あれから。

どんだけ昼が来て。
夜になって、朝が来て。
また。

オレは何度も何度も、ドアを開ける。

少しの物音。
そこに、ランが恥ずかしそうに立ってる気がして。

タダイマって。
気まずそうな顔で、帰ってきたって言って。



そしたら。
そしたら、オレは一発殴ってやるんだ。
で、今度はオレが出てくって啖呵切って。
で、ランが泣いたら。



全部許して、抱き締めてキスしてやろう。








とんだ、夢みてる。
カミジョウ セイショウ。17歳。




ここへ引越してきて、一週間もしなかった。
新築の2LDK。

酔っ払ったランはいつも、外見たがって、
ベランダに出てく。
「セイショウ。なんで星って光ってんだ?」
片手には缶ビール。
ベランダの手摺に、首乗せて思いっきり空仰いで、
ランは目細める。
「知らねえ。ガス?」
窓際にオレは座って、その姿見てた。
外の街灯に照らされたランのカラダが青白く見えてた。
「オマエ、ちゃんとガッコ行ってんの?」
笑いながらランがコッチに顔向ける。
「行ってるっつーの。ちゃんとマジメにやって、んで。
ちゃんと、オレ、ランの店で働くんだから。使えねえ
なんて思われたくねえもん」
ランは、薄く笑って、ビールの缶を放ってくる。
「ワッ投げんなよ!」
「ビール」
ランがオレに冷蔵庫を指差した。
「ハイハイ。ったく酔っ払いめ」
オレは部屋に飛び散った水滴拭いてから、もう一本
缶を冷蔵庫に取りに行く。
流しに、空き缶置いて、冷蔵庫の中見て、ランの好
きな銘柄が無くて。
「ラーーン。もう紅いのねえーぞぉー」
野菜室開けてみても、やっぱり無い。
「ラーン。これでいい?」
「なんでもいいよ」
って。
言うはずのランが、そこにいなかった。

開け放したベランダ。
青白いライトだけが誰もいないベランダを照らしてる。

そこへ凭れかかってたランの姿が無い。

一瞬、ゾッと悪寒が走って、オレはベランダに飛び
出して下、見下ろした。


真っ暗な木が風で揺れてた。

「ラーーーーン!!」



星が少ない。真っ暗な夜だった。




























ランはそれっきり、姿を消す。


夜に溶けたように。
ベランダから、いなくなってしまった。



それからもう2週間が経った。

ここは三階で、死ぬような高さなんかじゃない。
あの後、急いで下へ見に行ったが何もなかった。
忽然とランは消えて。

さよなら、も無し。
アンタらしいって言えばらしいけど。
何するんでも、なんか最後諦めちゃってるみた
いなアンタ。
もうどうでもいいから、どこでもいいから逃げ
出したかったんじゃねえの?
少し困ったみたいな顔して笑うアンタを、オレ
だって、ちゃんと好きだったんだ。
愛してた。
だから、待ってるよ。
待っててやりたい。
どうせ、傷ついて帰ってくるんだろ?
また、なんもかんもイヤになって、今度こそ、
オレのとこが一番いいって、帰ってくるんだろ?
なら、オレここにいてちゃんと怒ってないって
教えてやんなきゃいけないし。
だから、どうか、オレをキライになって戻って
来れないなんてコト、ありませんように。
だって。

オレは、オレ達は。

アンタが泣いてゲンと別れた後だって。

キス、したじゃん?
オレとキスしてくれたじゃん?
オレと抱き合ったじゃん?
何回だって。

オレは待つよ。ラン。
待つのは得意なんだよ。
誰も居ない部屋は嫌いだけど。
帰ってくる人がいる部屋なら我慢できる。
ラン。
怒んないから。
殴ったりなんか絶対しないから。
頼む。
どうか、帰ってきて。
また、笑って。
やっちゃったって顔で。





