ここだ。


球を蹴った瞬間の。
その感覚。
オレは全くヤツの方を見ないで、足の甲で球を撫でる
ように蹴り上げた。
見えた。

そして、オレが「見た」通り。
ソイツがゴール前に上がり、足元にトンと球を落とすと
蹴り込んだ。
キーパーが動いてから打ったシュート。
恐ろしく、冷静な。
これをやるために、パスを待ってたみたいな。


呆れるくらいの。
天才。




「オマエ、やるじゃん」
その「天才」がオレに声を掛けた。
オレはその顔見て、目の裏熱くなった。



何度やっても、最後のパスが通らなかった。

コーチに、テメーバカクズヤメチマエ!!まで
言われて、心ん中じゃ、ああやめてやるよ!!
ってグラウンド出てく妄想。
何回蹴ったってどうせ渡んねえんだ。
点につながんねえ中盤なんてジャマなだけだ。
イラネーンダヨ!!って存在そのものをアタマから否定
されても。


頑張って。
出来なくても
頑張って。
悔しくても言い返せなくて。
黙って。
頑張って。
声張って。
頑張って。
ヤメタクテヤメタクテやめられないで。
頑張って。
やっと、やっとパスが通った時。

なぁ、わかる?
泣きたくなるってキモチ。

”やるじゃん”なんてさ。
嬉しくなっちゃうじゃん・・?

だから、少しだけ俯いて、鼻啜ったって怒られないよな?
そのオニコーチが静かに近づいて来る。
オレのアタマクシャクシャって撫でて、次行くぞって言った。
「ハイッ」
走り出すオレに名前もまだわかんないチームメイトがタッチ
してくる。

励まされて。

オレ、たぶん目真っ赤で。
嬉しくて恥ずかしくて。
サイコウでサイアクな経験。

でも、オレ知った。
あのパスを打てるなら。
どんなキツイ練習も耐えられるかも知れないって。

あのワタヌキタツトに、パスを出せるなら。




チヅカ ナツト。15歳。

アンダーセブンティーン選抜練習に参加する。

アリエナイ召集令状。


真っ青な芝の感触。
空の青と芝の緑。
それだけしかない世界がそこにあった。
でも、それすら満足に感動してる暇もなかった。
自己紹介もテッキトーで、すぐアップ。

自分に夢見た移動バスの時間が懐かしいぜ、チクショー!

それでも、この高揚感がたまらなかった。
オレは選ばれてここへ来た。
彼と同じここへ立つ。
それだけで、オレは胸ドキドキさせてた。


ワタヌキタツト。
彼とプレー出来る。
信じられない超超超ラッキー!!!
来年、上稜高校に入らない限り一緒にプレーする事なんか
叶わないヒトだと思ってた。
誰よりもプロに近いヒト。


それが今日。
オレは打ちのめされて。
怒られっぱなしで。
自分が情けなくて。
あの冷えた目が怖くて。
きっとミスばっかするオレにイライラしてんのかもとか。
ただの一度だって、言葉を交わす事も無いで終わるんだ、
とか思ってた。
それがさ。
”オマエ、やるじゃん”だぜ?


来月にある公式戦。
そのためにオレ達は毎週をこのトレセンで扱かれる事に
なった。
相手はシンガポール。
いくらアジア圏でも、厳しい体格差。
だけどサ。あっちはプロとか無いんだぜ?
したら、やっぱ日本のが勝つの当たり前みたいに皆思う
ワケよ。キビシイね。


練習も終わって、クッタクタのカラダ。
皆でフロ入ってすぐメシだ。
カラダを、適度に冷めた湯で流しながら、見回すと。
あの天才の姿が無い。
「・・・?」

フロ入んないのかな?そんなバカな?

で、気になったオレはサッサと上がって天才を探しに
行った。
濡れた頭にタオル被って後ろで縛る。
先に居るのかと思った食堂にはまだ誰も居なかった。
ホールも、トイレも気配はなかった。

おっかしいなぁ。

もう日が落ちた玄関に出てみた。
もしかすると、まだ練習してたりして・・?

植栽の横道。
芝生の上で膝がカクカクする。

もう、メシだってのに。
あの人マジで練習してたりして・・?

遠く人影が見えた。
街灯の明かりだけで。

やっぱだ。
やっぱ居たよ。
ゴールポストの近く、球を蹴る人影。

「ワタヌキさ」
ん?

