アンタが笑ってオレを引っ張ってくれる。
それは、眩しくて、嬉しくて、だけど、切なさもある。
アンタの背中はいつだって遠くて、オレの見える範囲
なんてすぐ飛び出て、アンタは何処までも自由に駆け
てく。
オレには、追いつく事も止める事もムリ。
なぁ、出来るだけ、出来るだけでいいから、息つく間、
オレを振り返って欲しい。
そう願う事も伝わらない距離。
もどかしいって、これを言うんだ。



モリヤ ナギ。初めて公式戦出場。




関東大会予選決勝。
負傷者続出に続出。
交代による交代。
訳が分からない内に、後半戦に出ていたオレ。
なんなんだ?
走っても走っても、意味がわからない。
振り切れないディフェンダー。球がパスされてもパスし
返すしか出来ない。
一向にゴール前に球は向かない。
なんなんだよ!?
なんなんだよ!?
息は苦しいし、体は動かないし、人が多いし、おかしい。
サッカーってこんな人数多かったか?
何度も何度も誰かとぶつかって、ユニフォーム引っ張られ
て球も来てないとこで、オレはスッ転んだ。
膝擦りむいて、でも、そんな場合じゃない。
前向いて球は何処か探して、一斉に皆の足が止まってた。

・・・・何?
終わり・・・?


終わった・・・?



笛の音もゼンゼンわからないうちに、試合は終了。
心臓だけが太鼓みたいに耳にうるさい。
そのせいで、聞こえなかったのか?
信じられない思いで、起き上がろうとした時、後ろから
オレの腕を掴まれた。
そのまま、持ち上げられて、オレは立ち上がらされた。
「センパイ・・・」
ワタヌキがそこにいた。
「平気か?」
「え、うん、わかんない」
答えたオレの頭から背中、ケツをワタヌキは順番にハタイ
てくれた。

なんか、オレ、ちっちゃい子みたいじゃねえ?
自分だって膝とかドロが固まってこびりついてんのに、
オレの体を点検するみたいにポンポンはたいてく。
でも、それが気持ちよく感じて、されるがままになってた。
「さっきの、よく気づいたな」
「え?」
「右サイドから、よくオレが上がってくの気づけたな」
「右?・・・いつ?」
ワタヌキの顔が間延びした。
「何、オマエ、・・・覚えてねーの?」
「・・・・。」
覚えてなかった。
今終わった試合の、何一つ、覚えてなかった。
いや、やられた事は覚えてる。転ばされたりとか、服引っ
張られた事とか。
でも、自分がどんな動きしたかなんて、ひとっつも覚えて
なかった。
ワタヌキがオレの肩を引き寄せて歩き出す。
「オマエ、大物になるよ」
機嫌の良さそうな横顔。
オレは未だに、心ごとどっかにすっ飛ばしたみたいで、
フラついてた。
体がガクガクする。
その後は、なんも思う暇もない。
さっさと支度してバスに乗って、学校に戻って、解散。

