人間は生きていくのだ。

息を止めない限り 生きていくのだ。

苦しくても。

つらくても。

死にたくても。

  


唇が乾いている。

ペロリと舐めても、すぐ乾く。

そんな繰り返し。

北風の中 バスを待つ。

同じ制服の人間が同じようにそこにいる。

何度もバスの来る方向を見て、体を揺らす。

「いつくんだ。このバス」

「おい、あんま動くな。」

オレの肩に寄りかかり、左足に体重を掛ける男がオレを強く抱き寄せた。

「・・・・」

ワタヌキの右足はローファーの踵を踏みつぶし。

裸の踵を、包帯の間からのぞかせていた。

あの。

クリスマスの雪。

ワタヌキは再びオレを自転車の後ろに乗せて走った。

駅までもうそんなに距離なんかなかったのに、ワタヌキはアキタ先輩の登場に
かなり焦ったらしく、慌ててオレを引っ張って自転車を走らせた。

そして、オレの第一歩目。

自転車を降りたオレは誰かが踏みつぶした跡で、まんまと滑った。

そのオレの腕を。

ワタヌキの反射神経がいいという事をこの時ばかりは恨んだ。

自転車に股がったままのワタヌキが、とっさにオレに腕を伸ばした。

斜めになった自転車は見事に雪で滑り、ワタヌキの体勢を狂わせた。

それでも、オレの腕を離さなかったワタヌキは、一瞬、イヤな顔をしただけで、
オレを立たせると再び自転車へ股がった。

「せんぱい」

少し振り返るワタヌキ。

顔の半分は荒い毛糸のマフラーで隠れている。

鋭利な目がオレを見た。

「オナニーすんなよ」

素でした。

素で言って、ワタヌキは去って行っきました。







さて。

その彼の異常に気づいたのは、もちろん、ゴンゾーさん(監督)で。


来週に始まる大会を前に、部の雰囲気は一気に下降。

オレは死にたくなった。

ワタヌキは右足を捻挫していた。



なんで、オレが平気で、ワタヌキが怪我してんだよ・・・。

平気な顔してチャリこいでんじゃねえよ・・・!

何が自分の夢だよ!?

オレと一緒に国立出るのが自分の夢って言ったくせに!

だからクリスマスだって家に帰ったのに・・・!






オレのせいで・・・。







一人ベンチに座らされて、ゴンゾーさんの話に下向いて頷くワタヌキ。

その姿がやけに目に染みる。

足が動かない。

グランウンドがやけに広く感じた。

取り残されてく。

誰もオレに気づかずに、通り過ぎてく。

なんてちっぽけなオレ。なんでオレが・・・オレなんかのために・・・ワタヌキが

・・・。

こんなオレなんかのせいで・・・。

「おい。足止まってる、モリヤ」

背中に掛けられた声。

アキタ先輩のブッキラボウな口調。

「オレより先に休むな、ボケ。あとで、ワタヌキにチクるぞ」

背中を二度叩かれて、アキタ先輩がオレを追い越す。

「気にすんな」

顔を・・・、見てもないくせに。

オレの気持ちがわかんのかよ・・・!?オレの悔しさがわかんのかよ!?