また昼が来て、夜になって、朝。
目が覚めて5分位。
まだ朝の6時半過ぎだった。
インターフォンが鳴った。

こんな朝早く。
がっかりする。
だって絶対ランじゃねえもん。

「・・はい。」
カメラには、銀縁の硬いメガネのサラリーマン風の
オトコ。
『シノノメと申しますが、シガ ランさんですか?』
「あ〜・・・、今ちょっと居ないんすけど」
『そうですか。少し上がらせて頂いても?少しお話
しておきたい事があるんですよ』
「・・・はぁ。じゃ、どうぞ・・」

フツウに考えればカナリ非常識だったと思う。
でも、ランの客だと思ったら断るなんて思いもつか
無かった。

不覚。

ロックを解除して、制服に着替え終わる頃、再び呼
び鈴が鳴る。
確認もしないでドアを開くと、逆に勢い良く、ドア
を引かれた。
「わっ何すんっ・・・!!」
ドカドカと三人の男が部屋の中へ入って来る。
「な、なんなんだよ!?何やってんだよ!?」
男達は無言で勝手に部屋のドアを開けて行った。
「隠れてないなら、すぐ出て行く。少し勘弁して貰
おうか」
振り向くと、シノノメが立っていた。
カメラ越しにはサラリーマン風にしか見えなかった
姿が、そこに立たれて初めて、筋者とわかるオーラ
を放っていた。
土足のままシノノメが進んでくる。
「名前は?」
ゴクリと唾を飲み込んだ。後ろでは、部屋の中を荒
らされる音が響いている。
「・・・カミジョウ、セイショウ」
眼鏡の中の鋭利な目が動く。
「ほう。カミジョウ?最近見つかった弟の方か」
シノノメには、既に知らされていた情報らしい。
「兄貴の方が先に消えてるが。・・・一緒か?」
・・・!!
「一緒・・・?」

一緒って・・・ランと、・・ゲンが?

あの夜。

ゲンが、迎えに来たっていうのか・・・?

「知ってるってツラだな」
「なんなんだよ・・!?いったい誰なんだよ・・?
あんた達、何が目的なんだよ・・・!?」
シノノメが低く笑う。
「金さ」

金・・?

「何の?」
「シノノメさん」
聞くと同時、オレの後ろからシノノメに声が掛かる。
シノノメは答えず、目だけ向けた。
「何もかも置き去りですね。手間は省けましたが、
焦げ付きますよ」
「いくらあった?」
「100か200がいいとこです。
ここは賃貸らしいんで当てになりませんが、店の
権利書やら土地の借地権やら通帳、カード、印鑑、
携帯、財布、ごっそりありましたよ。珍しいもんです」

ソイツは、こんだけ残して、生きてるんですかねって
笑った。

生きてる・・・?生きてるって、死んでるって疑って
るって事・・・!?

「それじゃあ、上手くねえだろう。生きててもらわな
きゃな」
シノノメが目で三人を外に追い出すと、再びその目を
オレに向けた。
そして静かに言う。
「確か、17だったな。なんでここに住んでる?」

ズバッときた。
それは、日々オレが自問自答を繰り返してたセリフ。

「・・オレの勝手」
フフンとシノノメが鼻で笑った。
「聞くだけ野暮か」
視線が一度下へ落ちて。
次の瞬間。
シノノメの指がオレの顔を掴んだ。
「イッ!」
「テメーを、取ったら、ヤツは帰ってくるか?それ
とも。キョウダイ揃って世話になってるんだ。
オマエの親父に言えば慰謝料ぐらいシガに払ってや
ってくれるんじゃねえか?2千万くらいあの男にと
っちゃ、端した金だろう」
「放せ!!」
腕を払い除けて後ろに下がるとすぐ後ろは壁だった。
「何の!何の金なんだよっ」
シノノメは楽しそうに笑って言う。
「借金さ。店のな。借りたモノは返す。道理だ」

ランが・・・借金・・・?あの店の・・?
こんなヤクザに・・・?

