『抱きたいだろ?』

抱きたい?抱きたいって何だ?
セックスするって事?
セックスしたいって事?
オレが?
アイツと?
セックス?





アリエネーーーーーーーーッッ!






ツヅキ タカヒサ、16歳。高一。
目の前には、ヌクヌクと布団に包まるモリヤ。
熱のせいで、呼んでも起きやしねぇ。
つまり。
そういう事。
どうするオレ?






あの、サッカー部の試合から、オレの視力には、
モリヤ ナギ探知機というオプションがついた。
これが、またいい事がない。
オプションてのは、本体のレベルを上げてくれ
るモンのはずだ、フツウ。
それが、この機能のせいでオレのテンションは
下がる一方だった。
その原因は、モリヤと一緒に視界に入るオトコ、
ワタヌキ タツトだ。
他のヤツが気づかないのが不思議なくらい、モ
リヤにラブビームを送っている。
かわいくてかわいくて仕方が無いって感じに、
ちょっかいを出す。
そのせいで、オレはこの二人がキスしてるシーン
をリプレイしてしまう訳だ。
思い出さなきゃいいのに。
人間の脳は削除する機能に欠いている。
だから、困る。

だから、オレがあの日、モリヤにキスした事も
鮮明に記憶されていて、オレは何度も何度も夢
に見る。

痛みに顔を歪めたモリヤが、オレの手を引く。
キスしてくれって涙を流す。(この辺はオレの
脳が脚色してくれてる)
オレはイヤイヤをする(なんで自分からキスして
くれって言ってるのにイヤイヤするのか、この辺
がオレの脳の脚色の適当さ)モリヤにキスする。

そんな朝は決まって、チンポが真っ赤に勃起して
いる。




冷静に考えよう。

@オレはモリヤが好きなのか?
イヤ、別に。

Aオレはなんでモリヤにキスしたのか?
う〜ん、なんか、あの涙目見たら、勢いで。

Bなら、もう見ないようにすれば、そのうち忘れ
られるんじゃねーの?
・・・・そうだな。

もう見ない。
もう気にしない。
学校ではできるだけ教室から出ない。
そうすりゃ、そうそうモリヤ(達)に遭遇する事
もなくなるだろう。
ヨシ。

オレは自分の視神経によぉく言い聞かせる。
大丈夫。オマエなら出来る。
出来なきゃ、メガネ外すぞ。
そしたら困るのオマエだぞ。(イヤ、オレなんだけど)
根性で乗り切れ!
もう二度とオレの視界へアイツ(ら)を入れるな!

そう。オレの脳は順調にアイツらを排除出来つつあっ
た。出来るだけイヤな妄想も抱かず、穏やかに過ご
せたのだ。
それが、たった一日だったとしても。






「あ、センパぃ」
「名前で呼べよ」
「・・タツ、と」
タバコを忘れたオレが引き返して来た屋上。
屋上の澄んだ風が聴覚を鈍らせた。
一瞬、何か聞こえた音に、オレは動きを止める。

誰かいる?

「あ、ヤメっろ」
「バカ。このままじゃ戻れねーよ」

!!
モリヤと、・・・ワタヌキ!

オレは愕然と、膝をついてうな垂れた。
なんでオレはこんな場面にばっか・・・しかも
モリヤの・・・!!
なんなんだよ?
オレにどうしろって言うんだよ?
こんな状況で、どうやって忘れろって!?

「センパイッ」
「名前」
「あ、・・た、ツト」
「うん」

オレが苦悩している間にも時間は着々と進行する。

ヤバイ。
冗談じゃねぇぞ。
誰がコイツらのフィニッシュまで見(聞き)届け
るか!

オレは震える膝を立てて立ち上がる。
ドアを目指して、そこにカネダ先輩がいた。
空いた口が塞がらない。
なんて堂々と覗いてやがる!
オレなんて反対側で声が聞こえてるのもヤバイっ
てのに、この人は堂々と!!

