朝。
すっかり朝練も始まっている時間。
ノロノロと重い腰を起こす。

オレの毎日は、一つ下のオトコ二人にヤラれまくる
毎日。
イヤ、毎日シたがるのはアイツ、カネダだけだった。
オレのケツをサイコウだと言って掘る。
場所はどこにだってある。校庭でだってヤる。
ほんの少し体が隠せれば何処でだってヤられる。
本気の頭のイカレタ奴。
いつか、吊るしてやる。

階下からはいつもの朝の一場面が繰り広げられてい
る。

「ケイ、まだ居たの?」

ダイニングテーブルには、仲の良さそうな三人親子
が朝食を囲んでいる。
オレの存在がそんなに驚くような事なのか、母親は
唖然とした顔でオレを見つめた。
一つ下の弟は、オレを見るとうんざりした顔で牛乳
に手を伸ばす。
「寝ボウ」
「ダメじゃない!朝練ちゃんと行かないと!何のた
めに、あんな私立に行かせてると思うの?」

あんな私立。
はいはい。
どうせ、オレは球蹴りしか能が無いガキだよ。

「コウちゃんみたいに、推薦もいらないでいい大学
に入れそうな頭がアンタにもあれば、こんな事、言
わないわよ?でも、アンタはそうじゃないでしょ?
頑張ってサッカーの推薦とって大学行かないと、皆
から取り残されちゃうのよ?ウチにはフリーターと
か、プーなんて人いらないんだから。しっかりやっ
て頂戴」
最後は顔も見たくないって感じに、フイとテレビへ
視線を変えた。
父さんは何も聞こえないみたいにさっさと飯を食っ
て、席を立つ。

うんざり。
コウキ、オマエもそう思ってるだろうけどな、オレ
の方がその何倍もこの家にうんざりしてるんだよ。

一歩家の外へ出ると開放された空気が余計に自分を
惨めにさせた。
何処にもココロの置き場が無い。
オレにあるのは何処にでも行けばいい、自由。
”あんな私立”に通わせてもらってる自由。
あの家に、オレは「いらないヒト」。
盛大に溜息が零れる。
朝練に出れないなら、もう学校に行く気も失せてく
る。

あー、面白くねー。
放課後までブラブラするか。
ゲーセン行って、本屋行って、スポーツショップ行って。

ガッコの最寄駅の改札を出た時だった。
「ねぇ」
オンナの声。
オレに掛けられた声とは思わず、通り過ぎると、声はし
つこく追いかけて来た。
「ねぇ、ねぇ」
面倒くせぇからシカトして歩き続けると、
「ねぇってば!」
最後には制服の肘を引かれた。
ガクッと肩からエナメルバッグが落ちて、オレはソイツ
を睨みつけた。
「そんな睨まないでよ。ねぇ、ヒマなんでしょ?アタシ
もヒマなんだ。遊ばない?」
どう見ても、カツラ(金髪の)。
コスプレみたいな裾の短い制服。中に着ているポロシャ
ツからは臍が見えてる。
「暇じゃねーから」
今の気分で知らないヤツとつるむ気になんてなれなかった。
しかもオンナ。

冗談じゃねーよ。
なんでオレが相手してやんなきゃなんねーんだよ。
オマエらワガママすぎて付き合ってらんねーんだよ。

並んで歩こうとするオンナを引き離すように歩幅を広げる。
「なんか、わかるんだもん。アタシも、皆死ねって気持
ちだから」
思わず、振り返ってしまう。
ソイツはオレの顔を見て、嬉しそうに笑った。
「ちょっとでいいから一緒にいてよ」
スルっと腕を組んでくる。
柔らかな体が密着してきて、思わず体が強張った。

こんな、バカそうなオンナでもいい匂いがする。
傷舐めあうみたいで趣味じゃねーけど、こんなのもアリか。

「オマエ、本当に高校生?」
「マジ失礼だよ、ソレ」
カラリとした笑いが口から零れた。サイアクな底辺からコン
マ何cmか浮上した気分になれた、その時。
「センパイ、何してんの?」
胸を刺すあの声がオレの心臓を止める。
「なんで・・・」
目の前に歩いて来たのはサッカー部の後輩アキタセイジ。

オレを犯したもう一人のオトコ。
いや、輪わしたオトコか?

