ワタヌキタツトの受難。



「ワタヌキ〜、これ、オマエだろ」

必死にリーダーの訳を写している、借りたノートの上に、
バサリと広げられる雑誌。
「んだよ、見えねーだろっ」
あと、5分で3ページ写す。今日当てられる事は番号順
で、わかっている。
「ちょっと、見てみーよ!ホラ、オマエだろ」
髪をオレンジに染めた橋田(級友)が、指を差す。3cm
四方の顔写真の中の一枚。
「あー?」
テカテカの薄っぺらい紙の上に、憮然と眉間にシワを寄
せて、睨みつける顔がある。
「あ〜?知らねーぞ、んなもん」
ソレをシッシと払って、複写を再開する。
「隠し撮りにしちゃ、カメラ目線だな」
それをアキタが覗き込む。
「テメーの陰謀じゃねーだろうな?」
「えー、何なに?・・・”ワタシの彼を紹介シマス”・・・」
アキタの棒読み。
途端に、ガバっと顔を上げ、写真の下のコメントに目を
走らせた。
投稿者の名前は、アキラ。

んだよっ違うじゃねーか!一瞬、ナギかと・・・。
いや、アイツがそんな事やるわけねーか・・。
だいたい、アイツがオレの写真なんて持ってるわけねーし、
写メだって撮った事・・・。

そういや、オレも、アイツの写真持ってねーや・・。

「アキラだってよ、オマエの彼女〜v」
アキタがニヤニヤ笑いながら読み上げた。
「”ワタシの彼は超ウマイサッカー選手です。”超ウマイ
ときたか(笑)”毎日一緒にいても飽きない実はカワイイ
奴です”」
「カワイイ奴!?奴!?」
堪えきれなくなって奴らは一斉に吹き出した。
「ワタヌキ、今度ちゃんとアキラちゃん紹介しろよー」
満面の笑みでアキタが背中に抱きついてくる。
「もう時間ねーからどけよテメーら!頼むから、写させてくれ!」
それでもやめないおんぶお化けにオレは鉄拳制裁を入れた。










アキラが誰かなんてどうでもいい。
だが、こんな風に勝手にヒトの写真を持ってるって事に
むかついた。
テメー、それ持っててどうする気だよ。
魔除けにでも使う気か?
何かあった時に吹いてまわる気か?
ただ持ってるだけで何もしねーわけがねぇ。
なぜならメモリの無駄だからだ。
ナギの写真ならいくらでも欲しいけど。

そこで。

オレは、現国の時間を有意義に使い、初めて自分のケータイ
の写メの機能を理解した。
シャッタースピードが遅いのが難だ。
あと、編集のフレームとかって絶対いらねーと思う。

「ちーす。綿貫先輩、いますか〜?」
一日一回、北村は、この教室へ顔を出す。
それに絶対ナギは着いて来ない。
「ヨォ。オマエ、次何?」
「え、次ですか?生物ですけど・・」
「その次は?」
「数学」
「移動(教室)無し?」
「今日は、無いっすね」
「あ、そ」
なんだよ、じゃぁ撮る暇ねーよ。
・・・まさか、1年の廊下で張るわけにもいかねーしな・・・。
「先輩、実は、先輩の事紹介してくれって頼まれてんですよ。
一年のコなんスけど。あ、先輩って彼女いませんよね?」
「彼女・・・。いるって言えばいる。けど、今すぐなら見に行っ
てもいいぞ」
「えーーーー!!先輩、彼女いたんスか!?どこにいるんスか?」
「違うガッコ。とりあえず、そのコ見に行くぞ」
「え、マジで?・・先輩って軽かったんスね意外と・・」
「バーカ、見るだけだよ、見るだけ。廊下から見るだけでいいから」
「そうスか。ま、会わせろ言われてるから平気だと思いますけど・・」
これで、一年の廊下へ行く口実ができた。
オレは引き気味の北村の背中をこづきながら階段を急ぐ。
一つ上の階に上がるだけで匂いすら違く感じるから不思議だ。
ナギは1-F。
オレはポケットの中からケータイを出す。
カメラを呼び出し、歩調を緩めた。
1-Fの教室の入り口の前で、そっと中を覗く。
「何してんの、アンタ」
背後から聞き覚えのありすぎるタメ口。
振り向くと、眉間にシワを寄せたハニー。
「オマエ・・!(なんで教室にいねーんだよ)」
「オウ、これからアキラちゃんとこ行ってくるワ」
前を歩いていた北村が戻って来て、ナギに手をあげる。

アキラ・・・!?
まさか、その女か?
質の悪りー、イタズラしやがって!蹴り入れてやろうか。

「へー。・・良かったデスネ。ワタヌキ先輩」
ナギはいつもの控えめな笑顔にメ一杯、感情を乗せて笑うと、踵を返した。
「ナギ、待て。待てって!」
拒否オーラ全開のナギの背中はあっという間に階段へ消えていった。
たぶん、北村から話を聞いて知っていたんだろう。
つい安易に乗った自分が悪い。
女の事はここへ来る口実だったのに!