「シンジランネエ・・・」

「なんなら、オマエが払うか?金は誰が払ったって
価値は一緒だ。それが金のいいとこだ」
シノノメがオレのタイをグッと強く引いた。
胸が反る。
それでも、壁にオレは張り付いたままシノノメを睨
んだ。
その顔が笑って、オレのタイを結び直す。
「ボッチャン学校は楽しいか?これから、オマエの
周りを張らせてもらうぞ。学校生活を楽しく送りた
かったら、早く、シガの居場所を教えろ」
「・・・知ってりゃ。ここで待ってねえよ」
「・・・(そんなことは)知ってるさ。じゃあな」
シノノメは、シュルシュルとネクタイを結び、それを
オレの胸で軽く叩いてから、玄関を出て行った。






ドッと、力が抜けた。

シノノメの威圧的な目が、忘れられない。
口は笑ってるのに、目だけは光ってて。
ネクタイで。
あのまま首絞められてコロサレルのかと、思った。
玄関のすぐにある姿見に自分が映ってた。
シノノメに結ばれたタイ。
小さく、綺麗に結ばれていた。

「おっっっかねえー・・・っ」
口に出すと笑えた。

それから。
やっぱりランが帰ってきたら殴ろうと思った。











だけど。
本当に。
ランは何も持たず、何も言わず消えたって事。
思い知った。

チガウ。すぐ、帰ってくるんだ。だから、何も
持たないで。
タバコ買いに行くみたいなもんで・・・。

ラン。
早く、帰って来てくれ。
ランが死んだなんて、考えたくねえ・・・。

それから毎日。
オレの登下校は誰かに見張られてた。
それは、アイツらにもランが見つかってない証拠。

ランの店に行ってみる。

シャッターは変わらず閉まったまま。ホコリが乗
った汚いシャッター。少し持ち上げてみる。けど、
やっぱ鍵は掛かったままだった。

少しだけ、ここで待ってみたくなった。
懐かしい。
こんな風に、ランをあの時も待ってた。
いつ来るかもわかんねえランを。
オレは何処にも行くとこなくて、知らない場所で
アンタだけが、なんか頼りで。
アンタだけが、オレの事わかってくれて。

また、ランのコーヒー飲みたいよ。
教えてくれたじゃん。おいしい飲み方さ。

「待ち合わせか?」
その声にビクっとした。
振り返ると、反対車線に黒光りする外車の方から
道を横切って来るシノノメの姿があった。
「シノノメ」
思わず呼び捨ててしまって、急いで口を閉じた。
ソレに、シノノメはニヤって笑った。
「シガから連絡があったか?」
「・・・ねぇよ。来てみただけ。なぁ、オレにも
情報くれよ。・・・ランは、どうして消えたんだ
ろう?」
「知るか」
シノノメが内ポケからタバコを出して口に咥えた。
「オレ達はシガを追ってはいるが、欲しいのは金だ。
消えた理由も戻る理由もどうでもいい。オレ達はこ
れが仕事なんでね。期限までに金を払わせる。それ
だけだ」
「なんも、手がかりは無し、・・・か」
「煮詰まってるな」
言ってシノノメが咥えてたタバコを差し出してくる。
黙って見てるとムリヤリ口に入れられた。
「オマエの兄貴は一度アメリカに飛んでる。だが。
すぐ、戻ってる。つい、二週間くらい前だ」

「マジかよ!?」

叫んで咥えてたタバコを噴出しちまった。
「何か思い出したか?」
「何もねえよ。でもランが消えたのも二週間前だ!」

アタマが混乱する。
二人は繋がってた?
やっぱ、ランはゲンと・・・!?

