関東大会が近くなり、レギュラーの練習メニューは試合形式
のものばかりになった。
二年(補欠)対レギュラー。
ゴンゾーさん(監督)は選手を煽るために、下克上を押して
いる。
絶対有り得ないのに、一年にだってチャンスあるからな。
なんて言う。

アホらし。
そこまでうぬぼれちゃいねーぞ。

初めは二年対レギュラーでやった試合も、次は、混合紅白戦。
二・三年がベンチへ戻って来て、ビブスを交換する。
オレ達一年はタオルとポカリを廻したり、スコアをつける。
そこで、ゴンゾーさんがオレの名前を呼んだ。
一瞬、オレはワタヌキを見つめ、アイツもオレを見た。
「モリヤ、お前、あっちで旗。」

なんだよ!審判かよっ

オレのがっかりな顔を見てワタヌキが噴出してた。
オレは一度、朝練をさぼってから、ゴンゾーさんに名前を覚え
られて、何かあると呼びつけられるようになってしまっている。

試合は25分ハーフ。
ピッチに陣を広げると、選手は笛を待った。
オレは赤側のラインに並んで、ワタヌキを見てた。
サッカー程柔軟性のいるスポーツは無いんじゃないだろうか。
どんなに練習を重ねたって、試合は同じように運ばれる事は無い。
右から上げようが、左を使おうが、相手の11人次第で、何もか
もが変わってしまう。
練習と同じ戦術が試合で使えるかと言ったら、使えないだろう。

つまりは感だ。
感を養う。
世界を見る。
状況を把握する。
一瞬の判断力。
サッカーは球をキープするだけじゃ勝てない。

ワタヌキのいる白組がゴール前に駆け込んでくる。目の前でワタヌキが
舌打ちした。
球はゴールラインを割ってコーナーから。
すると、ワタヌキがオレの方へ走ってくる。
オレは、足元のポカリを取って、差し出してやった。
ワタヌキは何も言わず受け取って、口をつける。
向こうでは、球拾いの一年がコーナーに、拾った球をセットしている。
それに誰も近づかず、ワタヌキが蹴るのか、皆がこっちを見て待っ
ているようだった。
「好きか?」
ポカリを受け取ろうと手を伸ばして、聞かれたセリフに顔を上げる。
「え、ポカリ?」
「バカだろ(お前)」

うわ〜怖い、マジツッコミ。

ポカリを受け取っても、ワタヌキは袖で口元を拭ってまだそこにいる。
「皆さんお待ちのようデスガ」
「オレの事、好きだろ?」
!!やばい、一瞬で耳まで赤くなった気がする。
「・・好きだよ」
答えないとここにずっといられそうで、だけど目を見ないで答えた。

ああ〜恥ずかしいっ皆がこっち見てるっ聞こえてないと思うけど。

満足したのか、ワタヌキは頷きもしないで、走って行く。
アイツ最近、オレにこういう意地悪して楽しんでいる気がする。
試合再開。
ワタヌキのコーナーキックは誰にも触られずに、ダイレクトにゴール
へ突き刺さった。

ヨシ!!

白が先制。
選手がゆっくり走りながら元のポジションへ戻っていく。
その中で、オレの方へアキタさんが走って来た。
「モリヤ〜オマエ露骨にガッツポーズ取るな、後でファックの刑〜」
オレの前でスピードを落とし、怖い事を淡々と言って通り過ぎていく。
「ファッッ!?」
叫びそうになって自分で口を塞いだ。
だがそのすぐ背後にはワタヌキ。
「聞こえてんだよ、テメ。バックから刈るぞマジで」
「それ一発レッドだから。じゃ、お前(ファック刑)執行人に決定。オレ裁く
ヒト。お前ヤるヒトね」
二人はクスクスと笑いながら走り去って行く。

・・・・絶対、カラカワレテイル。
オレで遊んでるだけなんだよ。このヒト達は!

もう一度言っておこう。
もうすぐ関東大会。
部の雰囲気は緊張気味。

あの二人だけを除いて。


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