ワタヌキに駅まで送ってもらって、電車に乗って降りて、
階段でコケた。

「イテ・・・」
「カッコわりぃ〜」
後ろから棒読み。
振り向くとツヅキが歩いてくる。
オレの真後ろに立って、前かがみにオレを見る。
「起こしてやろうか?」
「いい」
スっと立ち上がるツモリが、ビリっと痛みが足を走った。
「イッ!!」
その脇に手を入れられて立たされて、そのまま抱っこで
階段を降ろされる。
一番下の段で座らされて、オレの目の前にツヅキがしゃが
みこんだ。
「どこ、イテェの?」
「・・ひざ・・」
「膝?」
「わーーー!触るな!!」
ツヅキがビックリして手を引っ込めた後、オレから顔を
背けて、吐き捨てる。
「そんな、イヤなのかよ・・!オレに触られんのが」
「あ・・・違う。膝、イテェから・・・。つーか・・・
やっぱ、触んな。オマエと接触したってワタヌキにバレ
たら、またオレ、死ぬ程ヤられる」
ツヅキは、もうコイツやだって顔をしてから、オレのジャ
ージを捲り上げた。
「テメ!触んなっつーの!」
「触ってねー。見るだけだ。・・・つーか、な?死ぬ程
ヤラれんなら、一回くらいオレとヤってもいいんじゃん?
どうせ、死ぬ程アイツとヤるんだろ」
左足でツヅキの足を踏んでやる。
「イッテ!!この、ヤロ・・!!」
「オマエなんかに感じるか。悪いが、オマエの顔見ながら
じゃ、起つ物もたたねーんだよ」
ツヅキが大げさに溜息つく。
「演技すんな、こっちが恥ずかしい」
「・・・演技?演技で胃が痛くなるのかよ。演技でオナれ
るのかよ」
今度はオレが、コイツやだって顔をする番。
「最低だ。最低だな、オマエ!」
「しょうがねえだろ。起つもんは。オラ、行こうぜ?」
急にツヅキがオレの手を引いて立ち上がる。
「勝手に帰れよ。オレは一人で帰る」
「バーカ。医者だよ。医者。膝、イテェんだろ?」
「ホットケ」
オレはケンケンしながら信号を渡る。
その後ろから呆れ声が聞こえる。
「マジ、バカじゃねーの?ケンケンで家まで帰る気かよ」
「・・・・・」
オレはケンケンで道を渡って、街灯の柱に手をついて、呼吸
困難に陥った体を休めた。
「10メーターくらいしか進んでねーぞ」
「う、うるせぇ!」
「・・・・なぁ。公園で休んでいこうぜ。ポカリ奢ってやる」
ツヅキは、疲れ果ててるオレの肩に手をまわして、駅のすぐ
横の公園へとオレを無理矢理歩かせた。
「いい、って、オイ、オレは、帰りてーんだよ!」
ドサっと下ろされたのは遊具のトンネルの中。
「な、なんだよ」
思わず、どもった。
ツヅキが笑う。
「そんなオマエ、オレ、ダイスキって知ってた?」
「知るか!」
オレは反対側へ這って向かおうとして、膝を着いて飛び上が
った。
「イッ・・・!!」
痛くてトンネルの中に仰向けに転がる。
と、その上にツヅキが這ってきた。
「セマー・・。オトコ二人じゃ身動きとれねぇな」
「テメ・・。変な事すんなよ」
ツヅキは鼻で笑って、顔を近づけてきた。

ヤバイ・・!!

背けた顔には何も来なかった、と、ツヅキの唇がオレの首に
埋まってくる。
「ざけんな、テメ・・!」
「ふざけてこんな事できっかよ・・マジだよ。大マジ」
ツヅキは言いながら、オレの首筋を唇と舌で辿る。

ゾクっ
鳥肌・・!

「・・跡、つけねーから」
耳元でツヅキの掠れた声が聞こえて、目を瞑った。
ゆっくりと、犯されてく首。舌は落ちて、胸元へ滑る。
声が出なかった。
体が震えて、足が痛くて、涙が出そうだった。
センパイの顔が浮かぶ。
ガサゴソ、ツヅキが動いてオレのジャージに手を入れてくる。
「ヤメロ!!」
ツヅキの手が止まる。
オレは見開いた目から涙を流してた。
「・・泣くな、よ」
ツヅキは手を出して、オレの上にピッタリ体を重ねた。
トンネルの上に丸い穴がいくつか空いてて、空が見えた。
「あったけぇな」
直かに、ツヅキの声が体に響く。
「バッカみてぇ。・・・体だけもらってもしょうがねぇか」
よっと、ツヅキは体を起すとオレを引き起こした。
ゆっくり手を引いて、オレが膝をつかないようにトンネル
の出口へ誘導してくれる。
立ち上がろうと上を向いた瞬間、唇が触れた。
たぶん、偶然に。
だけど、ツヅキが惑ったのも一瞬で、貪るように舌がオレ
の口に這入ってきた。
夢中で吸われて、舐められて、結局何の抵抗も出来ないで、
ツヅキが放すまでオレはクマの人形みたいに座ってた。
余裕無い、こういうキスをワタヌキもする。だから、わかる。
でも、言わない。言ったらダメだ。
「メガネ、・・イテェんだよ」
ハハって笑って、ツヅキはメガネを押し上げた。
それから、黙ってツヅキに連れられて、近くの接骨院へ行った。
その入り口。
「じゃあ」
戻ろうとする背中に言った。
「・・・ありがとな・・」
振り返って、ツヅキが、笑った。
少し歩いて、止まって、また戻ってくる。
目の前で、一度メガネを押し上げてから言った。
「ずっと。ずっと、オマエ好きでいるから」
ニって笑って踵を返した。
「・・・ざけんな。ばーか」
呟くと、聞こえたのか、また振り返った。
「ずっとだ」
もう一度言って、歩いて行く。
その背中が角を曲がるまで見てた。

オレを好きだって。
アイツ、気づいてたのか・・。
あんなキスしやがって。
いい迷惑なんだよ、チキショ。

唇が熱い。
ワタヌキのキスを思い出して、オレは少し胸が熱くなった。
これは、ワタヌキのキスを思い出したから。
アイツにされたキスのせいじゃない。
せいじゃない。










back
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送