「今日、ワタヌキが来ないからオレもサボり、センパイは?」
アキタはオレと話しているのに、視線はオンナに向けたまま
イヤな笑みを浮かべて、オレに答えさせる暇も与えずに続けた。
「まさか、こんなブス相手にハメる気じゃねーよな?つーか
高校生じゃねーだろ、オマエ」
「ヒド!!もういいよ、バイバイ!」
スルリと腕が抜けて、ソイツはまた駅の中へ入って行く。
「センパイ。行こ」
くるりと向けられた背中。
付いていく事に迷いはなかった。
少しだけ、体温が上がる。
それは、たった一人で、オレの前にいるアキタのせいだ。

着いて、入ったのはフロントにカーテンの掛かったラブホ。
小さな窓から鍵が滑り出てくる。
鍵を取ったアキタがオレの手を握ってくる。
たぶん、オレが逃げないように手を繋いでいるんだろう。
そんな事しなくたってオレは逃げたりしないのに。

「アキタ」
呼ぶと、アキタは答えずに笑みを浮かべる。
これから。
セックスをする。
たぶん。いや、絶対。
ここはそのための場所だ。
そう思うと急に緊張してくる。
オレ達は二人でシた事がない。

エレベーターに乗り、5階で降りる。
足音を吸収しそうな絨毯が引かれた廊下の先。
濃紺のドアを開く。
壁と天井一杯に流星系の絵が描かれている。
大きなベッドには真っ黒なシーツがかけられていた。
アキタは、上着をソファに放ると、ベッドに浅く座って
後ろに手をつく格好でオレを見上げた。

本当に二人きりで?

オレはアキタがいつアイツに連絡を取るのかと、ハラハラして
いた。
いや、実は既に、アイツを呼び出した後かも知れない。
きっと後からアイツが来るんだ。
もしかすると、また何か妖しいモノを持ってくるのかも知れない。

「アンタ、ドーテーだろ」
グサリとくる事を前フリも無くアキタは口にする。
ズボシとかそんな問題じゃない。呆れてモノも言えない。
「でなきゃ、あんなタカリ女、シカトするハズだもんな普通。
見る目、なさすぎ。センパイ」

タカリ?

「金なんてねーよ。見る目ねーのは向こうだろ」

じゃ、オレ、もしかして、奴の仲間のとこにでも引っ張られて、
ボコにされるとこだったって事?

サイアクの底辺の世界はソコが深い。落ちても落ちてもまだ下が
ある。今オレは地下何階層にいるんだろう。

「センパイ、女なんて知らなくたって平気だよ。セックスならオ
レ達とすればイイ。女なんかフツウだよ。オレはセンパイとの方
が何回もイケるしね」

”オレ達”

やっぱり、呼ぶんだ。いや、呼んであるんだ。

オレのいる階層は底も広いが横にも広そうだった。
這い上がるための壁も見つからない。
オレは制服のボタンを外した。シャツもタイも放り投げる。
ベルトもズボンも勢いで外し、下着も叩きつけるように脱ぐ。

アイツが来る前に、ヤればイイんだ。
アイツが来る前に、一回くらいはイケるかも知れない。
一回くらい。
ちゃんとオレで、オレの顔見て、オレだって認識してイケばいい
んだ。

アキタは薄ら笑いを浮かべてオレを見上げてる。
オレはアキタの膝に跨って、アキタのタイを抜いた。
その時、アキタの手がサッと動いた。
耳元に、単調な電子音と発光。
表示はカネダ。
力が抜ける。
燃え上がった瞬間に消火された気分。
オレはアキタの上から退いて、ベッドへうつ伏せに倒れた。
「あ、オレ。うん。ああ、一人。じゃ、昼に戻るワ、ああ」

一人?
誰が?

