ、2005年だぜ?人身御供?んな
話信じられっかよ〜、たくっ。幽霊だって見た事ないんだぜ?
オレ。

駅前の派手なビル。入り口は自転車でイッパイ。
その隙間から中に入ると、セナちゃん達が居た。
「良かった〜居た。混んでんの?」
セナちゃんが指二本立てて見せる。
「20分待ち」
それからセナちゃんは横のオンナノコを指差して紹介してく
れた。
「リンカ。ナギサ。ケイ、な。」
「ども」
「よろ」
手を振る。

日本人はどんどん言葉を訳してく。
オレもペコって頭下げるだけ。
「オレもイレテ」
後ろから声が掛けられて振り向くと、そこには長身の男が
立ってた。オレとの身長差20cmってとこ?
サングラスに真っ黒のスーツ姿。でも髪とかボサボサ。
一見只者じゃない雰囲気にオレは、引いてしまった。
「別にいいよ〜!」
答えたのはリンカ。
「丁度ひとり足んないもんね!」
「うん、うん」
三人がキャッピキャッピ言った。

そら、この容姿見たらなぁ・・。
まいっか。

セナちゃんも笑ってる。
「オレ、シアン」
「オレ、イヌ。ヨロシク」

え?イヌって言った?

「イヌ?イヌっていうの?」
ナギサが笑って聞く。
「そ。イヌ。わんわん」
キャーかわいいってオンナノコ達が騒ぐ。

なんか・・・変な奴。

でも、カラオケ二時間はガンガン楽しく過ごせた。
歌、歌ってる間は別に変な事も無く皆でギャーギャー言っ
て皆誰彼構わずでベタベタしてキモチ良かった。
オンナノコはやっぱかわいくていい匂いがしてた。
思わず抱き締めたくなる。
ツーテール結びのリンカに思わず手が伸びた。
リンカは気づくと目元を赤くしてコッチを見て笑った。
カワイー。
って伸ばした手が後ろから握られた。
振り返るとイヌがオレを両手で包んでる。
オレ抱っこされちゃってて、思わず背中預けちゃった。
なんかキモチいいし。
それ見てオンナノコ達皆がいいないいなって騒いだ。

あっそお?羨ましいんだ?なんか得意な気分。

皆とは12時近くまで喋って仲良くなってメアド交換した。
イヌだけ携帯持ってないからってオンナノコ達に断ってたけど。
それから、皆とバラバラ別れて最後オレとイヌだけ一緒に残っ
て歩いてた。
もうウチの方へ近づくとどんどん道は寂しくなってくる。
なんせ寺だからね。
「イヌは、歳いくつなの?」
「歳?」
イヌは両手ズボンに突っ込んで、さぁと答えた。
別に言いたくないワケじゃなくて本当にわかんないって感じに
聞こえた。
「・・・・・」
なんだろう・・?
誕生日知らないとか・・?天涯孤独とか?
なんか、・・・ヤバイ人なのかな?そんなに歳違うようには見
えないんだけどなぁ。
なんだか質問しずらくなって、さっきまでのハイな気分も落ち
着いてきてたし、オレ達は黙って歩いてた。
だけどどんどんオレのウチが近づいてくる。
チラとイヌを伺うけど、イヌもオレと並んで歩いてて、別にこ
こどこ?って迷ってる風でもないから、たぶん家、同じ方向な
んだろうな。
ついに、ウチの門が見えて、オレは聞いてみた。
「なぁ・・イヌんちってまだ向こう?」
イヌはオレを見てニコッてして。
「シアン・・・。なぁ、オレが本当にイヌに見えるか?」

イヌに見えるか?

そのセリフが頭の中でコダマする。
イヌに見えるか?ってイヌじゃないって事だよな・・?
え?イヌじゃないって・・・イヌって言ったくせに?
いや、イヌって名前じゃないの?
つーか、どう見たってイヌになんか見えない。

「人間に、見えるけど・・」
正直に言ってみた。
すると、イヌはオレの方へ身を屈めてくると呆れたように呟い
た。
「・・・・・どうやらお前はカネガナルの血筋に稀に見る鈍感
だな」
「ド、ドンカン・・!?」

そりゃオレ、幽霊とかその類のモノには縁が無いけどサァ。
こんな会ったばっかの人間に、鈍感って・・・酷くない?

