白いネットを揺らしボールは勢いを無くす。
全ての時間が止まり、体は感情を開放する。
真っ青な空に叫んだ喜びを今も忘れない。
汗だくの体を抱きしめ合い、無茶苦茶に振
るわせた体。


いつだって、このゴール(前)に立てば、
オレは支配者になれた。







ワタヌキタツト、17歳。高2。




誰でも知っているものなんだろうか?
体の中で闇色の煙が渦巻いている。
秋に見た天気予報の台風の写真みたいだ。
ただ、違うのはそこにあるのはソレが全てで、
黒い事。
体の中でのた打ち回っている。
こんな気分を味わうのは初めてだった。

初めてサッカーボールを蹴った日から、
オレが今まで生きてきて自分で選択した事は
シュートと、モリヤ ナギを抱く事。
何百とネットを波立たせたシュートより、た
った一ヶ月の付き合いのナギの方がオレを夢
中にさせた。
この一ヶ月。
オレは殺したい程、ナギを愛してた。
この表現は今、正しくない。

今なら。
愛してるから、殺してやりたい。
ナギを殺してやりたい。

殺してやりたかった。







a.m.11:30--------

「モリヤのヤツ、昨日休んだくせにキスマーク
なんてつけてきてるんスよ」

(まさか!)

オレとアキタは一瞬だけ視線を合わせて、すぐ
北村へ戻した。

アキタが笑いながら返す。
「やるな〜、ガッコさぼってエッチしてたってか」
視線はオレに向けて訊いてくる。
(オマエじゃねーよな?)

当たり前だ。

「しかも噛み傷。カサブタになってるんスよ?
激しいオンナッスね〜〜〜!野獣系スよきっと」
ケタケタと笑う北村に合わせて、アキタも笑い、
で?と聞き返した。
「アイツ、本当に熱出てたんじゃなかったか?」

それは、本当だ。
一昨日の放課後には顔を紅くして部活も休んで帰
って行ったんだ。
駅までオレが送ってやって。

「熱は今朝下がったって言ってましたよ。マジか
知りませんけど。昨日のうちに熱引いてて、遊び
行ってたんじゃないんですかね」
「なんじゃそりゃ、訊いたのか?」
アキタが顔から笑みを落とす。
それを見て、北村が慌てて否定した。
「いや、知りません。アイツ、聞いても、自分で
引っ掻いたって言ってて・・・。でも、アレ、絶
対キスマークですよ」
「へー。じゃ後で呼び出しかけるか。たまには先
輩らしい事でもしてやらねーとな。部活休んで、
遊んでたなんて、ズル許すわけにゃいかねーよな?」
アキタは意地の悪い笑みで北村を脅した。
「えーーー!?マジっすか。アキタ先輩ってそんな
事するんですか?そんな、オレ、そんなつもりじゃ」
「あれ?知らなかったか?オレってコエェーー先輩
なんだせ?だが、モリヤにはこの話は内緒だ、いい
な?先輩命令」
アキタは口の前で人差し指を立てた。
ゴクっと北村が喉を鳴らす。
「わかりました。じゃ、オレそろそろ戻ります」
少し青ざめた顔で笑って北村は教室から出て行った。
「おう!また来いよ〜」
アキタは机の上に座ってブラブラ足を揺らしてから、
オレの机を蹴った。
「んだよ!」
「冷静じゃん」
「冷静・・?冷静じゃねーよ。混乱だ」
「ああ、只今ロード中ってヤツか。今の話でサーバー
ダウンってか?」
「マジで・・・理解できねー・・。だって、有り得ね
ーよ・・・」
オレは口を手で覆って考えた。

キスマーク?
噛み傷?