チキショ!アイツ怒らしてどうすんだ!?

「あ、先輩、あのコッスよ。内田晶」
北村は、まっすぐ目の前へ歩いてくるショートカットを指差した。
「あ、綿貫先輩・・!ヤダ、北村!!言ってから会わせてよ〜〜!」
アキラは恥ずかしそうに笑って、周りを気にした。
「ナリユキだ。許せ」
北村が顔の前で手を合わせる。

ヒョロっとしたオンナ。

感想はそれだけだった。
それより。
「”ワタシの彼を紹介シマス”」
アキラの顔がサッと一変する。
オレはめったに見せない極上の笑顔で言ってやる。
「テメーか・・・。二度とオレの前に顔見せんな。マジ埋めるぞ」
「えっ!?先輩?どうしたんスか?急に」
北村の目がオレ達を見て泳ぐ。
「オマエ、もう、こういう話、オレに繋ぐな。いいな?」
オレは歩き出しながら北村に指差す。
「ハイ!!スイマセンしたっっ」
北村はキビッと体を折った。

コイツのこういうトコロが憎めない。
オレは、ナギの消えた階段を下りた。
もう授業も始まる。
あの雰囲気じゃ、出る気なんてなさそうだった。
アイツがイジけて、一人で引き篭もるとしたら・・・。

保健室。

オレは二度ノックをして返事の無い室内へ入る。
「あら、綿貫君。どうしたの?怪我?」
30過ぎの見た目には若そうな保健医がヤカンを手に立っている。
「・・んだ。先生いたの」
「失礼ね。居ますよ。いつも。」
保健医は大きめのカップにコーヒーを入れスプーンで掻き混ぜた。
そこへたっぷりの牛乳が注がれ、室内があまったるい匂いで満たされた。
「一年来なかった?」
「今、寝てる子だけネ」
「誰?」
「森谷 凪 君。だから、静かにね?」
オレは無視して、カーテンを引いた。
「コラ!」
「少し話すだけ」
後ろ手にカーテンを閉める。
「ったく、なんでそんな自由なの?」
保健医のグチる、ツブヤキ。

あんたも、十分自由だと思うぞ。

ベッドの横の椅子にナギのタイと上着が掛かっていた。
ナギは、壁側を向いて寝ていて、オレが上から覗いてもピクリとも動か
なかった。
「ナギ」
「・・・ウワキモノ。ガッコでナギって呼ぶな」
ガラガラに掠れた声。
「ナギ」
オレは、ナギの肩をシーツに押し付けて、顔を寄せた。
「!!」
途端に見開かれる目。いつもツヤツヤしてるから泣いていたのか判別が
つかなかった。
口付けると、精一杯の拒否なのか、口を開かない。
オレはゆっくり舐め上げてやる。唇が欲しがるキスをする。
ナギは舌を絡ませるのが好きだ。
何度もなぞってやる。上唇も下も啄ばむように優しくキスした。
一度、離して、誘惑する。
だが、ナギは強情に目も開かない。
なら、突き進むのみ。
オレはナギのシャツのボタンに手をかけた。
ハッとしてナギの目が開かれる。
「ヤ・・!」
小さく発した声。保健医を気にして拒絶の声も上げられない。
オレの手を掴むナギの手を無視してオレは肌蹴たソコへ舌を這わせた。
「!!」
ナギが息を呑む。
オレは無理に開かせたシャツの中で舌を動かした。
乳首に舌が当たるとナギはビクついて力を抜いていく。
プックリ浮き上がってくる乳首をやわく噛んでからオレは口を開いた。
「話、聞くか?」
「・・いい・・」
「じゃ、キスしろ」
ナギは薄く笑って口を開いた。
鐘がなるまで、オレ達はずっとキスをしてた。
言い訳なんかするより、オレはずっとキスしてたかった。






