自分(ツヅキ タカヒサ)がどんなに諦め
が悪いか知ってる。
こんなにオレって乙女だった?
だってさ、アイツの姿見てるだけでも
幸せ・・なんて思っちゃってさ。
前は、必死こいてアイツを嫌いになろう
って頑張ってたのに、今じゃ。
毎日、絶対一目でもアイツの姿見れない
と、なんかさ。

ここ(胸)が、イテエんだよ・・。

そっと心臓のあたりを摩ってみた。

どうなってんだろうなぁ、人間って。
だって、マジでここ、痛くなる。
ズキッてくる。
ココロ。
ココロ。
脳みそで考えて。
ココロで息してる。
そのココロに影響・大、の男がいる。
今日も、モリヤは笑ってる。
その横顔を校舎の窓から見つめながら、
オレは両腕組んだ上に顔乗せた。

好きだ。
ずっと、好きだ。
ずっと、ずっと、好きだ。

でもさ。
このクソ暑い毎日じゃ、オレの根気も挫か
れるっつーの?
身体が熱くて、それが夏の日差しだけのせい
じゃない気がする。
好きになりすぎて、身体がぶっこわれてる。
毎日、お前を見て、安心して。
だけど、オレは我慢してる。
我慢してるんだよ。
どんなにお前の幸せそうな顔見れたって、
オレは、そこへ降りて行けないんだ。
降りてったら、お前、困るだろ?
だから。
我慢する。

でもさ、この暑さ。
気でもオカシクなりそう。
オレがそこへ降りてって無茶苦茶にキスしたい
気持ちになってても別にオカシクないだろ?
ギリギリの線でオレは立ってる。






オレの目の前の水道でモリヤが友達とふざけ
あって、水ジャージャー出して髪濡らしてた。

ヤメロよ・・・お前、それじゃなくっても、
なんか釦とかも一個多く外れてるのだって気
になってんのに・・。

胸がドキドキいってる。

チラチラ見えてるシャツの中が、オレを煽っ
てる。

あー・・・、この感覚。
勃起しそう。

それを知らないモリヤは、ビッショビショのシ
ャツを、脱ぐとついにはソレをぞうきんみたい
に絞り出す。
仲間達も大笑い。
皆でぞうきん絞り。
シャツはもう濡れてシワだらけで、とてももう
着る気になれないんだろう。
バサバサ広げて、空を煽いでる。

たくっ・・何やってんだよ・・!

オレは自分のシャツのボタンを外して、袖を脱
いで。
「ナギ!」
聞こえた声にオレは窓の端へ隠れた。
声が聞こえたのはオレより一階上の踊り場。
モリヤとその友達が上を見上げた。
そこから。
モリヤが何かを受け取った。
モリヤはそれを広げて、すぐ頭から被る。
サッカーの練習着みたいなタンクトップだ。
「センパイ、サンキュー!」
モリヤが笑って、両手をブンブン振った。
そこで、オレは呆然としてた。
そのせいで、オレはワタヌキにマヌケな姿を晒し
てしまう。
そう、ワタヌキは階段を降りてきていたんだ。
足音に、オレはマヌケに振り返った。
「ツヅキ」
呼ばれてオレはソッポを向いた。

オレは毎日モリヤの姿は見たくても、アンタの姿
まで見たいなんて思ってねえんだよ・・っ

なのに、ヤツはオレの側へ来て立ち止まる。
そこから見えるモノにクスリと笑って。
「アイツらバカみてえだな。下もビショビショじゃ
ねえのかアレ」
せっかく着替えたモリヤは仲間から集中攻撃を受け
ていた。
水道の蛇口を指で押さえて、勢い良く水が噴出す。
「見えるっつーの」
ワタヌキがイライラとした声で言った。

「・・・・そんなに大事かよ」
殴ってやろうかな、マジで。
どんなに気持ちを抑えてても、この暑さがオレに拍
車を掛ける。
どうしたって、我慢出来なくなる事がある。
この暑さじゃ、尚更だ。

ワタヌキがチラっとコッチを見た。
「大事だよ」





オレ達は同志だった。

同じ人間を好きで、大事で、見つめて。

胸を痛めてる。






「早く卒業しちまえ」
ソッポを向いて吐き捨てる。
と。
意外にも打撃を与えられたらしく、ワタヌキが眉間
にシワを寄せた。
「・・・留年って手もあるけどな」

!!冗談じゃねえぞっ
オレはテメーが居なくなった一年に掛けるつもりで
いるってのに・・・!!
留年!?
なんでテメーとまで3年間も一緒に過ごさなきゃな
らねえんだよっ

オレが信じられネエって顔で見つめてると、ワタヌ
キが噴出した。
「嘘だよ」
それからフイと背中を向けて行くのかと思ったら。
イキナリ。
振り返って伸ばされた腕に胸倉を掴まれる。
グッと引き寄せられて。
「手出すんじゃねえぞ」
ドス黒い声で囁かれた。
その手離すとワタヌキは今度こそ階段を降りて行く。