とにかく気分が悪い。
ゾっと冷や汗が出て、背中が寒くなる。
顔を何度か掌で擦って、息を吐き出す。

「ワタヌキ、コンビニ行こうぜ」
アキタは腕時計を覗きながら言って立つと、さっさと
歩き出した。
オレは考えがまとまらない頭でその後をついて行った。

ナギの体に誰が触った?
誰かが噛んで、傷をつけた?。
だから?
だから、なんだよ。

昇降口で人気がないのを見て、アキタが言う。
「オレの見解でいいなら言うぞ」
「やめろ」
「言わせろ」
「やめろよ。聞きたくねー」
「ああ、わかってるんだろ?
昨日、モリヤは誰かにヤラれた。誰だ?」
「テメ、殺すぞ!」
オレは鉄の靴箱を蹴って、アキタの胸倉を掴んだ。
「んな場合いじゃねーだろ」
アキタがその手を押さえる。
「オマエ、今モリヤと話出来る自信あんのか?
アイツの顔見て殴らねーって約束出来るのかよ」

ナギを殴る?

胸倉を掴んでいた手から力が抜けた。
「は?なんで、オレがナギを殴る?」
「オマエ、コエーんだよ。他の誰も近寄らせやしねー
のに、モリヤだけを全てにしてねーか?アイツ無しん
なっても、オマエ立ってられんのかよ?絶対ねーわけ
じゃねーんだぜ」
アキタがオレの手を放す。
「ねーよ。んな話・・・。」
「理想と現実を見ろ。今オマエが立たされてる現実か
ら逃げんな」
「ナギを殴るわけがねぇ」

昇降口の引き戸を開けた向こう。
カネダジュンヤの姿が目に入った。

「ワタヌキ!!」
アキタの声が追ってくる。

「カネダ先輩!!」
誰かの悲鳴みたいな声でカネダの名前が聞こえた。

掴まれた拳の痛みで、我に返った。
コンクリの上に押し倒したカネダの口元が赤黒い。
「見えるとこ、殴るんじゃねーよ、ドシロウト」
カネダが真っ赤な唾を吐き捨てた。
「で、オレが何した?」
「ウルセー!!」
メチャクチャに腕を振り上げた。
その肘がたぶんアキタに当たった。だが、構う事な
く振り下ろした。二発三発、カネダが両腕でガード
する上に殴りつけた。
その腕を一瞬で掴まれて、(たぶん巴投げの要領で)
体が宙に浮いた。
視界が回って、繋がれた腕のせいでオレは背中を、
しこたまコンクリに打ちつけた。
「ツッーーーーー!!!」
痛みに体が転げまわった。
「この、クソヤロー・・・。アルティメット(ルール)
かよ。いったい何のつもりだ?」
「オマエ、違うのか?昨日の」
アキタが顔を押さえながら起き上がってカネダを見上
げた。
「昨日がなんだ?昨日はマジの委員会でオレは優秀な
生徒やってたぜ?」
カネダは指先で口元に触れて、また唾を吐いた。
「イッテェ・・。ザックリ切れちまったぜ。この馬鹿
のせいで」
「カネダ先輩、大丈夫?」
カネダは後輩に手を引かれ起き上がると、オレを見下
ろしてきた。
「死んだか?」
アキタが笑う。
「死ぬかよ、コイツが。オイ!聞こえてんだろ!」
「テメーじゃ、ねーのかよ・・」
吐く息に痛みで顔が歪んだ。
「何がだ?いったい何の話だ?言えよ、コラ、寝るん
じゃねー」
「ムリ言うな・・」
背中を強打したオレの意識はそこで切れた。


ナギ。
オレは壊れた。
こんな真っ黒な世界初めて見た。
オレの体は内側から真っ黒になっていく。
広げた掌さえも黒くなっていく。
終わりだ。
なにもかもが終わりに思えた。
ああ、わかった。
やっと、わかった。
これが、どんな感情か。
絶望だ。
絶望。
これが、この気持ちがそうなんだ。
今まで味わった事のない気分だ。
ナギ、オマエを失うって、こんな気分なのか?
オマエを誰にも取られたくないって気持ちが、オレを
こんな気分にさせるんだ。
どうしてだよ?
オマエ、なんで、誰に、そんな事させちまったんだよ?
オトコのくせにヤられてんじゃねーよ。
誰だ?オマエは嫌じゃなかったのか?
ナギ、オマエはオレ以外にヤられてイったのかよ?