オレが傷ついてるのも無視してイヌは続けた。
「お前・・・オレと会った事があるだろう?」
「無いよ」

何言い出すんだろう・・この人。
なんだかイヤ気がさしてきた。
さっさと家に帰ろう。

「ある。お前は2000年前オレと会ってる」
「・・・・はぁ?」

こりゃ、ますますヤバイ雰囲気じゃない?
頭イカレてる方面にヤバイ。

「2000年前、あまりに鈍感でグズだったためにオレに食べ
られに来た人間だ」
「・・・・ナンパするならもっと最近の話にしてよ。じゃ、オ
レんちここだから」
オレはさっさと門を潜ろうとした。その肩をイヌが掴んで引き
止める。
「ちょっ放せって!」
「シアン思い出せ!オレを忘れたのか!?」
「忘れ・・・っつーか覚えてない!人違い!2000年も前じ
ゃ、もうその人生きてないから!」
「だから、お前はその生まれ変わりだろ?」

なんつー無茶苦茶なナンパだろ!?
しつこいっ一回ダメだった手はもう諦めりゃいいのに・・!

「放せ!!オレはホモじゃねえ!!」
そこへオレとイヌの騒ぎに気づいた親父と兄貴が飛んできた。

ナイス!!ファミリー!

「シアン!?何の騒ぎ・・?」
「わぁ!!」
玄関から続く庭石の途中で、親父と兄貴がピタっと固まった。
「放せってば!!親父!警察呼んで!!」
オレが必死に助けを求めてるのに、親父も兄貴もぴくりとも
動かなくなってしまった。
「親父・・!?リョウタク!?なぁ、聞いてんの!?」
「どうやら、二人にはオレの姿が見えるようだな」
「なに・・?どうしちゃったんだよ!?おいっってば!!」
すると、親父がそろそろと座り込んで、頭を下げた。
兄貴は突っ立ったままガクガク震えてる。
「アオオオカミ様・・・!!」

親父の口からまたあの名前が飛び出した。
「は!?」
「シアン・・・わからないか?お前・・。この蒼いお姿が見え
ないのか・・?この神々しいお姿が・・」

神々しい・・!?

オレはイヌの足元から天辺まで目を走らせた。
それから親父に振り返って。
「青じゃなくて、黒いけど・・」
言うと、プッとイヌが噴出した。
それからグラサンを外す。
そこには真っ青な目。
「見えないらしいな、シアンには」
クスクス、イヌが笑って。
腕を強く引かれる。
ワッて言う間も無く。
唇に唇を感じた。
ギュッと抱き締められてイヌが呟いた。
「タダイマ、シアン」
























頭がこんがらがってついていかなかった。
うん。拒否してる。
もう考えるコト事態拒否。
もう面倒臭い。
もうどうでもいい。
言い合いも説得も変なナンパももう聞き飽きた。
それで。






「起きたか?」

この声・・・。

目を眩しさに顰めながら開く。
と。
目の前にイヌの顔が!!
あ〜〜〜〜〜〜っ
また・・・またしてもオレは・・!
この狼男にキスをさせてしまっていた・・!!
やっとで、肩を押し返して顔を離させる。
「イヌ!!」
「だから、イヌじゃねえって。オオカミ。」
いつから隣に寝っ転がってたのかイヌは体を少し起こして
後ろに肘をついてコッチを見た。
「んなコト言ったって、アンタだろ・・イヌって言ったの」



昨日、イヤ今日の深夜?
オレ達はリビングで麻の敷物の上で寛ぐイヌを放って何度も
何度も話し合った。
「ちょっと待てって」
二人の剣幕に押されてオレは慌ててストップをかけた。
「シアン!アオオオカミ様はお前を選んでるんだぞ!?」
「そうだ。何を待つ必要がある。カネガナル寺の跡継ぎはお前
だ!今日、今からお前はアオオオカミ様に仕える身となったん
だ。梧聖の後を立派に引き継ぐ義務がお前にはある」
「寺の方はオレがちゃんと継ぐから、シアンは心配しなくてい
いんだよ?」
「ああ、なんて事だ・・!シアンがご先祖の生まれ変わりとは
・・!!」

なんなんだこのマシンガントーク・・!!
つーか、なんでこの真夜中にこんな生き生きと・・!!
このツルッパゲ・・!!