考え込んでるとシノノメが顔を寄せた。
「言え。知ってる事なら全部出せ」
その目が奥の奥から光る。
「・・・知らない・・、ただ、ランがゲンと消えた
って事しか・・・」
「・・・今、話した方がオマエのためだが?まぁ、
まだ日も明るい。少し付き合ってもらうか?」
そう言ってシノノメがオレの腕を掴んだ。
逆の手で合図すると、車がスーッと近づいて来た。
「じょ、じょーだん・・!」
ヤクザの車なんかに乗ったら、最後帰って来れるか
わからない。
その位い、知ってる。
「こっちも。煮詰まってるんでね」

ドンッと鈍い音がした。カラダん中で。

シノノメに抱きつくようにオレは倒れこんだ。
膝に力が入らない。
痛みがアタマを支配する。
オレはシノノメに抱えられるように、車に乗せられ
ていた。

ラン、オレ、オマエと会う前に。
オレの方が先に死んじまうかも・・・バカラン。
死んだら、絶対化けて出てやる。

車の中でシノノメに凭れながら、視界が霞んでいった。






目が覚めた場所がどんなトコかは簡単に想像できた。
ヤクザの事務所とかいうとこで、オレは床に手足縛ら
れて転がされてる。
スッゲーダサイ柄シャツ着たヤンキー上がりが、オレ
を蹴って殴って始めるんだ。
オレが、ランの居場所吐くまで。
知らねえっつってんのに!!
知ってたら、オレが。
「オレが迎えに行くっつーんだよ!!」
「起きたか」
叫んでオレは起き上がってた。
でっけーベッド・・・。
手も足も、動く。
そのベッドの向かいに、シノノメが座っていた。
上着を脱いで、タイも緩めてる。
「な、なんなんだよっここ、何処だよっっゆ、誘拐だぞ!」
「一発入れたが、まぁ、知り合いの家で手当てをしてる
時間くらい、アリだろう」

アリ・・?
なんだよそれ。犯罪ギリギリって意味か・・?

「・・・完全な。拉致じゃん・・!」
「言ったろ。こっちも煮詰まってる。オマエを絞るのが
一番楽な方法だ。・・・知ってるならな」
シノノメが腕を捲くる。肘まで捲くって、そこに少しだけ
イレズミがはみ出てた。
なんか濃い青。
「知らねえよ・・!そんなんっ時間の無駄・・!」
言ってオレの喉がゴクッって鳴った。
シノノメはオレの顔ジッと見つめて笑うと組んでた足を
降ろした。
立ち上がる。
コッチへ。
歩いてくる。

全てがゆっくり。
ゆっくりとした動作で。
それが、余計に怖く感じた。

手が伸ばされて。
顎を上げさせられる。
目が合う。

「・・・なら。暇ツブシといこう。誰にも。大人に言えない
ようなな」
ゾクッとした。
オレの後ろ、シノノメがベッドに乗りあがる。
背後から強く抱き締められた。
「・・や、めろよ・・。なんで、こんな、事・・。やめ、ろっ」
「ここに居る間の、ただの暇つぶしさ」
シノノメの手が、シャツの隙間から直に、素肌を掠めた。

ヒトハダ。

「やめろって!!」
力一杯、腕を上げた。シノノメの腕を振り払おうと。
だが、一瞬でシノノメの力の入った腕に押し下げられる。
ついでに、シャツのボタンが弾け飛んだ。
勢いに任せて、シャツが開かれて、破れるような音が出た。
それでも、オレはシノノメの手から逃げようと、暴れた。
だけど。
「・・興奮したか?」
シノノメの笑う声。
暴れて暴れて、なのに、簡単にオレは押さえつけられて。
オレのチンポにシノノメの指が絡まる。
アッとい間。
オレは足押さえられたバッタみたいに動けなくなってた。
しかも、半勃ち。

それ、握るって、反則だ・・・!!