「カネダは来ない」
思わず振り向くと、その顔に手が添えられて唇が付けられた。
キス。
キスだ。
オレは、アキタがカネダとキスをしてるのをサンザン見てきた。
アキタはオレに突っ込みながら、カネダにキスされてイク。
いつだって、アキタはオレを見ちゃいない。
オレはカネダの替わりにケツを掘られてるだけ。
アキタにとってオレはケツしか用がない。

ハズだ。
でも、今、アキタは、オレにキスしてる。

目を閉じてても涙が出そうだった。
慌てて体を捩って、俯いた。
「は、早くヤれよっ」
「何、センパイ・・・耳真っ赤」
その耳にアキタの舌が入れられる。
ゾクっと体の中を震えが上から下まで走る。
アキタの指がオレの背中を辿り、落ち、肉の狭間で食い込ませる
ように動いた。
ツプ、と肉は受け入れる。
もう指のように細いモノじゃ、ケツの締め付けで動きを止める事
も出来ない。
同様に、中にモノが入ればオレは我慢が出来なくなる。
もっと欲しくなって、足が勝手に開いていく。
カネダが誉める調教済みのカラダ。
「アッ、・・アキ、タ」
アキタの唇が肩をねっとりと舐めつける。
こんなにまともにアキタに愛撫されるのは、初めてだった。
ジェルも何も使ってない。
だけど、濡れた音が聞こえる。
ダメな程感じてる。
心臓に血が廻らない程オレは勃起してた。
グッチャグッチャに中を掻きまわされて、チンポの先が口を開ける。

だめだ・・。イキそう!

「早く、アキタ! 早く挿れて!」
涙声になりそうで叫んだ。
アキタの指が引き抜かれる。
「センパイ、やばいって、・・何かいつもと違いすぎ・・。かわいく
見えるよ?」
「ア!!アーーーーー!!」
アキタがオレの腰を強く掴むと、一気に押し込む。
一度もつっかえずに、奥まで届く。
チンポが堪えきれない涎を垂らして、真っ黒なシーツに染みを作った。
「アキ、タ。」
アキタは奥まで挿れるとすぐに、ピストンを開始する。
アキタのピストンは殆ど引き抜かないピストン。
腰をピッタリくっつけたままで、まるでアキタのチンポがどんどん
くっついているのに、もっと奥を犯されていく。
「アッ・・アッアッンッンんんッ」
激しく突き上げられて、もう噴出す寸前だった。
「センパイ」
右肩を持ち上げられ、くるっと回転させられる。
「ンーーーー!!!」
「あアッ・・っつぅ。やべ、今のスゲー」
繋がったままひっくり返されて、目の前にアキタが見えた。
目尻が熱い。
雫が線を引いて流れた。
「何・・・泣いてんの・・」
アキタは訊いてるクセに、答えは知ってるって顔で笑う。
もう一度、唇が合う。
上も下もぐちゃぐちゃに繋がってる。
舌が絡み合わされてオレは射精した。熱い体液が二人の間に飛び散る。
キスがあるセックス。
このキスは、一生忘れられない。
人間にこんなに優しい接触方法があるって初めて知った。
アキタ。
アキタ。
アキタ。

「イク。イキそう・・・・ケイ、タ」
名前を呼ばれて、手を伸ばした。
その手を握り返されて、シーツに押さえつけられる。
アキタの腰が激しく突き上げてきた。
ビタビタと打ち付けられる音が響いてから、アキタが震えた。
熱い刺激を腹の中で感じて、はじめて。

ナマで出された事に、気づいた。

そのセックスは、愛し合ってするセックスに似てた。








昼前にホテルを出た。
アキタは誰の目も気にしないで、オレと手を繋いで歩いた。
オレももうどうでも良かった。
ヒトの事なんてどうでもいい。
今、アキタがオレを必要としてくれるなら、何でもしたかった。
「もう、やめよっか」
息が止まる。
いつだって、アキタの喋り口は唐突すぎる。
「釈放。もう、悪い子しちゃダメ。次はもっと怖いよ?」

シャクホウ。
どんな字だ?
アタマがまわらない。

でも、もうこれで、最後だって事だけはわかった。

「・・・ひでぇよ・・。こんなにしといてオレ放っぽり出すんだ・・」
また一つ階層を降りなければならない。
オレの足元は穴だらけだったんだ。
前を向いたまま、アキタが笑った。
「・・オレなんて球蹴りしてなきゃ碌でもないヤツだよ、センパイ」

球蹴り・・。

ハッと笑いが出た。

”だから、オレなんてやめとけ”って?