次の日。
「ワタヌキ〜、いいもんゲットしてきてやったぞ〜」
アキタがケータイを開いて見せてくる。
そこには、学ランのナギの硬い顔。
「ショウメイ写真かよ」
「ブ〜。卒業写真」
「いらねーよ」
オレが欲しいのは普段のナギの顔だ。
そんな何百も印刷された顔じゃない。
「じゃ、5百円でこれ売ってやろうか」
アキタの手が紅いアルバムを持ち上げた。
硬い漢字のタイトル。
「!ナギの?」
「・・・へ〜〜。オマエ、モリヤの事名前で呼ぶようになったんだ」
アキタの目が嬉しそうにネコ化していく。
「もう、百円やるから、向こう行け」
「んな、冷テー事言うなよ。な?オレ達ってカワイイとこあるよな〜・・。
そう思わね〜?」
アキタは意味深にニヤケながら、オレの隣へ座るとアルバムを開く。
もう、先に見て知っているアキタはサッと、ナギの映っているページを
開いた。
一発で目に入る、学ランで仲間としゃがみ込んで笑うナギの写真。
「ウワ。カワイー・・!!」
ハッとして口を押さえる。
ニンマリとしたアキタがオレの肩を宥めるように叩くと、席を立った。

なんか言われるのもムカつくが、こうやって大人な対応をされるのも腹が立つ。

気持ちを抑え、指で捲っっていく。
クラスのページ。文化祭のページ。体育祭のページ。修学旅行のページ。
全体写真。部活のユニフォーム姿の写真。
オレが初めて見る少し前のナギ。
パタンと閉じる。

バカみてぇ。
ショック受けてる。

知らないのは当たり前だって、言い聞かせても。
ショックは隠せなかった。

ナギがオンナと肩を組んで写っていた。

昔のオンナ?
だから、なんだよ?
今のオレとなんも関係ねーだろう?

だけど、頭は今見たモノを簡単には削除してはくれない。
オレは、ケータイを開き、ナギに繋ぐ。
「モシモシ。」
「屋上に来い」
「え」
ブツッ
オレはアルバムを持って階段を上がった。


5月の頭だっていうのに、日差しがもうキツイ。
温暖化はちゃくちゃくと進んでる。
オレはドアの横のかろうじて日陰の灰色の壁に寄りかかって座った。
また、アルバムを開いて見る。
オンナがナギと肩を組み合ってこっちを見て笑っている。
「テメ・・オトスぞ」
言った次の瞬間、ガチャっとドアが開いた。
慌てて、アルバムを背中に隠す。
隠してから、隠す必要が無かった事に気づいたが遅かった。
「アンタなんだよ、さっきの・・・・。センパイ?どしたの?」
ナギがオレの足の間に膝を抱えてしゃがみ込んでくる。

聞く事は一つしかない。
なのに、バカバカしくて声が出ない。
聞いてどうすんだ。
オレだって、別に童貞じゃねー。オンナと付き合った事はある。
それを聞いてどうすんだ?
余計にショック受けないか?
そんな事聞いて、オレってバカみてぇじゃねーか?
狭い。自分が狭すぎる。

「センパイ?・・あ、オレ昨日の事聞いたよ。すげー北村が話デカく
してたけど。いくらアンタでもオンナ相手に『埋める』なんて言わね
ーつーの。土嚢かよ(笑)逆にウケた。アイツたまに面白れーこと言
うと思わない?」
「・・あー、・・」

いや、ま、埋めるゾって言ったんだけど。

「しかし、すごいね。勝手に写真投稿するなんて、・・金でも貰える
のかね?」

んなわけねーだろ。エロ本じゃねーんだから。

「・・・センパイ。マジ変。何?オレなんかした?」
オレは大きく息を吸って、吐き出した。
「ナギ。写真撮っていい?」
「写真?・・・裸?」
「アホか」
「アホかはそっちだろ。何だよ。すげー難しそうな顔してるから何かと
思えば・・勝手に撮ればいいだろ、んなの」
ナギは言いながらどんどん目元を赤くしていく。
「ナギ」
そっと唇を寄せると、ナギも目を閉じた。