「あ、アンタ、ホモなのか・・!?」
「いや、オトコに突っ込む趣味は無えな。オマエは好きら
しいが。でも、今オマエを楽しませてやる事はオレにも、
出来るぞ。大事な客人だ。モテナシテやろうか?」
ゆっくり、シノノメの手が動く。
「ワッや、ヤメロッんな、モテナシいらねえーよ!!」
「今日はゆっくりしてっていいんだぞ?どうせ暇だろう。
あんなシャッターの閉まった店の前で待ちぼうけてる様じゃ」
「ウッウルセエ!!は、放せッ」
シノノメの手がドンドンスピードを上げる。
「どうした?息が荒くなってきたな。もう降参か」
「こんな、こんなモンに、降参も何もねぇだろ!!あっ」
「なら、降参するまで、やるさ」
「う、ウソッマジ、ヤメテッちょっ待った、マジ待った!オレ
このまま出したら、ヤバイッマジ、ヤバイッテ!!」
シノノメがオレの忠告も無視して、薄く笑って、握りを強くした。
「ヤッめ、・・あっ、あっ・・・・!!!」
ドクドクドクドクドクドクドクドク・・。
「ハッハァ、はぁ、はぁ、だから、・・・言ったのにっ」
シノノメが目を見開いて、見てる。
その顔のせいで、久しぶりに感じさせられる羞恥心。
その目がオレと合った。
で。
バシッとアタマ殴られる。
「いタッ」
「このヤロー!オレのベッドに粗相しやがって!!」
「なっ・・・!!」
顔が熱くなる。
「だから、ヤバイって言ったじゃねえかよ!!オレだって下、
制服だったんだぜ!?こんなもん、クリーニングにも出せねえ
んだからな!!」
「コッチのセリフだ!!んの、ガキ!!」
シノノメがオレをムリヤリ立たせると、オレをバスルームに
押し込んだ。
で、自分は戻ると今度はベッドのシーツを剥がして持って来た。
無言で服着たままシノノメがシャワーの蛇口を開けた。
「ワッ服!服着てるって」
「流してやるからジッとしてろっ」
服着たままで、シャワーの下に引っ張られて、シノノメもシャツ
もズボンも履いたまんまで。
オレなんてチンポ出したまんまで。
スゲー、恥ずかしくなってくる。
隠したくなって手伸ばしたら、先にシノノメの手がオレのチンポ
掴んだ。
「良かったか?それとも溜まってたか?シガが居ないんじゃ、
自分の手がいいとこだろう」
「うるせえな!自分で洗うから、もうアッチ行けよっ」
って言った直後。
オレは目見開いて、シノノメを見た。
シノノメもオレを見てる。
シノノメの唇がソコにある。
舌が。
口の中に這入って。
唇が軽く吸い付く。
その感触が。
アマクテ。
優しくて。
切なくて。
泣きたくなった。

誰でもいいってわけじゃない。
オレだって好みあるもん。
でもさ。
慰められるキスって本当にある。あった。
今は。
このキス、拒めない。

腕が背中に回る。
うっすらとシャツ越し、シノノメのイレズミが見えた。
それが、見たくて、シャツのボタン指で掴んでた。
その指掴まれて、シノノメが自分でシャツのボタン外してく。
濡れたシャツを脱いでく。
それが、すげーイロっぽかった。
両肩に、何か花とか鳥とかの絵が描いてあった。
花が芽吹くような、鮮やかな色だった。
脱ぎ捨てるとシャツがバシャッと音を立てた。
オレの半脱げのシャツも脱がされて、抱き締められる。
オレも、なんとなく。
シノノメの背中触って。
ハダカの肌がくっつく。
その心地よさに、もっと泣きたくなる。
「ガキは、あったけえな」
シノノメが言った。
それで、またキスして。
「あ、アンタ、何なんだよ・・?なんで、キスなんか、
すんの?ヤリてえワケでもねえくせに」
それにシノノメは少し首傾けて笑った。
”わかんねえだろうな”って顔。

ガキだって自分でだってわかってる。
それが悪いとも思ってない。
まだ、オレはガキなんだから。しょうがない。
でも、こんだけ。
目の前で。
大人のオトコ、目にすると。
イヤでも。
腹が立つ・・・!
対抗心っつーの?
オスとしてのプライドが疼くっての?
つーか。
オレばっか感じてるみたいのが、頭キタ。

だから。
オレだって受けて立とうじゃん?