「モリヤ」

声に振り返る。

何か自慢げに笑うキタムラがいた。

「そうんなに。ショックった?モリヤ〜・・・お前もやっぱ、(ワタヌキ)先輩信

者だったな!」

絶句した。

なんて嬉しそうな顔して言うんだコイツ。

っていうか、お前こそ信者だったら、この事態ショックじゃねえのかよ。

「先輩が・・・捻挫したくれーで・・・国立出れねえ訳ねえじゃん?」

キタムラはワタヌキを振り返る。

ワタヌキはベンチウォーマーを着て、ストレッチを始めていた。

「っていうか、むーしーろー!ワンハンデくらいで、あの人はやっと全力出せんじ

ゃねえのかな?」

なんせ、高校サッカーのキングですから。

って、キタムラは得意に笑った。

それから。

「来年もある」

そう言って、オレの背中を叩いた。

皆。

皆、思いは一緒なのかも知れない。

皆がワタヌキと一緒に。

あの世界を一緒に味わいたいと思ってる。感じたいって、皆で一緒にあの場所に立

ちたいって。

オレとは少し微妙に違うけど、オレもそれは、わかる。


そうだな。アンタはバケモンだもん。

きっと、片足でだってサッカー出来る。

キタムラの言う通りだよな。ワンハンデで丁度。



そう。怪我してても、レギュラーのアンタ。

補欠かもわかんねえ一年のオレ。

頑張ろう。

オレが頑張んなきゃ。それが、ワタヌキの願いだもんな。



力を入れて、オレはキタムラの後ろを追った。


しかし。信者はさすがに言う事が違うな・・・。







3時間の練習の後、最後までベンチに座っていたワタヌキが異様に機嫌のいい顔で

オレを手招く。

片手を伸ばして。

「連れてって」

”ツレテッテ”

聞き間違いだろうか?

今、ハートついてなかったか?・・・語尾。

オレは怯えながらも、いや、コイツを待たせるとまた違う意味での恐怖に怯えなけ

ればいけない恐怖から(笑)

ワタヌキの腕を引いて、立たせてやる。

と、ワタヌキは遠慮なく。ど遠慮無く!!

オレを抱き寄せた。

オレよりも10cmもデカイ男がオレの肩を思いっきり抱いてる。


・・・・・。


これ、どう見ても、オレがアンタを支えてやってるようには見えねえだろ・・・。

途端に緊張と動悸に襲われる。

まわりを、一年の仲間達が「っつかれしたーー!」って、皆頭下げてく・・・。

ワタヌキは「おぅ」って答えるだけで、堂々とオレに抱きついて歩き出した。

「い、いいのかよ・・・!?」

「何が?」

「ぜってえ、オカシイって・・・!」

「なんでよ?オレ、怪我してんだから誰もなんも言わねえよ。つーか、皆が逆にオ

レを狙ってる感さえあるぞ。
名誉だろ?わざわざ他のヤツ断って、お前に頼んでんだぞ?」

頼んで・・・確かに、ワタヌキにあるまじき態度だったな、アレ。

コイツが甘えるっていうか・・・そういう態度って・・・エッチん時くらいか、寝

ぼけてる時しか見た事ねえ・・。

「・・・・でも、オレのせいだもン。(だからオレが世話するのは当たり前な気す

る)」

「ハ?」

「・・・駅でオレがコケたの助けた時だろ?ソレ」

ワタヌキのガチガチにテーピングを巻かれた足を見る。

そのまま俯いたままになるオレに、ワタヌキが呟いた。

「へー・・・じゃあ責任取らせてやろっか」

イヤな感じの声に・・・顔を上げると、グっと首に回った腕がキツくなって。

ワタヌキがキスした。

すぐ離れて、だけど、また後ろから「っつかれしたーー!!」って声と数人に追い

越されて、
オレは、たぶん真っ赤になってた。

「おぅ。オツカレー」

それから、ワタヌキが笑い出す。

「超ベンリ。すっげー。オレもう我慢しなくていいんだな。シたい時にデキる!ス

ゲえー」

「な、な、なんなんだよ!?アンタは・・・!!オレ、メチャクチャ責任感じてん

のに!!
すっげ心配して!!アンタが試合出れなかったら、オレもう死ぬしかねえくれえ思

って・・!!」

ジワっと涙が浮いた。

「そんくれーで、死ぬなよ・・・。つーか試合出るっつーの。だいたいな・・。オ

レ、始め練習してたろうが・・・。ゴンゾーさんが言うまでオレ一時間くれえ練習

してただろ・・。別に歩けんだよ。
こんなんしなくても、痛くねえんだよ・・」

ワタヌキが急にオレから手を離して、スタスタと歩き出した。


ええええ・・・?な、なに、それ・・・マジ?

