いつの間にか、サッカー部の間で、
”あの王様が、謝った相手”
という、なんか微妙に怖がられる地位にオレはいた。

一瞬、変なウワサが立ってるって聞いて、ビクついたオレは
大きく溜息した。
なんだよ!そんな事かよ。
オレはまた、オレ達がデキてるってバレたのかと思ったぜ?
だって、アイツたまに部活中に傍に寄ってきて話かけて来た
り、自分が飲んだ後のポカリ(部活共用給水ボトル)バスし
てきたりするから、少しヒヤヒヤしてた。
しかも今日なんか堂々と一緒に帰ろうとか言うし。
人前だと、なんかやたら照れるんだよな・・。

「って、知ってたのかよ」
オレ達はすっかり暮れた空を背にしてチャリを走らせていた。
「ああ、秋田が前に吹いてたからな。そのせいだろ」
「秋田・・・さんて、あの時話しかけてきた?」
「ああ。なんて言ってたかな・・・遠い親戚同志とかなんとか、
しかもヤーさんが血縁に掠ってるとか」
「は?知らねー!何デスカ、ソレ」
「あんまり聞かれるから吹いたらしい。アイツ面倒になると、
オレをヤーさんにすんだよ。そうすっと皆、引くだろ」
「たいしたヒトだな〜。超テキトー」
信号待ちでチャリを止めると、後ろからワタヌキが指を差した。
「あ、待て、アッチだ。今日はウチだろ」
「あ、アッチねって、オレ道知らねーもん。そろそろアンタ漕い
だら?」
「自分で漕いだ方が覚えんだろ」
そう言ってワタヌキは相変わらずオレの肩に肘を乗せている。
今日はワタヌキの家に初めて行く。
って、ついさっき決まった。
しかも泊まりだ。
でも、別に何も構える必要はなかった。
ワタヌキはあの無理な挿入以来、オレに挿れようとしない。
ここんとこのオレ達は、ひたすらに、抱き合ってキスして、気持
ちよくなる。それだけ。
「・・兄弟とかいる?」
「いねぇな。親は遅いから顔合わせんのは朝かもな」
「フーン・・」
「あ、アレ。あのグレーのマンション」

割りとこじんまりとしたマンションだった。
下町には似合い風の低階層。
ワタヌキの家は一階だった。エントランスを抜けて、その突き当
たりのドアを開けると芝の中庭が開けていた。
それも横切って、ワタヌキは曇りガラスの嵌ったドアを目指した。
「入れよ」
玄関に入って、螺旋階段が眼に入る。
ここ、マンションだったよな・・?何で部屋の中に階段があるんだ?
ワタヌキはさっさと、その階段を昇り始めた。
「二階あんの?」
「ああ、そう。ウチだけだけどな」
「スゲー、・・親、金持ち?」
さぁ?このマンション建てたのはウチらしいから、いいように作っ
たんじゃねーの」

「・・・マジで、ボンボンかよ・・」
呟くオレにワタヌキが振り向く。
「何か言ったか?」
「イエ。」
ワタヌキは部屋に入ると、制服を脱ぎ出した。
肉の締まった背中。
オトコの背中が綺麗だなんて、今まで思った事も無かったのに。
ふと、視線に気づいたのかワタヌキが近づいてくる。
「何、見てんだよ?」
顎を掬われて舌が強引に唇を割る。
ネクタイもベルトも外されて、ベッドに押し倒された。
「センパイ・・・」
「指だけ」
ソコを触られるのは久しぶりだった。
「アッ」
指なら、簡単に奥まで許してしまう。一発でオレのポイントを見つけると、
グリグリと押し上げる。
「ーーヒッ」
息を呑むような悲鳴が口から零れた。
「モリヤ・・・緩くなった。すぐ指増やせそうだな」
唇は胸を這いながら、ゆっくりと下がっていく。
予告通りにワタヌキは指を増やした。入り口でグルグルと回転させてから
そっと這入ってきた。
今まで感じた事のない感覚が生まれる。指の動きにゾクゾクと鳥肌が立った。
犯される。
そう感じると、余計に興奮してくる。
それは、ワタヌキも一緒だった。
「ハーーーーッ・・やめるか・・。」
ワタヌキは盛大な溜息をついて指を引き抜いた。
「えっ!?なんで!?」
「ヤバイ。オレ。マジで止められなくなる。ワリィ。シャワー浴びてくる」
ワタヌキはそう言うなり、バタバタと部屋を出て行ってしまった。
「・・・なにソレ・・」
置き去りにされたオレは一気に萎えた。
確かに体を繋ぐのを拒否してるのはオレだが、そんな逃げ方ってアリ?

結局、その夜、ワタヌキは、オレと眠気が来ないままベッドに入ったが、オレを
後ろから抱きしめるだけで、何もしなかった。
微妙にオレ達、気まずくないか?
我慢して一緒にいるなんて、キングらしくない。
どっちかっていうと、家にオレを呼んだ事、後悔してる気がする。
それでも、オレ達はいつの間にか眠り込んでた。緊張もピークに達してた。
眼を開けた時、何かが変わっている事を祈った。

次の日、オレは、ワタヌキのシャツを借りて、登校した。
朝練の後、それを見破る人物に声を掛けられる。
「秋田サン・・」だ。
「どう見ても、袖長すぎ。少し折っとけよ。しかも、あのバカッ・・」
秋田サンがオレの首裏に手を伸ばす。
っていうか、ワタヌキをバカ呼ばわりするヒトって初めて見た。
「ここ。他の奴に見られたらどうすんだよ」
言いながら、手は自然にオレのタイに掛かる。キュっときつめに締められる。
「何スカ?首?」
と後ろを向くと、そこでワタヌキが不機嫌に顔を顰めている。
「あ・・センパイ・・」
「触ってんな。・・目の前にいれば、我慢なんてできねーんだよ」
「ハイハイ。絆創膏、持って来たんだろ?」
秋田サンはワタヌキに向かって手を広げた。お手って感じに。
その手をワタヌキが叩き落して、自分で絆創膏を剥くと、オレの首に貼り付けた。
まさか・・、キスマーク・・ついてる?
「朝練の時びびったぜ、マジで。森谷ジャージ脱がなくて正解だったな」
二人は並んで歩き出した。オレも習ってついていく。
「オレが脱ぐなっつったんだよ」
「確信犯かよ」
「アホか。別に当てつける相手なんていねーよ」
「だな。根性で我慢しろよ」
「我慢てお前、した事あんのかよ?普通じゃねーぞ。もう、オレは我慢しねぇ。」
「それで、こんなおイタかよ。森谷、いい迷惑じゃねーか。お前、マジで吹くぞ。」
圧倒。
最強コンビだ。
とてもオレが口を挟める隙が無い。
「モリヤ、保健室行くぞ」
階段の脇でワタヌキに手を引かれた。
「はい?」
「オイオイ、学校でくらいは我慢しろよ」
「バーカ、オレら昨日あんまり寝てねーんだよ。フラつくっつの」
秋田サンはケラケラと笑ってオレの肩を引き寄せた。
「ご愁傷様」
トンッとオレの背中を押すと、階段を昇って行ってしまった。
「・・・知ってる、んだ?」
「あー、アイツには初めからバレてた。行動が不審だって」
確かに、そうかも知れない。
友人と一緒に帰らなくなったり、度々、授業をさぼったり。仲のいい関係だったら
気づかない方がおかしいかも知れない。

しかし、どうもオレには、秋田サンが味方には思えないんだよな・・。
白いベッドに横たわって気づく。
ワタヌキに似た毛色の獰猛種に出会ってしまったような気分だと。


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