「生まれ変わりなんかじゃねえって!!オレ、覚えてねえもん」
ソファにふんぞり返るオレに、スーツの上着を脱いだイヌが答
える。
「オレも流石に顔は忘れたが、匂いまでは忘れねーからなぁ。
絶対お前、アイツの生まれ変わりだよシアン。アイツ・・、な
んて名前だったかな・・?ま、とにかくこの匂いだ」
なんて言いながら、イヌがソファの後ろからオレの首筋に鼻を
くっつけた。
「ワッ!」
びっくりするオレを嬉しそうな顔して眺めて、ついでにペロっ
とオレのホッペタを舐めやがった、から。
「!!」
バシッ!
と、思わずオレはイヌの頭をはたいてた。
「シアンーーーー!!!!」
「この馬鹿者ーーーー!!!生き神様になんて事を!!!」
親父と兄貴がびっくり戦いてソファからずり落ちんばかりに
後ずさった。

それ見たらオレもやっぱ今のはまずったか・・?と思ったん
だけどイヌは。

「平気。やっぱお前アイツの生まれ変わりだな。アイツそっく
り」
って笑ってた。

あ、なんか今オレにも見えた。
イヌが尻尾ブンブン振ってる姿が一瞬見えた。
イヤ、思い浮かんで笑っちゃった。
そしたらますますイヌが嬉しそうな顔して擦り寄ってきた。

しかし、コイツなんていい加減な記憶だ・・。
っていうか、マジでコイツが生き神!?
どう見ても、その辺にいるちょっとカッコイイ兄ちゃんくらい
にしか見えないぞ・・。スーツが黒じゃなかったらホストかと
思うぞ・・。

で。朝までこの説得は続いたわけだが。
その間。
もうヒマだヒマだってイヌはオレの周りベタベタ。
もう最後にゃ、イヌの擦り寄りにも慣れて、オレの膝の上でイ
ヌを寝かしてた。
だって髪撫でてやると小さくクゥーーンとか言ってかわいいん
だモン。しょうがねえじゃん・・!

もうわけわかんなくなって話もぐちゃぐちゃで部屋に戻る前。
親父がオレの膝で寝てるイヌに両手を合わせた。
「梧聖を亡くしたばかりで、アオオオカミ様もきっと寂しい
のだろう。40年以上二人きりで居たのだ。シアン、梧聖は
幸せだった。最後のその時までアオオオカミ様に看取られて、
笑って逝った」
それから、ゴニョゴニョと念仏を唱えて親父は先にリビング
から出て行った。

またオレはサラサラとイヌの髪を撫でてやって、フと気づい
た。
寂しいから?だからこんなオレに甘えてくんの?
そういえば・・黒いスーツ・・・もしかして・・・喪服?
梧聖叔父さんのために・・?

「イヌ。オレの部屋行くか?」
聞くとゆっくりと目を開けてイヌがコッチを見上げる。
昇った日に眩しそうに目を擦って。
「シアンは・・?」
「行くよ。部屋で少し寝る。もう頭が動かねーもん。ボーッ
とする」
「なら、一緒に寝る」
「ん」

会話だけ聞いてたらきっとフツウの友達同士なんだけどな。
これが・・・生き神様だなんて・・誰が思う?


オレだってマジで信じられない。
2000年も生きてる、生き神様がオレの隣でタンクトップ姿
で、寝転がってるなんてさ。
だってフツウだもん。
フツウに人にしか見えないもん。
「なぁ・・アンタ、それ、ドコで手に入れんの?」
指差すとイヌはコレ?とタンクトップを摘んだ。
「梧聖が買って来てくれてた。ウチに山ほどある。」
「へー・・・。家ってどんなの?」
「三鷹にある3LDKマンション」
「へー・・・。」

突っ込むべきか・・!?ここは突っ込むべきなのか!?
本気で言ってんのか?この神様!!
なんて庶民的な神様なんだ!?
梧聖叔父さんは山篭りしてるって聞いてたのに!
三鷹!?
オレはてっきり山って・・!清水寺みたいなの想像してたのに
・・・!

「じゃ、じゃさ・・・生活費・・とかは?」
「ああ、バイトしてる」

ウワーーーーー!!言うと思った!!今のはオレだって読めて
たっつーの!!このクソイヌ・・!オレをバカにしやがって・
・・!!じゃあ何の仕事してるっつーんだよ!?ホストか!?