「アキタさん、ワタヌキセンパイ起きたみたいデスヨ」
「チキショ、起きるならもう少し早く起きろよったく」
そこは見慣れた天井。
それよりなにより、ナギの声。
「ナギ」
「じゃ、モリヤ、オレは戻る。後、ヨロシクな。しっか
り説明しろよ」
「え、説明って・・」
ナギの困ったような声。
腕を上げてみた。痛みはなかった。その手でナギを探す。
「センパイ」
ナギの手がオレの手を掴んだ。
「オレ、誰にもヤラれてねーよ。本当に、自分で引っ掻
いただけだし」
ナギの視線が泳いだ。
「じゃ、見せてみろよ」
見つめた目はいつもより歪んで光った。
「・・・ヤだ」
「なんで」
「なんでじゃねーよ!あんた、コンクリートの上にブン投
げられて、もしかしたら死んでたんだぞ!何考えてんだよ
!オレがどんな心配したと思ってんだよ!」
「・・・それと、これと、関係ねーだろ」
オレはナギの首筋に貼られた絆創膏を撫でた。カリっと爪
を立てて引っぺがす。
「イッ」
首を押さえに上げたナギの手を、掴んで引き寄せた。
オレの上に被さるようにナギの顔が至近距離で歪んで、瞼
が閉じられた。
噛んで、吸われた跡がその首にクッキリと紫に浮き出ていた。
何秒だったろう。ジっと見つめてた。
ソレがそこにある事が信じられなかった。
見えているのに、信じられなかった。
オレ以外のヤツがナギに残した跡。
「でも、ヤラれたわけじゃねー!オレは、た、タツトにしかっ」
「ナギ」
「タツトにしかっ」
ナギがオレを抱きしめてくる。
「だから、だからヤメロよ。ケンカするな。誰だっていい。こ
んなもんなんでもねーし。あんたが約束してくんなきゃ、オレ
は、何も話さない。これはただの引っ掻き傷だっ」
「ナギ、オレだって、別に意識して殴りに行ったワケじゃねえ。
アイツの顔見たら、殴ってた。それだけだ。だいたいアイツじゃ
ねーんだろ?」
スンとナギが鼻を啜る。
「・・カネダさんじゃねーと思う」
「『思う』?」
「・・・オレ、・・・熱で、ボケてて、・・・アンタだと思って、
キス・・・して・・・ゴメン!!」
涙が伝った顔を上げて、ナギが体を離した。
「なんで、間違えんだよ?オレのキスくらい覚えろ」
「部屋、暗くて、寝起きで、・・・キスしてくるのなんて、アンタ
だとしか思えなかった・・。でも、オレが起き上がったら、イキナ
リ逃げてったから・・変だなって思ってた・・」
ナギは俯いて、目元を手の甲でこすった。
「キスだけかよ」
「うん」
「ナギ、キスしろよ。死ぬ程抱いてやるから」

ナギが顔を向けて、その目からスッと筋が引いた。
線は唇を辿り、膨らみを撫でて、その下へ雫となって落ちた。
落ちた先はナギのタイで、その雫の跡だけタイの色を濃くした。
その目を再び手の甲で拭って、ナギが上着を脱いだ。

バサバサとその場に二人で脱ぎ捨てて、ナギはオレの上へ這い上
がると口付けてから言った。
「死ぬまで、ヤって」
「死んだら、一緒に埋めてもらおうぜ」
ナギの髪に指を絡ませて引き寄せて、もっと深く舌を入れた。
「・・・んっんっ」
「ナギ」
オレは首筋の噛み傷を舌で舐めてからきつく吸い上げた。
「い、イタっセンパイ、イ・タイ・よっ」
荒い吐息と抗議。
「許せネェよ。ナギ。オマエの体に触ったヤツがいるなんて
許せねえ。殺してやりたい。オマエも殺してやりたい。」
言いながら、体を入れ替える。
「殺していいよ。タツトになら、殺されたい」
オレはキスしながらベッドヘッドの引き出しから、ジェルを
取り出した。