確かに、練習普通にやってたけど・・・始め。


「言っとくけど」

ワタヌキが背中向けたまま歩いてく。

「あの時じゃねえよ。オレがコレやったの」

言ってワタヌキが軽く足を振る。

「家の前で、出て来たガキとぶつかりそうんなって、それかばった時やったんだよ

」

「・・・」

「小学生のガキ」

「・・・・」

「雪合戦してやがってよ・・・」

「・・・・」

ずっと振り返らないワタヌキ。

ウソっぽい気がした。


・・・薄暗れえあの時間で・・・小学生が雪合戦かよ・・・。


「だから気にすんなよ。お前が」

ワタヌキが下向いて、足首をふりながら言った。




同じ台詞をオレは二度聞いてる。

そうだ。あの人は”気にすんな”って言ったんだ・・・。知ってたんだ。

いや、ワタヌキがわざわざ言うはずない。あん時、後ろからオレ達を見たのかも知

れない。

「返事しろよ」

ワタヌキがこっちを見た。

「わかったのかよ?」

睨んでくるワタヌキに、声がこわばった。

「オレ・・・どうしたらいいの?」


そのウソが本当だったら良かった。でもソレ、ウソじゃん。オレ信じられねえもん

。

オレ、どうしたらいいよ?


「お前な・・・」

「オレが怪我すりゃ良かった!オレなんか試合出れなくたって誰も困んねえのに!

!」

ワタヌキが眉間しわ寄せて、すげえイヤな顔した。

「オレが・・・。スミマセンでした・・・!オレのせいで・・・!」

オレは思いっきり体折って礼した。

そしたら涙がポタポタって地面に落ちた。

「ウソじゃねえよ・・・信じろよ」

「信じらんねえ。アンタがそんなマヌケするわけねえもん。一人だったらぜってえ

怪我なんかしねえよ。アンタなら」

強く瞬きして、涙振り落としてオレは顔上げた。

目の前の男を見る。

出来るなら代わりたい。

超魔術とかスピリチュアルとかなんでもいいから、オレにその怪我がうつればいい

。

「なら、来いよ。証拠にそのガキに会わせてやるから」

ワタヌキがまたオレの肩を抱いて歩き出す。

しっかりとした歩調だった。それがムリしてたのかもしれないけど、少しだけオレ

の気持ちを軽くしてくれる。






ワタヌキの家があるマンション。

もう暗い時間で明るい街灯が等間隔に光る。

「いいのかよ?急に行って・・・」

マンションのエントランスで振り返るワタヌキ。

「ああ・・・一回電話する」

ワタヌキの後をついてワタヌキの家へ入る。

靴を脱いで一歩上がったところでいきなりワタヌキが振り返った。

「え」

言えたのはそれだけ。無茶苦茶に舌入れらて、抱きしめられた。

「ナギ」

ワタヌキがケモノみたいだった。

力づく。

オレは逃げようとなんかしてないのに、ゼッタイ逃がすか!ってくらい必死にオレ

を抱きしめて。

抱きしめながら拘束してくる。

「ちょ・・や、まてって・・・!」

「ナギ・・・お前が悪い。のこのこついて来やがって・・・っ」



ノコノコって!!


「まった!まった!!小学生は!?」

「ガキにこんなとこ見せられるかよっ」


そりゃ、そりゃ、正論なんだけどさ!!


袖の抜けきらない茶色のブレザー、それがオレの体を床に縫い止めてる。

「この・・・!ウソツキ・・・!!」

ハダケてくその場所から口付けられて、体がしなった。


ヤバい・・!

オレら・・・何日ぶりだっけ?

自分で濡れてるのがわかる。

チンポの先がぬめってる。

「ヤバいって・・・!」

「オレもだよ。もうガッコでお前にキスしてからヤバかった」


なっ・・計画的犯行かよ!?テメ・・!!


胸から腹、ヘソ。全部舐め回されて、もう力が抜けきってた。

「ワタヌキ・・・」

ワタヌキの手がオレのベルトにかかる。

妙に響くガチャガチャ音。

それから。

「出てんじゃん・・・」

ワタヌキの一言で、一瞬で顔が赤くなる。



そうだよ!オレだってずっとシたかったよ!!メチャクチャ我慢してたんだよ!!

そりゃ、我慢汁も我慢できねえよ!


