その朝、あの部屋で。

オレとワタヌキは、死ぬ程セックスした。




目が覚めると。

部屋は、太陽に染まった遮光カーテンで暗く紅く
灯されていた。
ワタヌキは机に浅く座って僅かなその隙間から外
を見ている。
その光の線がワタヌキを狙って、体を縦に刺し貫
いていた。
その肩に幾つもの爪あとがついている。
無我夢中で縋りついた体。
たぶん背中にも似たような傷が残っているハズだ。
互いを貪りあった体はボロボロだった。
オレも意識はあるのに頭すら固定されているよう
に動かす事が出来なかった。
声も出ない。
それでも、切なくて。
なんで、アンタはそんなとこで一人でいるのか。
それが、切なくて。
「セン、パイ」
出た声は、声じゃなかった。
吐く息に色がついた感じ。
だけど、ワタヌキはちゃんとこっちを振り向いて
口元を緩ませた。
途端に涙が出る。
ワタヌキはペットボトルを持ってオレの隣へ座っ
た。
「死ねなかったな」
笑ってから、オレに口移しでソレを飲ませた。
「死、んだよ・・。もう、動けねー・・」
「バッカ。生きてるよ。死ぬ程シたけどな」
目元を引っ張り上げたシーツで拭かれる。
「ナギ。本当はオマエ、誰か、わかってるんじゃね
ーのか?」
オレの額に張り付いた髪を剥がしながら、ワタヌキ
は続けた。
「言えよ。オマエが言わなくても、たぶんアキタが
調べる。オレはどっちみち知る事になんだよ。早い
か、遅いか。それだけだ」
「知って・・・どうすんの?」
「どうするかな」
トボケた返事。
答える気はサラサラ無かった。
オレは目を閉じて、ワタヌキの腰履きのスウェットを
握り締めた。
「何処にも、行くなよ」
ん。と、ワタヌキが、小さく返事した。





愛しいって事がツライ時がある。
胸を焼くってヤツ。
誰よりもアンタが好きで、アンタを大事に想ってる。
なんて言ったらアンタはどんな顔するんだろうな?
オトコのオレに、年下のオレに言われるのってイヤかな?

でも、オレ。
本気でアンタを守りたいって想うんだぜ?








ツヅキとはあれから口を聞いていない。
駅で顔を見つけても、見ないフリをしてる。
できるだけ距離を取って。
ムダなニアミスなんかしないように。
ワタヌキにバレないように。

オレは、無駄な努力ってヤツをしてた。

だって、ワタヌキはもうツヅキを知ってたんだからサ。



っていうかさ。
ツヅキがカネダ先輩みたいに強いのかどうか疑問。
いや、待てよ。帯黒かったらいくらやっぱヤバイだろ。
そうだよ。
どう考えたって、空手やってる奴なんかとケンカなん
かするもんじゃねーんだよ。
あの、ワタヌキがブン投げられたんだから。
本当、打ち身ですんでキセキ。