あ、この顔・・・。

オレはサっとケータイを開く。
その気配に、ナギの目が瞬いた。
「センパイ!!マジでキレるぞ!んなもん撮りやがったら!」
「裸でもいいっつたのは誰だよ?」
「いいなんて言ってねー!!ヘンタイ!」
「撮ってやる。絶対撮ってやる」
「ヤメロ!!」
オレはケータイを持ったままでナギの両手を拘束した。楽勝。
「放せ!変態!大声出すぞ・・」
オレはケータイの画面からナギを見つめた。
「一枚だけ。オレだけに見せる顔が欲しいんだよ」
「アンタ、おかしいよ。急に、なんでそんな事言い出すんだよ?」
ナギの困った顔が誘惑の顔に見える。
オレはケータイから目線を外し、ナギにキスした。
「ナギ・・。ナギ。なんでオマエって・・」
そんなカワイイんだよ?
「・・・なんだよ?オレがなんだよ?あっ」
首筋を噛むと、ナギのスイッチが入った。
オレも撮ってる場合いじゃなくなる。
開いたままのケータイの電源を切り、上着と一緒に置く。
ナギのシャツを巻くり上げ、見えるところ全部に口付ける。
「ナギ。オレが好きだろ」
「・・・だから、なんだよ」
「だから、シたいんだよ」
ナギのベルトを外し、下着ごとずらす。
「こっここで?」
「ナギ」
「あ、・・すぐ、無理だって・・・ア、ふ。・・んん」
オレは、慣れてきたナギを引き起こし自分の上へ抱き上げる。
ヌルついた感触がチンポを揺らした。滑る先を力を入れて押し込む。
「アウゥッ・・アンタ、ゴムしろよッ」
「一回入れたらな。ちゃんとオマエと繋がりたいんだよ。あんなモノ抜きで」
「あ、アッセンッパイッセン、パイッ」
ナギはオレの首にしがみ付いて、腰を揺らす。
ナギ。ナギ。ナギ。
なぁ、今までオマエがシた回より。
オレとシた数の方が多いよな?
きっとオレとの方がいっぱいキスして抱いてると思う。
オマエが好きなの、オレの方がイロイロしてヤれると思う。
「セン、パイ、好き、・・好き、アッ」
「ナギ」






結局。中出し。








ナギの中を汚したばっかりに、ナギはジっとしていなければならなくなった。
(動くと穴から精子が漏れるから)
コンクリートの上に二人で寝そべる。
「こうやって、オレ、センパイの精子飲んじゃうんだよな、きっと」
「悪かったって。オレが・・・掻き出してやろうか?」
「ムリ。指で全部出るわけない。きっと奥の方から少しずつ落ちてくるんだろ
うから。時間差攻撃。・・・アレ」
ナギの手がオレの後ろから例のアルバムを拾い上げた。
「あっ」
「うわー、うちのじゃん。センパイ見た?オレ、わかった?」
「あー・・。うん」
「懐かしー。あ、コンちゃん。須賀。タケ。・・・あ、・・」
突然、ナギがオレを真っ直ぐに見つめてくる。
「コレ・・・、センパイ・・・。そうか、アキタさんだ?センパイにこれ見
せたの」
「え」
ナギはクスクスと笑い出し、最後は床で右に左に転がる。
「読めねーんだけど?(話が)」
「昨日だよ。昨日、アンタがアキラの顔を見に行っただろ。その話をオレ、
アキタさんと偶々会って話しちゃったんだ。北村に女紹介させてたって、
そしたらあのヒト。オレが仇打ちしてやるって。
たぶん。コレの事だったんだ。アンタ勘違いしたんだろ?オレが女と肩組んで
る写真見て」
「・・・カンチガイ?」
「でも、残念。オレが付き合ってたコはソイツじゃない。そんなセンシティブ
なマネ、卒業アルバムになんか載せねーよ」

頭がカタイ。
ジワジワと浸透するように、言葉の意味が入ってくる。
じゃ、なんだ?
オレは、ナギと、なんでもない相手に勝手に嫉妬して呻いてたって事か?
そんなんも全部アキタの思惑で?

「チクショ。アイツ知ってて・・・!」
「知りたい?オレと初めてシたコ」
オレの心臓が一拍休んだ。体が、心臓の音とシンクロする。
ナギの手がパラパラとページを捲った。
「いい。知りたくない」
「・・・オレは知りたいよ。センパイが初めてキスしたヒト。
どんなヒトだったか、気になる」
「気にすんな。オレは教えないから、オマエも教えるな。知ったらマジで埋
めたくなる」
「・・・そうだね。興味はある。でも、ムカつくかもな。どうすりゃいいん
だろ?」
「シカトしろ」
「違うよ。どうすりゃ、アンタがオレを一番好きだって思う事ができるんだ
ろうって事だよ」
「!」
「オレ・・・いつもアンタに流されちゃってるけど、オレだってワガママ聞
いて欲しい時だってあるんだぜ?時々でいいから、オレのワガママ(懇願)
も聞いて欲しい。それってオレが好きって事じゃねぇ?」
「・・そうだな・・聞いてもいいけど、オレがオマエしか見てないの、わか
るだろ?つーか、わかれ。」
「う・・ん。・・・・あの写真、ムカついた?」
「かなり」
「アキタさんてスゲー。(狙い通り)」
「アイツも埋めたくなってきたな」
「それじゃ来年のツートップ組めないじゃん」
「来年、・・再来年は、オマエと出たいな・・」
「・・うん。努力シマス。」


そして、一段落。
着いたように思えた写真事件。
これにはまだ、続きが残っていた。



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