「あっ」

強く握られて。

その先端を。

熱い舌が襲う。

一瞬ザラリとした感触。腰が思わず跳ねた。

それから、しつこく繰り返して来るワタヌキのベロ。

「だ、ダメ!マジ、オレしてなかったからっ・・センパイ!」

手を伸ばして、その手を握られて、今度はチュって高い音。

「あああ!」

イク!イッチャウ!!

吸い付くワタヌキの口が動く。

「はっはっはっ・・・・!ああ、・・・う、あああ!!」

腰が震えた。

まるで吸い上げられるように、精子が吹き出した。

まるでストローで吸われたみたいだ。

全部飲み干されて・・・やっと、ワタヌキが顔を上げた。

「センパイ・・・」

ボーっとする頭。

ワタヌキに手を伸ばす。ギューって抱きしめられる。

抱きしめられながら・・・ワタヌキのチンポがオレの入り口をつついた。

「そ、んな急に・・・はいらねえって・・・」

「そうか?」

グっと押し付けられる熱。

が、ムクりと中へ入る。

「あっ・・う、そ・・・!」

「入っていいってよ?ホラ」

ぐぐっとワタヌキがもっと入って来る。

「あ・・あッ・・アツ・・・!!うぅ・・っ」

「欲しかったよな?」

なんて事聞くんだよ・・・コイツ!

オレの両膝広げて、ワタヌキはオレの上へ被さって来る。

耳に首に顔に額に。

キス。

キスしながら。

「ずっと。欲しかったナギ」

それからゆっくりワタヌキが動き出した。

一度引いて、またクる!

ああ、またソコ打たれたら・・・オレ!!

ヤバい快感がクる。

痺れるような、体が張りつめるような快感。

その動きと一緒に、ワタヌキの声が聞こえる。

ナギナギってオレの名前だけを呼ぶワタヌキの声が・・・。

メチャクチャシアワセなジカン。

あんたがオレに夢中になってくれる。

それが、なんてシアワセなんだろう・・・。

目を閉じて・・・勿体なくなって、また開く。

汗だくになって動き続ける男を、見るために。

「欲しかったよ・・・アンタが・・・」

ワタヌキのうつろな目がこっちを見た。

噛み付くように開いた口、その中で再び舌を絡め合った。







次の日の朝。

結局オレはワタヌキのベッドであの後、大爆睡。

小学生より早く家を出なければならないオレら。

「なあ、どこの子かくらい教えろよ・・・」

エントランスで振り返ったワタヌキは、郵便受けを無造作に一つ指差した。

表札はない。307の数字だけ。

それをジっと見つめていると、ワタヌキがオレの腕を取る。

「心配すんな。いくらオレでも、小学生シメたりしねえぞ」


!!

その台詞がいかにもっぽくて騙されそうになる・・・。

っていうか・・・本当は・・・本当に?

 

オレが混乱してると、ワタヌキがまたオレに寄りかかる。

「今日から、堂々と、ベタつけるな」

その嬉しそうな顔に、なんだかどうでも良くなってくる。


そうだよな・・・助けになれればいいんだ・・・。オレがどんなに後悔したってし

ょうがねえんだもん。

「足、あんまつくなよ・・・」

ワタヌキの脇に手を入れる。

ワタヌキが笑う。

いいよ。笑えばさ。

苦しくったって、死にたくなったって、アンタが笑ってるの見たら。

オレ。生きてけるし。




12月30日。

全国高校サッカー選手権大会開会式。

大会二日目第2試合3−1で勝利。

三日目第1試合0−0。

PK負け。


これがオレとワタヌキ、初めての冬の結果だった。

ベスト16止まり。



また、来年を目指す、一年が始まった。

それからワタヌキの足は試合後、腫れ上がってしまった。

誰もワタヌキが怪我していたなんて思わなかっただろう。



「・・・センパイって実はM?」

これから、バスに乗り、オレは毎日ワタヌキの通院の付き添い。

ワタヌキはちらりと目だけでオレを見る。

それから白い息を吐いて。

「・・・・かもな」

「・・・だよな」

堂々とオレらは肩組んで、半笑い。

今度はしっかりとオレに体重をかけるワタヌキが耳元で言った。

「早くお前の飲みたい」

この後、バスに乗るオレの歩き方がおかしかったのは言うまでもない。












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