違う。
一歩近づくごとにそのカラダの線の違いに気づいた。
腰が細い。
足なんかゼンゼン違う。
ワタヌキタツトはこんなキャシャじゃねえ。
太股とフクラハギが同じ太さくらいあったハズだ。

で。足が止まった。
引き返そう。
人違いじゃん。
そう思っても、なんか、歩けなくなってた。

オレ、自分の事で、イッパイイッパイだったけど。
この人も、もしかしたら、今日ぶちのめされて。
悔しくて、悔しくて、練習やめらんないで。

・・・わかる。
わかるよ。
自分を認めさせるためなら、やれるんだよな。
オレ、一緒にやろなんて。
恥ずかしい事できねーけど。
なんかここで見ててやりたくなった。
で、座る。

汗びっしょりの髪かき上げて、顔が薄っすら見えた。
綺麗な目だなって思った。
睫毛多くて、泣いてるみたいな目。
静かに心ン中で呟く。
頑張れ。
頑張れ。
オレ、見てるから。


「そろそろもう全員出たかな・・・」
イキナリの声に心臓がびびった。
オレより10メーター位先で、暗がりから人が起き
上がったからだ。
しかも。この声。
ワタヌキタツトだ。
声を掛けようと思った時、ワタヌキタツトが先に彼に
声を掛けてしまう。
「ナギーー、フロ行こうぜ」

あ、友達・・?友達、待ってたんだ・・?何だそっか。
で、オレはそっと立ち去ろうと思ったら。
「テメー勝手に入れよ!!オレはシャワー浴びるから
いいっつってんだろ!」

ケンカ腰の返事に、オレは上げかけたケツを降ろす。
なんか、不穏なフンイキ?

それに、ワタヌキタツトは笑った声で答えた。
「つっまんねえなぁ。折角、初めて一緒来れたのによ」
言いながら、ワタヌキタツトが彼の方へ近づいて行った。
「補欠の補欠ですけどね」

へー。
じゃ、誰か怪我して来れなかったヤツの代わりの代わり?
てトコかな?

「何でもいい。オマエ居れば」
「来んなよ!」
「んだよ。誰も居ねえのに」
「居るとか居ねえとか、チガウだろ!?オレはココじゃ嫌だ
って言ってんだろ!」
「ナギ」
「マジで、・・・殴る」
それでも近づいてくワタヌキタツトに弱りきった声。
オレはいつの間にか這うように耳を済ませていた。

なんだ・・?このフンイキ??

「ナギ」
ワタヌキタツトがピタっと彼の前で止まった。
「ナギ」
何度も名前呼んでる。
フツー友達に・・・、こんな、熱っぽく・・・。

で、目が離せない。
唾が口の中で溜まる。

「ナギ」
「センパイ・・・」

センパイ?あんなタメ口聞いててあんた後輩だったのかよ・・!?

真っ黒に見える二人の影が重なってる。
オレの喉がゴクリと鳴った。

キス・・・してねえか?アレ・・!

ショウゲキ!!
あのワタヌキタツトがホモ!!

ヤバイ、バカみてえオレ勃ってきてる・・!

オレは慌てて、ココから離れようとカラダを起こした瞬間。
二人がコッチに向かって歩いて来る!
オレは自衛隊員より素早い匍匐前進で近くの植木の陰に隠れた。
声が近づいて来る。
「やめろって!・・・それ以上したら」
「んだよ?」
「・・歩けねえっ」
「何、勃起した?」
「やめろって!テメーが触るからっ」
「なら、抜いてやるよ」
言って。
言って、オレのすぐ側で。
ワタヌキタツトが、彼を押し倒した。
「セッセンパイッ・・・タツトっっ」
声必死に殺して、彼が抵抗してる。
めちゃくちゃに暴れて、ワタヌキタツトに蹴り入れて、うつ伏せ
に這うように逃げようとした。
その足首掴まれて、引き戻されて、彼のシャツが捲れて背中が
丸見えになった。
その上に被さるように、ワタヌキタツトが彼の肩を押さえて乗り
あがる。
荒い息で、そのハダカの背中にキスしてる。
「あっやめっ・・・!やめろっってッ」
完全に体重を掛けられて、身動きの出来なくなった彼が濡れた声
で泣きだす。
「ナギ。すげー好き。お前はスゲーよ。ここまで上がって来いよ?」
「アンタ、・・ッレベルがっちが・・ぃすぎっハッハッアッ」
「オマエ、汗掻きすぎ・・。なんか、興奮する」
「ヘンタイだよ、アンタ」
言いながら、彼の体がひっくり返される。
その泣いてる顔・・・!

