「スミマセン。あの〜、ワタヌキタツトさん、ですか?」
ガッチガチに緊張した声が真後ろから掛かる。
たぶん、もうずっと後ろにいて声を掛けあぐねいていた感じだろう。
新入生歓迎会が終わった後、校内は、自由に探索する一年で溢れかえっていた。
その間、もちろん2、3年生は部活動の勧誘に勤しむ。
もちろん、自分も例に漏れなくサッカー部の模擬試合に出るべく部室へ向かう途中だった。
「何?」
振り向くとパリっとした制服の二人組みが目に入る。
「うわ〜、握手、いいっすか!?」
「・・ああ」
断るのも面倒で右手を差し出すと、いかにもなサッカー小僧は、目を輝かせて手を握り締めてきた。
「握手したってサッカー上手くなんかなんねーぞ」
「ワハハッそうですネ」
本気だったんだが、冗談にとられたようだった。
「新一年の北村です。ヨロシクお願いしまッス!」
・・・”新”はいるのか?
「お前は?」
そいつは、北村の少し後ろで、この様子を冷めた感じで見ていた。
「あ、オレはいいッス。」
握手の事と思ったのか、顔の前で手を振ってくる。
「バーカ。名前聞いてんだよ」
「あ、森谷です。」
バツが悪そうに答えて、チラっと見上げてきた。
長めの前髪と、綺麗な眼。奥に吸い込まれそうな黒。元々がそうなのか、水っぽい瞳だった。
下唇の膨らみ具合がそそる。
何かシたらすぐ泣きそうだな。
予感がして背筋がゾクリと震えた。
「これから部室行くけど、来るか?」
「ハイ!行きます!」
「えっオレ、いいよ。滝達と約束あるし」
即答の北村に反して、森谷は慌てて首を振った。
「えー!付き合えよ〜っ上稜高校の部室見れるんだぜ〜!?」
「んなもん、部活始まったら毎日見れんだろ〜」
森谷は、北村のテンションに呆れた声を出した。
そりゃご尤も。だけど、オレはどっちかと言うとお前を連れて行きたいんだよな。
「モリヤ、・・・・来いよ。」 一度、目線を落としてから、たっぷりと見つめ返す。
「・・・あ、でも・・」
チッこのガキ!このオレがこんなにも情欲に満ちた瞳で見つめてるってのに・・。
返ってきたのは困惑の表情だった。
ま、ガキ相手じゃ通用しねーか。
「じゃ、いいわ。またな、一年生」
さっさと踵を返す。と、後ろから情けない声が上がる。
「あ、そんな、先輩〜!」
そっと振り向くと、きょとんとした森谷の顔があった。
ふ〜ん。
一応気づいてたって事か?
なのに、オレの退きの速さに、唖然ってとこか。
それだけわかれば良しとしよう。


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