朝練を終えた、北村(同級生)からの伝言で、オレは休み時間
に職員室へ向かった。
同様、ワタヌキの姿が職員室前にある。
あの目が見れずに、無言で近づいた。

「お前、膝が痛てぇとか、言うなよ」
え?と言う間も無く、ガラガラと引き戸が開かれる。
「失礼しまーす」
ワタヌキの声に、一瞬こちらに注目が集まる。嫌な感じ。
「おう」
ゴンゾーさん(監督)が軽く手を上げる。
ゴンゾーさんは、ちょっと年配の白髪混じりのおっちゃんだ。
室内でも薄茶のグラデーションがかったグラサンを掛けている。
手にしたモノサシで肩を叩きながらしゃがれた声で問う。
「ワタヌキ、朝練来なかったな、どうした?」
「スミマセン、ちょっと寝起きに足攣って動けませんでした」
なんて、ぬけぬけと!!
オレは思わず顔を顰めそうになった。
あんな事しといて、よくそんな理由が出るな・・コイツ!
「ふン。そうか。もう大丈夫か?午後は出れるか?」
「ハイ。平気ッス」
うんうんとゴンゾーさんは頷くと、こっちへモノサシを振る。
「お前は?・・・一年の・・」
「森谷です。オレは、ちょっと膝が」 つい言ってしまった。言ってからワタヌキの眼が渋くなるので、
あ、と気づいた。
「なんだ、お前、膝悪いのか?」
「あー」去年、
と言おうとしたところで、とんでもないセリフが聞こえた。
「え!?」
今、なんと言イマシタ?センパイ?
もう一度、ワタヌキが口を開く。
「ウソ、つくな」
ゴンゾーさんもびっくり見上げている。
「お前、駅前でチャリの二ケツでケーサツに捕まってたじゃねーか」
ハぁ!?何言って・・・? ゴンゾーさんが、大きく嘆息した。
オイオイ、あんたの言動効きすぎなんだよ。何て事言うんだ、これで
オレの印象、悪くならないか?
寝坊か?と聞かれて、ハァと答えた。だってそういう流れになっちゃ
ってるんだもん。
「お前な、それじゃ急いでたって意味ないやろ。そんなんで事故った
ら、元もこも無いんやぞ」
その後、チャイムが鳴るまで説教は続いた。たぶん5分位だったと思
うけど。
かなり、ムカついた。
職員室を出て、一刻も早くここを立ち去ろうとした。一歩目。
「お前、言うなっつったろうが」
小声だったが、地を這うような低い声が耳元で響いた。
ビビッた。正直ビビッた。
固まるオレの腕を、強引に引いて歩き出す。
「あ、アンタだって、足がどうとかって言ってたじゃねーかッ」
「足攣る位い普通だろ」
まただよ。またオレはこうやってこのオトコにズルズル引きづられて
いる。
オレは校舎の端のトイレへと連れ込まれた。
「お前な」
ワタヌキの人差し指が眼前に近づけられる。
「ゴンゾーさんに膝の悪りぃ一年だって、覚えられてみろ、引退試合まで
出番来ねーぞ!」
うっ。
「聞いてんのか?」
聞いてる、聞こえてる。でも、オレ今、超ショック状態。完全に思考が停
止してる。
「二度と言うなよ。マジで痛テェならしょうがねーけど、オレ以外に漏ら
すな」

名門サッカー部の70分の1。名前も覚えられていない一年の印象は、警
察に捕まるより、膝が悪い方が重いらしい。

そうやって、70分の1は簡単に切り捨てられるってコト・・?

「おい、・・・モリヤ」
ワタヌキの手がオレの肩を揺さぶる。その手を思いっきり叩き落とす。
「ウルセー!!アンタにオレの気持ちなんかわかんねーよ!放っとけよ!!
さっさと教室戻りやがれ!」
ワタヌキが固まってこっちを見てる。
「だいたい、アンタのせいじゃねーか!なのに、なんだよアンタは、ヌケヌ
ケとッ・・・オレだってこんなコトなきゃ、膝の事だって言わねーよ!
それに、オレだって自力でここまで来たんだよ、今は70分の1でも・・・
絶テェー、負けねーよ!!絶テェー、ヤッてやる!絶テェーレギュラーに」
!!
イキナリ、ワタヌキの舌が入ってきた。
完全に隙間無く唇が繋がる。
息苦しくなって、思いっきり払い除けるまで食い尽くされた。
「な、何なんだよ、アンタっ」
「アンタとか言うな」
ワタヌキは少し俯いて、タイを緩めた。
「オレはこれでもエライ方なんだぜ?サッカー部の上下関係を甘くみんな。
陰口以外で呼び捨てになんかすんなよ?周りに、ウルセェのが山といるんだか
らな。・・・わかったか?」
わかってるよ。オレの周りにだっているんだ。アンタを悪く言うとキレるよう
なヤツが。
「モリヤ?」
威圧的に、壁に寄り掛かって腕組みしてこっちを見下ろしてくる。
「ワカリマシタ」
「オレは?」
「センパイ、デス」
ワタヌキの口元が満足そうに歪む
「先輩は絶対だ」
「ハイ」
あー、体育会系のこういう色が嫌だ。3月までの自分がうらめしい!
「キスしろ」
ギョっとして見上げると、したり顔が微笑んでいる。
チキショー、そういう事を言うか?
オレは意を決して近づく。唇が触れる寸前、
「あ、ディープな方な」
ワタヌキのニヤケた口が動いた。
「わがままなセンパイだな」
「そんなもんだろ」
オレは、噛み付くような、深く濃く甘く激しいディープなキスをしてやった!


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