覚えてたその顔を。
確かに、美形だった。
冷たそうな顔だったのを覚えてる。
誰も寄せ付けないような。
鋭いオーラを持ってるって。

それが、今は。
開けたままの口から、荒い息吐いて。
苦しそうに、ビクつきながら、堪えらんない喘ぎ声上げてる・・!!

クギヅケ。

ワタヌキタツトがもう抵抗しない彼の下半身に食いついてる。
でも、オレの目はそっちより、彼の顔にクギヅケだった。
涙で歪んで、苦しそうに目細める。
少し肉厚の下唇が震えて、啼く。
「せ、せんぱ・・!!アアッッ」
「なぁ、少しだけ」
「・・・ダメだって・・」
「すぐ。たぶんすぐ出るから」
「ヤバイって・・オレ、歩けなくなるっ」
「なら、抱いてってやるよ」
「センパイッ」
彼が起き上がって、ワタヌキタツトに自分からキスした。

それがなんかショック・・・だった。
アンタもホモなんだ・・・?
ワタヌキタツトにムリヤリやられてんじゃないんだ?
そう思うと、切なくなった。
しかも、オレ、めちゃくちゃ勃起してる。

「センパイ」
「マジで?」
笑うような声。
「飲めんのかよ・・?」
「ん・・」
「好きじゃねえくせに・・っナギ・・!」
ワタヌキタツトが細く息を吐いた。
マジですぐ出そうなのかも。
オレもそれ見ながら。
もう、手で掴んでた。
出そうで。
もう下着たぶん汚してる。
これ以上見てたら、オレ勝手に噴出すかも知れねえ・・!!
そう思っても、目が離せなかった。
心臓がバカみたいに鳴って、まるで自分が彼にサレてるみた
いな錯覚。
「・・・ナギ・・!!」
押し殺したワタヌキタツトの声がして、彼の肩がビクっと震
えた。
で、彼が少し咳して、口でハァハァ息してる。
その顔、ワタヌキタツトが両手で持ち上げて、キスする。
今度は思いっきり見えた。

ワタヌキタツトの舌が彼の口の中を嘗め回してる・・!
それを薄め開けた彼がジッと受け入れてた。

直撃。

もし、自分で握ってなかったら、出てた。

オレはもうそれ以上見てらんなくなって、俯いて。
オレこそ、息殺して、ハァハァいってた。

「・・・・フロ、行こ。センパイ?」
「ん・・・。ナギ」
立ち上がりかけた彼をワタヌキタツトが引き止める。
で、胸に抱きこんで。
愛しそうに。
大事そうに。
髪撫でて。
髪にキスして、また唇にもキスして。
で、また抱き締めて。
「・・・行くか。髪、洗ってやるよ」
クスクス笑いが聞こえた。
「やだよ。アンタ、何するかわかんねーもん」
「バーカ」
言って立ち上がると、彼の手繋いで歩いて行った。

ついに、一人になったオレは。
思いっきり、チンポ扱いた。


もう、何にも考えられなかった。









次の朝は寝不足。

昨日の映像がエンドレス。
オレのアタマからサッカーすら削除する勢い。

顔洗って、顔叩いて、なんとか立ち直ろうと活入れる。

けど、無駄な抵抗だった。

食堂に現れた彼は。
まだ寝ぼけ眼で、髪ボサボサで。
ワタヌキタツトに寄り掛かって、寝るなって小突かれてる。
しかも、たぶん昨日彼が暴れた時蹴られただろう顔。
ワタヌキタツトの右頬に摺ったようなカサブタ。

フラーーーーーーッシュバック!!

オレはメシどころじゃなくて、立ち上がると急いでトイレに
駆け込んだ。

ピンコ立ち・・・。

急いでそれ握って処理する。
冗談じゃねえよ!!こんなんじゃ練習どころじゃねえっての!!
あいつら見る度に勃起してたら、やってらんねえ・・!!
だけど、若いって、思春期って、サイアク・・!!
マジでオレはヤツラのせいで、またオニコーチにクソミソ言わ
れて。

一泊二日の。
オレの儚いアンダーセブンティーン合宿は幕を閉じたのだった。







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