と、思ってた昼ぐらい。
食堂からの廊下。
「よ。ツヅキとどうかなったか?」
出会い頭にカネダ先輩は心臓を抉る。
「や、めてクダサイよ。・・・」
ワタヌキに聞かれでもしたらどうすんだ!
「なんだよ。未遂かよ?」
カネダ先輩は言ってオレに飴玉を一つくれる。
でも、今確かに小さく舌打ちが聞こえたぞ、この人。
アラシだよ。
ワタヌキが注意してる意味がわかる。
もしかすると、全部この人の差し金なんじゃ・・とさえ
思えてくる。
そう思ったらムカついた。
「オレ、アイツに何されたってどうにもなんねーよ」
「へぇ?」
「オレ、魂ごと持ってかれてるから」
カネダ先輩がニッって笑って飴玉を自分の口に入れた。
「何か、された?されなかった?」
「・・・・舐められた。けど、起たなかった」
クスクスってカネダ先輩が笑ってオレの後ろを仰いだ。
「だってサ」
血の気が引く。
振り向かなくたって、わかる。異様に重い雰囲気がオレ
の背後から漂ってくる。
「ま、ツヅキは心配する程アブネー奴じゃねぇよ。オレ
が見込んだ程じゃなかった。安心しろ。どっちかって
言うとアイツは純愛少年って感じだぜ?もしか、初恋か
もな、モリヤが」
とんでもない事、サラサラ言って、はい、サヨナラ。
うわーーーー!なんて無責任な!
オレもついに走り出そうかと思った時、グワシッと肩を
抱き込まれた。
後ろから羽交い絞めって感じに見えなくもないけど、マ
ジで抱きしめられてた。
せ、センパイ、ガッコの廊下ですけど、ココ。
「・・・どっから、聞いてた?」
「舐められたってとこから」
なんでその前から聞いててくんねーんだよ!!
「違うって」
「チガクねーだろ。噛み傷残されてたくらいだもんな」
ボソボソ言ってるけど、スゲー暗い声。
「ちょ、待って、ココ廊下デスヨ」
「もうこの際だから皆に見せとこう。オマエが誰のモン
かってな」
「・・・マジじゃないデスヨネ?」
笑えねーし・・。
「どうかな?」
既にこの短時間にさえ何人もの生徒がオレ達の脇を通っ
て行ってる。
けど、本気で、ワタヌキは手を放すつもりは無いみたい
だった。
「マジで・・・怒るぞ。センパイ。放せよ」
「放さない。舐める」
「何言ってんだよ!?」
「舐めさせろ。ツヅキにドコ舐められたんだよ」
「センパイ・・ツヅキの事、知ってたんだ・・?」
「言ったろ。どうせわかるって。オマエの事なら、何でも
オレにはわかる。そういう風になってんだよ」
まるで世の中のジョーシキみたいな言い方。
アンタ、ヤクザかなんかですか?
なんでそんなオレ流なわけ?
チクショ、あったまくるな。
でも、正直。
キた。
キてる。
縛られる快感ってヤツ?これ。
悔しくて、恥ずかしくて声が出ない。
「ナギ。指輪買おうか。ケッコンユビワ」
「バカ、じゃねーの・・・」
「ちゃんと左の薬指に嵌めて。ラウルみたいに点入れたら
指輪にキスすっから」
キザだよな、アレ。
つーかさ、ここ廊下なんだって。
ガッコの。
なんでこんなとこで、オレ。
マジのプロポーズされてるワケ?
泣いてもいいわけ?こんなとこで感動なんかしちゃっていい
ワケ?
どう考えたって雰囲気ぶち壊しだっつーの。
オレ達は透明人間になったみたいだった。
他の生徒が行ったり来たりしてる。
でも誰もオレ達に声なんて掛けないし、オレ達も他の誰も
見えない。
「ナギ、早くオトナになりてぇな」
「うん」
答えて、オレはやっぱ泣いた。
だってしょうがねーじゃん。
魂持ってかれてんだもん。

きっとオレ達明日噂になるんだろうな〜って覚悟して、
オレはワタヌキにめちゃくちゃに抱きついて泣いた。







かくして、二人で銀の指輪を買った。
ワタヌキは平気でしてる。
オレはなんとなくテーピング巻いたり、絆創膏貼ったり。
そして、噂の方はどうなったかというと。
これがまたワタヌキの「右腕」(アキタさん)の力で、
無力化している。
なんて言ったか?
オレが飼ってたハムスターが死んで泣いてたってサ。
それを親戚の兄ちゃん(ワタヌキ)が慰めてたんだって
話になってるらしいから、スゴイ。
誰が信じんデスカ、ソレ。
でも、今ってペットブームだしな。
小動物飼ってるヤツ多いもんな。
指に小さく光るソレ。
これがオレ達を完全に繋げてくれてるワケじゃない。
けど、勇気だ。
勇気を貰った。
オレらは一緒だって。
ずっと、一緒だって。





笑って言うアンタを思い出す。
「死んだら、誰にも見つからないとこに埋めてもらおうぜ?アキタに」










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