はぁっ

オレもナギもギッチギチに勃起してる。
白光りする缶をあけて、たっぷりとジェルを指に乗せた。
「膝、開けよ」
ナギは顔を背けて、自分の膝を抱えた。
その肉の入り口に指が触れると、ビクンと震え、指の意図を
知ると、真っ赤な口が開き始めた。
指を少しうねらせるように曲げ伸ばししながら奥へ潜らせた。
だが、肉の壷がソレを嫌がって締め付けてくる。
それでも、オレはナギのコリっとした前立腺まで指を届かせ
てからジェルを塗りつけた。
ナギの体がブルっと震える。
「あ、つ、・・。中が熱い・・」
うなされるように呟いたナギの顔の上へ跨った。
「舐めて」
「た、つと」
ナギは目を薄く開けて、オレを両手で握ると舌でタマの方か
ら舐め上げた。
オレはその感触に息を殺して、自分もナギのチンポにしゃぶ
りついた。
「んんん!!」
「ナギ、もう我慢汁が出てる。オレをイカせる前に、イクな
よ」
すっぽりと咥えこんでやる。
「あ、ああっ、そんな、したら、出るっ」
「出すな。オレをイカせてからだ」
「あ、んーーーーーっ」
イキそうな体を捩りながら、ナギが再びオレを咥えた。
熱い口腔で舌が裏筋を必死に嘗め回す。両手で握りこまれた
ソレをナギはゆっくり扱いた。
カリの括れを舌に巻かれて、吹っ飛びそうだった。
思わず、強く吸い付いたナギの先端が先に弾ける。
「んんんーーーーーー!!!」
ナギの喉の奥へ一瞬突き入れて、オレも射精した。
ビクビクと膨れ上がる先端をきつく吸ってやる。
口の中にはまだ飲みきれない体液が粘ついていた。
唇を離して、ナギの顔へ体を直すと、真っ赤になってナギが
口を押さえて泣いていた。
「飲めた?」
小さく首を振るその唇にオレは舌を入れた。
綺麗に飲み込むことの難しいその粘りを絡み合わせる。
一度放した唇に白い糸が引く。それをもう一度舐めあって、
大きく息を吐いた。
「死ぬまで、ヤるからな」
足の間に入って、グリっと先端を捻じ込む。
水っぽい目が大きく見開かれる。その目元から雫が落ちた。
「っはッ・・センパイッ」
「なぁ」
ゆっくり勃起をナギの中へ沈めていく。
「あ、あ、」
「マジで」
「うぅっはぁ、あっうっ」
「ヤられてない?」
ぴっちりと腰を合わせて、腕を引き寄せた。
「ヤってない・・!」
「来いよ」
「まだ、キツ・・!」
オレの上に引き上げた腰がズっと落ちる。
「アぅッ」
「キツいなら広げてやるよ」
乗せたまま、腰を回した。
「ア!!」
力の抜けたナギの頭がオレの肩へ乗る。
「ん、ん、あ、あ、セ、ンパィ・・跡、・・つけてもイイ?」
凭れたままでナギが背中へ手を廻して肩へ噛みついた。
「・・・っ」
「ふ・・・すげ、・・・オレ、の、だね。アッ、セン、パイ」
「アキタにバレるからな」
「いーよ、もう、・・・アアっセンパイ、裂けそうっすごい
奥まで這入ってる!」
その腰を突き上げた。
「アアアアッッーーーー!!」
チンポの先にジワっと蜜が染み出る。



大人みたいに、愛してるって言えたら楽だろうって思う。
今のオレには愛してるって言葉じゃ納得できない位いに、ナギ
が好きだ。
好きよりも愛してるよりももっと上。それを伝えられる言葉。
なんて言葉?


「センパイ、一緒に死のう」

ああ、ソレかも。
ナギの泣き腫らした顔。額から瞼、頬から唇。順に口付けた。
最後の最後はオマエしかいらないから。
「アキタに誰にも見つからないとこに埋めてもらおうぜ」
二人で少し笑った。
そして、死ぬまでセックスした。



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