不審にアキタが覗き込んでくる。
「オレと、同じ事言ってる、オマエ」
見つめ返すと、アキタの眉が上がった。
溜息と一緒にオレは吐き出した。
「またか・・」
「何?」
「また、オレに残されたのはサッカーだけになったって事だよ」
オレはアキタの手を放して、立ち止まった。
「センパイ」
「行けよ。行っちまえ、アホ」
アキタは一瞬痛いような目をしたが、クルリと前を向いて歩き出した。
その背中が滲んでいく。

なんだったんだよ?さっきのセックスは!
なんであんなやさしくしたんだよ!
あれで、チャラにするつもりだったのかよ?
サイテーだよ、オマエ。
期待させやがって、誰が大人しくなんかしてやるかっ
また、イジメてやる。
オマエのモノ、全部盗んでやる。オマエのロッカーにペンキ塗ってやる!

シャツの袖で顔を拭った。再び、目を向けると、アキタが振り返って
見ている。
そして、どんどん戻ってくる。
「泣くなよ・・・、センパイ」
アキタの手がまたオレの手を掴んで、引き寄せた。
「オレさ、・・シチュエーションに弱いんだよ・・。そんな風にされた
ら、置いてけねーよ」
「なら、始めから置いてくな!置いてくなよ!!」
オレは力一杯アキタの体にしがみついた。
「うん。置いてかない。・・でも、・・もうカネダには付いてっちゃダメ。
アイツは自分しか愛してない。オレも自分がそうだと思ってた。
でも、さっきから」
アキタはオレの背中を摩りながら呟いた。
「アンタが・・・かわいく見えて、オカシイんだ・・オレ」
真昼間の裏道で抱き合ってオレ達は勃起した。
さっき、ヤれるだけヤった後だったけど。







そうして、オレの愛の無いセックスは終わった。

アキタの言う通り、カネダはオレを手放す事に拘りはなかった。
「ふーん。残念。センパイって、なんだかんだオレの事好きなんだと
思ってたのに。だって、アレが疼くとオレんとこ来たじゃん。ああい
う時のアンタすげーかわいかった」
「誰が!」
一歩出ようとした肩をアキタが止める。
「センパイ」
アキタの目が諌める。
ここで食いつくとカネダの思うツボ。
オレは舌打ちして、顔を背けた。

マジのSめ。一生ヘンタイやってろ!

「カネダ、オレも悪いコ卒業するから。拾った子猫は責任持つから安心
しろ。じゃな」
背中を押されて、オレは歩き出した。
「チッ結局おとせなかったって訳かよ」
腕組したカネダの顔から笑みが消えたが、アキタはカラカラと笑って答
えた。
「言ったろ、オレは突っ込み専門だって」
「テメーこそ、泥棒ネコっつーんだよ」
「ニャ〜オ」
「アキタ!」
「バイ」
カネダはオレなんかより、よっぽどアキタが惜しかったみたいだった。

アキタが欲しかったカネダ。
快感が欲しかったアキタ。
意地張って、アキタに縋らなかったオレ。
(そのせいでカネダにサンザン掘られたオレ)
レイプ(セックス)してるうちにオレを好きになったアキタ。
レイプした相手を好きになったオレ。

誰が一番イカレてる?

「あ、オレ、ワタヌキがオレに球ぶつけてきた訳、わかった」
「へー、マジ?」
「マジ」
上履きのまま、校舎の裏手に出る。日の当たるサボりスポット。
「あちー」
「オマエだったら、蹴る?」
「蹴んないね。シカトしとく。つーかあんな意地悪したアンタが悪い」
「もう、しねーよ。なんか最近あんま、イライラしなくなったし」
「ふーん?弟の事とか?」
オレ達はいろんな話をした。家の事、サッカーの事、カネダの事・・。
「どうでも良くなった。あ、モリヤ・・」
「・・・・」
「・・・・」
校舎の窓にワタヌキに手を引かれて、笑うモリヤ。
「アイツ、・・サッカー上手いよな」
「センパイも上手いよ」
「それしか取りえ、ねーもん」
「あるよ。ちゃんとある。オレが知ってる。アンタは捨てていいもの
持ちすぎてる。すっぱり捨てちまえ」
「フフッ・・アキタ、カッキーな」

オマエが居ればいいよ。
何階層に落ちたっていい。
這い上がれなくたって、ココロはここにあるから。

「サッカーしてぇなー」
「たぶん、レギュラー落ちだよ、センパイ。さぼってばっかだから」
「げ」
横で楽しそうにアキタが笑った。


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