オレはカネダ先輩をひっつかまえて、ドアの中へ
入る。
ニンマリ笑うこの人に、本気で殺意が芽生えた。
しかも、やっとで言えた、オレの告白に、カネダ
先輩は、「『それだけかよ』(がっかり)」。
(がっかり)!
がっかりしやがった!!
そりゃ、あんたの武勇伝に比べりゃ耳クソみたい
なもんだろうよ!
でもな、オレだって信じられねーけど。
それでも、モリヤを組み敷いた時の興奮は、並み
じゃなかった。
あんたみたいに徹底的にオニになんてなれなかっ
たけど、それでも、オレにはアレ以上に興奮した
事なんて無かったんだ!
畜生!
今まで考えないようにしてた事が、一気に吹き出
す。
キモチが抑えられない。
今なら、屋上に戻ってワタヌキだって殴れそうだ。
そうだ。
そうなんだよ。
気に入らねーんだよ!あの目!モリヤにだけする
やさしい目!そんな目でアイツを見るんじゃねー
よ!大事にしてるような顔するんじゃねーよ!
余計に手が出せなくなるんだよ・・!

モリヤが笑ってると、オレなんてどうでも良くな
ってくるんだよ。

そうやって、諦めてくんだ・・・。


ああ、オレって馬鹿。馬より鹿よりアホ。
誰なんだよ?
オレをこんな目に合わせるヤツは。
なんでこんな巡り合わせなんだよ?
オレをこんな苦しめて誰か得するのかよ?


そんなオレの耳元に先輩が囁いた。
「抱きたいだろ?」


オレの頭の中をソレだけがコダマした。
何回も何回もコダマするソレは、そのうち自分の
声になっていた。

抱きたい。
抱きたい。
抱きたい。
モリヤを抱きたい。

抱いたら、少しはオレも救われるだろうか?

その夜は、徹夜でモリヤをレイプする妄想。
明け方には馬鹿らしくなって、格(闘)ゲー(ム)。
オレにはやっぱ、ハッピーなモリヤしかいらない
らしい。
わんわん泣かせてセックスするなんて萎える。
マジで。
オレはカネダ先輩にはなれないらしい。
逆に羨ましい。いや、ウソ。
羨ましくなんかない。
あの人が背負ってるモノが何か知らないけど、
フツウじゃないのはわかる。
なんであんな方向を向いて歩いてくのか、自分を
イジメながら笑ってる。
イッテルよ。
いっちゃってる。
オレにはムリだ。

自分で喜んで崖から飛び降りてく人に少しアコガ
レタ。





しかし。
やはり誰の思惑なのか、オレはとことん追い詰め
られる運命にあるらしい。
今朝(かなり早朝)、オレはもう、モリヤが幸せ
なのが一番いい、と答えを出した。
それを。

一番前のオレの席。
そこへ一通の茶封筒。
「なー、ツヅキってモリヤと同じ駅だよな?って
いうか家近い?」
北村だ。よくモリヤと一緒にいるサッカー部の奴。
「まぁ、近い方かもな。なんで?」
「アイツ今日休みでさ、なんかオリエンテーリン
グの申し込みにハンコが無かったっつって、届け
て貰えると助かんだけど」

休み?
そうか、今日休んでたのか。
オレは今日も(教室に)立て篭もりしてたから、そ
んな事にも気づかなかった。
ついに熱が出たか。

「じゃ、よろしく」
北村はさっさと廊下へ出て行く。
「ちょ、待てって!」

シカトすんな!
オレはモリヤの家に行けるような資格ねーんだよ!



なのに北村はツレと笑いながら行っちまう。



誰だよ。オレを試してるのかよ。

部活をさぼって、電車に駅5つ分ボーっと揺られ
て辿りついた家には、モリヤの妹。
そうだ。この手があった。
「モリヤの同級生なんだけど」
オレは妹に手紙を渡そうとカバンを開けた。
「お兄ちゃんなら上の右のドアだよ。ツヅキ先輩」
オレは驚いて目を瞠る。
妹はニコニコしてすぐ近くの部屋へ入って行って
しまった。
オレは観念してガサゴソする手を止め、靴を脱いだ。
階段を昇りながら思う。
この状況でオレに手を出すなって方がおかしいだ
ろう。
そうだ。
これは、オレを苦しめた誰かが、あんまりオレが
可哀想な事になってるから、やっぱ、オレにも幸
せを分けてやろうって事になったんじゃないだろ
うか。

なら、話は早い。
イタダキます。
だってご褒美だろ?