怒鳴りたいのを押さえてオレは引き攣る笑顔でもう一度聞いて
みた。
「どんな?バイト?」
「イロイロ」
「イロイロって?」
「知りたい?」
その目がオレを見つめてくる。
真っ青な目の真ん中に黒い裂け目が引いてる。
それからもう一度イヌの唇が動いた。
「知りたい?」
声が出なくて、コクッと頷いた。
イヌはクスッて笑って。
「キスしたら教えてやるよ」
ってオレの首裏に手を廻した。

長い指。それが首の骨をなぞって背中へ降りていこうとする。
ゾクゾクした。

「やっぱいい!!」
慌てて、その腕を掴んで止める。
「ダメ。取引は成立した。約束を反故にする事は出来ない。お前
の大事な物が一つ無くなる」
「何それ・・」
「コトダマ。全ての言葉は命を持ってる。オレの言葉は絶対。」

なんだよそれ・・!?大事な物って・・!?

「キスしろ」
「・・脅迫、じゃん」
「キスしたくなっただろ?」
「・・しない・・。なんか卑怯っぽいもん。だいたいキスなんか
好きな奴としか、したくない!」

なんか意地だった。
そんな風にコイツは人を自由にする方法を知ってるんだ。
今までずっときっとそうしてたんだ。
冗談じゃない・・!
オレはそんなヤツに!
気に入らない奴に、キスしたくなんかない!!

「なら、オレがしてもいいんだな?好きならしてもいいってお前
は言った」
「言ってない!言ってない!言ってないって!!ーーーーーー!!」
オレの抗議も空しく体をイヌの方は引き寄せられると唇が合わされた。
その上・・・。

舌・・!!舌、這入ってる!!って、やだ、やだっ嘘、ヤメテっ
ああ、うわー、変、変っ変っ唾液すごいってば!!
離してくれぇーーー!!
あーーーっ舌っ舌長いっ
え、・・・舌・・・ながい・・?

イヌの満足した顔が目の前にある。
「もっとして欲しそうな顔だな」
その口元から赤い舌が覗く。

だ、大丈夫だ・・・。
やっぱ、フツウに、人間の舌だったよ。
ヨッカッタ・・。
ホッとした。

そしたら、涙が出てた。
「シアン?」
「うっせえ!もうアッチ行け!」
「シアン・・泣くなよ」
言うとイヌがそのベロで今度はオレの目元を舐めた。
「やめろってば!」
人が怒ってんのに、イヌはペロペロ続けた。
「泣くなよ、シアン・・」
「やめろって・・・マジ、イヌみてえ・・」
「イヌでいいから・・泣き止めよ」
背中を摩る手が優しかった。
瞼に触る唇が暖かかった。
「も・・・お前としゃべんない・・」
「そんな事言うなよ・・・謝るから・・。お前の大事な物は何も
取らない。お前が居ればオレはいいから。お前のネガイは何でも
叶えてやるから」
言いながら、イヌはまたオレにキスしてきた。
長い指で顔、上に上げさせられて、唇をペロペロ舐めてから中に
這入ってきた。
口の中でまた、舌が絡み合う。絡め取られる。
逃げらんない。
泣いたせいで、体から力が抜けてたし、気持ち良くって自分から
口開いてた。
「シアン。シアン。シアン。」
「んー。−−−?」

??
??
変な感じがした。
唇の感触が変わった。
ベロも気持ちザラついてる。

オレはそっと薄目開けて見た。

そしたら。
そしたら。








目の前に犬の顔が・・!!
「ギャーーーーーー!!犬!!犬だ!!犬がいる!!犬が家ン中
に!!」
「犬じゃねえ・・・オオカミだっつってんだろ!!」
って犬が喋った。
イヌが消えて、目の前には大きなオレよりも大きそうな犬が!!
薄青い色した犬が!!
ブルブルブルって体振って、ハッハッって言ってる!!
「・・・・イヌなの・・?」
「だから犬じゃねえ。オオカミだ」

・・・・ミラクル。

「と、とりあえず・・人間にモドって」
ってお願いしてみたら、イヌは舌打ちしてから体を伸ばした。
伸ばしていく手足がどんどん人間の指になって手になった。
体もグーッと伸びて薄青い体毛が縮まって人肌が現れた。
フルフルと振った顔も鼻が引っ込んで口からはみ出て牙も小さく
なってさっきと変わらない顔が戻ってきた。

す、スゴイモノを見た・・・!!
心臓に悪い・・・!!これは誰にも見せちゃイケナイっ
見せられないっ
とんでもない事になってしまったとオレが実感していると、イヌ
が真っ裸で言った。
「オレ、セックスする時、人の格好でした事ねーんだけど」

セックスする時・・。
セックス。
せっくす。
せっ・・・くす。


じゃあ・・・。
今。
アンタ・・・、セックスする気・・だったって事か!?
だから犬に戻っちゃったのか!?