「・・・・」
汗が、ドッと出る。
ギラリと光った黒目。
軽く殺意を向けられて、オレはたじろいだ。
悔しいけど、あの男に勝てる気がしない。
「一回・・闇討ちしてやる・・!」
そうだ。
いい考えだ。
一回くらい殴ってやろう。
オレは妙に納得して、最後にもう一度モリヤを見て
そこから離れた。




もうすぐ、夏休みだ。

オレはこんな風にモヤモヤしたまま、モリヤと会え
なくなる。

それだけが、寂しい。












「今年の夏も、例年通りサッカー部に武道場を提供
するので、見られたくねえモン、私物は全部持って
帰るように。後で無くなったっつっても知らねえか
らなー」
終業式の前日。
汗ダクの胴着の帯を解いていると部長の分厚い声が
暑苦しく響いた。

なに!?
ここをサッカー部が使う・・!?

「カネダ先輩」
解散の後、ぞろぞろと歩く長身の背中に声を掛けた。
スッと振り返るカネダ先輩。
それに一瞬、ウッと引いてしまう。
なぜなら、振り向いた瞬間に笑って一発入れてきそ
うなキケン人物だからだ。
この人ってなんかスキがねーんだよな。
「お前、夜這いとか考えんなよ」
「え!?」
オレは飛び上がりそうだった。
いくらオレでもそこまで考えてなかった。
ただ、ちょっとモリヤの顔見に来たいとは思ってた
けど。
この人の発想って絶対何でもセックスに直結してる・・!
「し、しません。ただ、全員がここで寝るって不可
能じゃないすか?」
「ああ、無理。一年はな、教室で寝るんだよ。二年
は、下の剣道場。ここは三年が使う」
さすが、大所帯。
・・・・一年は校舎かぁ。

「ツヅキ、顔が笑ってる」
オレは慌てて、口を押さえた。
「笑ってませんよ」
「せいぜい頑張れよな」
カネダ先輩はカラカラと笑って武道場から出て行った。

その笑いの本当の意味を。
オレは二日後思い知る。




クソ暑い。
電車の中は立つ場所によって冷房がゼンゼン効いて
なかった。
それだけで損した気分になる。
オッサンしか乗ってない電車は異様だ。
触りたくもない肌がフイにくっついて、ゾッとした。
思わず舌打ちしたくなる。
そのオヤジ達を睨みつけても、向こうはオレなんて
視界にも入れやしねえ。
存在を拒否してやがる。
数分の我慢の後、やっと電車は学校の最寄駅につい
た。
駅に降りただけで、二日しかたってないのに、モリ
ヤに会えると思うとウキウキした。
オレってバっっカだなぁ〜・・・。
思わず顔が笑う。
そのニヤケ顔を手で押さえて改札を抜けた。
時間は8時を廻ったところだった。
少しの風が、体に気持ちいい。
オレはシャッターが閉まり始める商店街の通りを
大股で歩いた。

堂々と。
オレはモリヤの寝顔を見る事が出来るんだ。
上手くいけばチューくらい出来るかも知れない。

オレは早々に校舎の中へ隠れるために真っ暗な
昇降口へ近づいた。
と。
閉まってる。

あれ?

壁伝いに窓を調べてく。
それでも、どこも開いてない。

おっかしいなぁ・・・。

と、一階のトイレの窓が開いてた。
そっと全開にして。
飛び上がってよじ登った。
サンダルのまま。
タイルの上へ飛び降りた。
すると。


ピーーーーーーーーーーーーー。



なんだ、この音・・?
不審に思いながらも廊下へ出ると。
点々と設置されていたらしい赤い回転灯が、パ
トカー並みに光っていた。

やべ・・・!!!

オレは慌ててトイレに戻るとそこから飛び出した。

なんだコレ!?
なんで!?
なんで!?

オレは全力疾走で校門まで走った。
走って、走って、門の外まで走って、住宅街まで
走って、サンダルがすっぽ抜けて、やっとで足を
止めた。



や、ヤラレタ・・・・!!!
カネダ先輩!!
あの人、オレを、ハメやがった・・・!!


門まで走る途中。
あの音と光に体育館の扉から人が顔を出してた。
その中に、そうモリヤの顔が・・・!

そうだよ。
よく考えたら、校舎になんか寝るわけねえ。
職員室とか他にも生徒に入られたら困る教室が
あるのに、開放するわけねえんだよ・・!!
一年は校舎じゃなく、体育館で寝泊りしてたん
だ・・・!!
チキショウ・・・!
あのクソバカ鬼畜オトコ〜〜〜〜〜!!!
人を本気で前科モノにする気かよっっ

チキショウ・・!!
絶対ぇ、復讐シテヤル・・!!
あのオトコより強くなってやる・・・!!




次の日からオレはワタヌキに闇討ちする事も忘
れて、駅前の道場に通ったのだった。










打倒!!カネダジュンヤ!!
(本人、目の前に居ない分、ちょいマジ)








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