開けたドア。
閉じられた遮光カーテン。
片付けられた部屋の中央には加湿器。
ベッドの脇、脱ぎ散らかされた服。
床に転がるポカリ。

「モリヤ」
オレは上から見下ろした。

暴睡。

オレは封筒を取り出した。
置いて帰ろう。
だけど、何処に置けばいいか、考えた。
目立つトコロに置かないと意味が無い。
せっかく持ってきたのに気づかれなかったら意味
ねー。
「センパイ?」
声に振り返ると、モリヤが熱そうに前髪をかき上
げている。
「モリヤ」
「喉渇いた」
オレは落ちているポカリを取ってやる。
「飲まして・・。あ、でも染るか」
モリヤが笑って言う。
一瞬驚いたが、オレに言ったセリフじゃない、と
気づいた。
だけど、オレを想って言った言葉に聞こえて、胸
がつっかえる。
「・・いいよ。染つせよ。したら早く治るだろ」
オレはポカリの口を開け、一口含んだ。
枕元、モリヤの顔を挟むように手を付いて、顔を
近づけた。
ゆっくり、口移しされる液体。
口付けたままで、モリヤの喉が動いた。
そのままベッドへ膝を乗せた。
モリヤが全て飲み込むのを待ってもう一度口付け
る。
モリヤの舌がそこにあった。
オレより熱い体温のソレを軽く吸ってから舌を絡
ませる。
「んー」
弱々しい抗議。
「何だよ・・まだ、鼻つまってんのかよ」
「ちょっと。あ」
オレはメガネを外して、モリヤの首筋に噛み付いた。
もう止まれやしなかった。
布団の中にオレも入って、めちゃくちゃに抱き寄せ
た。
「ふ、くすぐってぇ」
モリヤがクスクス笑って、体を離そうとする。
オレは自分のシャツのボタンを外して、モリヤの服
を捲り上げて、ぎゅっと抱きしめた。
熱い体温。
ずっとこうしたかった。
ずっと、こうやって抱きしめたかった。
肌が直接触れて、オレは完全に勃起していた。
「センパイ、冷たくて、きもちいー」
モリヤがオレの背中に手を廻す。
体が隙間無く絡み合った。

『センパイ』
オレは、センパイじゃねーんだよ。
言ってやろうか。
言ったらどうなる?
センパイじゃないけど、きもちいーって言ってくれる
か?
「モリヤ」
と、声を掛けた時だった。


ドカ!!


モリヤの足の裏が腹を打った。
その勢いでベッドから突き飛ばされる。
ドテって無様に尻餅をついたオレに、モリヤが半身起
こしてドスの効いた声で喋り出した。
「テメぇ。何勃起させてんだよ。誰のせいでオレが熱
出して寝込んでると思ってんだ?テメぇが屋上でオレ
に突っ込んだせいだろうが・・・!昨日の今日で、家
にまで来て、てめぇ・・!!」

やっぱ、オマエらあの後ヤッテたのかよ!
いや、今そんな事考えてる場合じゃないか。
いくら薄暗くても、はっきり覚醒したモリヤにオレが
ワタヌキに見えるわけがない。
ヤバイ。

オレはカバンを掴むと、そこから逃げ出した。
走って走って走って、シャツが全開だった事にやっと
気づいた。
手が震えてる。
外はまだ明るくて、小学生とかが川沿いで寄り道して
る。
オレは片手でボタンを留めながら、噴出した。
なにやってんだ、オレ。
サイコウ。
サイコーだよ。

オレは沸き起こる笑いを止められず歩いた。
あー、いいキブン。




それが長続きしないなんて事はわかりきっていたけど。






オレのメガネと首に残した噛み傷が大波乱を呼ぶ。





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