「フザケンナ!!!誰が犬とセックス出来るか!!オレは人間な
の!!人間は人間と雄と雌で交尾すんの!!」
「交尾とか言うなよ。萎える」
イヌは溜息つきながら服を着ていく。
「や、や、待って待って、頼むから教えて!!今までアンタに仕
えてきたオレの先祖は、皆、アンタとヤッたわけ!?そんで、オ
レもアンタにヤラれるワケ!?ずっと!?もしかして・・・仕え
るって・・・アンタと結婚するって・・・コト!?」
オレはまだ上半身裸のイヌに圧し掛かってその肩を揺すった。

「どうなんだよっ!?答えろよ〜〜〜!!」
「ぜ、全員とはヤッてねえよっお、オレにだって好みがあるっ」
「マジ!?嘘つくなよ!?嘘ついたらハリセンボン飲ませるから
な!!」
「んなもん飲んだって痛くもねえよオレは。つーかな、お前は抱
くぞ。」

オレは咄嗟に両耳を押さえた。

聞いてない。オレは聞いてないっ
今のは絶対に聞いてないっ
冗談じゃねえ!!イヌに突っ込まれてたまるか!!それだったら
まだホモの方がマシだ!!!

「オイ、聞けって。シアン。なぁ、好きだ。シアン。お前、すご
い好き・・。なぁ、スゲエ優しくするから。イヤだったら途中で
止めるから。」
言いながらイヌはまたキスしてきた。
オレは耳を押さえてた手でその頭をド突いてやった。
「テメー!そんな文句どこで覚えてきやがった!!オトコが途中
で止めるワケねーだろ!!コックリングでもつけてんのかよこの
嘘つきオオカミ!!」
「お前な、オレが何年生きてっと思ってる?オレのテクでオチナ
かったヤツなんかいねえぞ?お前だってキスだけでヘロヘロだっ
たじゃんか」
「うるせえ!!オレは何でも初めてなの!!まだ16なの!!
まっピンクなの!!ちがっマッサラなの!!そんなオレを、一回
もエッチさせない気かよ!?まだ16なんだぜ?頼むから初めて
はオンナノコとさせてくれ!!」
「お前、自分の血筋とかホント理解してねえな・・。お前はオレ
とこれからずっと一緒にいるんだぜ?なんなら首輪つけさせてや
ったっていいぜ?何でも言う事聞いてやる。だがな!」
ギラリとイヌの目が光った。
「お前だけはオレのモノにする。誰にも渡さない」

唸り声が聞こえてきそうだった。

迫力。
体が強張って・・・震えるのを我慢して。グッと掌をにぎってた。
その体を押し倒される。
「ヤッ」
「逆らうな」
耳元で重圧が響く。
「ムリ・・!」
「目を瞑ってろ」
首筋をイヌの舌が這う。
「そんなっオレ、エッチしたことないのにっ」
って目を開いた瞬間。
「うわーーーー!!!!!」
思いっきり犬の腹を蹴っ飛ばした。
ドォンッと家の中をすごい音が響く。
「いっ犬はやだっ絶対やだ!!人でなきゃ絶対絶対絶対ヤダ!!!」
オレは泣きながら布団を被って叫んでた。
絶対これだけは譲れない条件だ!!
「シアン〜〜っお前・・・っわかった。練習する。人の姿で出来る
ように練習する。ならいいんだろ?オレだってお前に嫌われたくな
い。オレはお前好きなんだから。マジでやさしくしたいんだって、
な?」
って犬がオレの顔また舐めてくる。
オレはもうエグエグ泣いてて、その顔に犬がすりすりしてくる。
見つめてくる犬の目が優しかった。
「シアン。好きだから、泣くな」

わがままな犬。
自分が泣かせたくせに泣くなって言う。
でも、すりすりされて気持ち良かった。
なんか荒んだ気持ちが解れてく。
動物の不思議。

「だから、一緒に練習に付き合えよ?」





















昔々。
巫女で成した一族がおりました。
帝が射た鷹に、空の神が怒り、何日も空が晴れる事がありません。
困った帝は、地に住むアオオオカミへお願いに行きます。
巫女としては役に立たなかった少年を一人つれて・・・。









その因果から2000年。
今もその風習は続いている。









「犬だけは絶対やだ!!」
カネガナル寺裏継承者シアンの苦悩はまだまだ続く!











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