シノノメのズボン。
ジッパーを下ろす。
その形。
掌で押し付けるように確かめる。

シノノメは眉一つ動かさない。

今度はオレがシノノメのチンポ扱いてやった。
やってる間中。
やっぱシノノメは顔、無表情で。
悔しくなる。
でも、勃起してるから、キモチいいんだと思ってたけど、
でも、なんか自信無くしてきた時。
シノノメがすごいねっとりキスしてきて、チンポがビクビク
って、オレの手の中で動いた。
オレの手から溢れたそれが、オレのズボンの上、シャワーと
一緒になってトロ、トロ、流れてった。

そのクセ。
「まぁまぁだな」
って言いやがった。
「オレ、ウマイんだぜ?」
「オレもだ」
笑って、シノノメがシャワー止めた。
「脱げよ」
半脱げのズボン脱ぐと、シノノメがタオルを投げる。

筋肉質な後姿。
その背中に鷹みたいな絵が描いてあった。
で、マッパのまんまベッドに向かう。
「な、なんか着ろよ」
「・・・どうせ。脱ぐだろ」
なんて。
なんて、不吉なセリフ・・・!!
で、シノノメがサッと新しいシーツをベッドに掛けた。
その上へ寝そべると、手招く。
で、もうなんか今更で。
オレも抵抗なんてしなかった。
寄ると、引っ張られて、胸に抱かれて、またキスした。
何度も何度も。
「シノノメ・・さんっ」
「もうイキそうか?涎垂らしてるな」
敏感になりまくりのオレのチンポはちょっと撫でられるだ
けで、噴出しそうだった。
もうどうでもしてって、目瞑る。
そしたら、チンポに痛みが走って膝が立った。
「な、なに、コレ・・・」
シノノメが笑って、オレのチンポを撫でた。
ソコに。
オレのチンポの根元。
ギュッと太目のゴムが巻かれてる!
「ウ・・ソ。アンタ・・・Sの人?」
「まさか。これは風俗店の粗品だ。オープン時配った
ヤツの残りさ。まさか使う時が来るとはな」
言って、シノノメがベッドをずり下がった。
「ま、さか、だよ、ね?フェラするっていうんじゃ・・」
「さすがに、初めてで飲む気にならねえからな。咥えた
途端、噴出されちゃ困るからな」
「やっいいっいいって!!あうっあああぁっ」
シノノメの背中が見えた。それが上下する。
チンポを濡れて熱い刺激で包まれた。
尿道がゴムで圧迫されて、イキそうなのに、イケない!
もう、シノノメの口が、舌が、動く度、腰がガクガクするのに。
射精できない苦しみがオレを襲う。
「やめてっイテェッチンポ、千切れるッシノノメ!!」
シノノメがソコで笑ったのがわかる。
それから。
深く呑み込まれる。

ああああああああああああああああああああッ














初めて。
オレ、セックスで、失神した。
失神させられた。










気がつけば、朝だった。







シノノメは横に居なかった。
オレは裸で。
本当に監禁されてるって気づく。
裸じゃ、どこにも行きようがない。
モチロン。試しに引いた回転しないドアノブ。
鍵が掛かってた。

オレは本当に誘拐されて。
もしかしたら、そのせいでランは脅されてんのかも知んない。
ラン、ゴメン。
オレが変な気起こしたりして、あいつの言いなりになんかなった
せいで。
さっさと逃げてれば良かった。
(アイツから逃げられる気しないけど)
いや、元はと言えば、ゲンだ。
あのクソヤローがランを攫ったりするから悪いんだ。
でなきゃ、きっとランは毎日店開けて。ちゃんと借金も返せてた。
それで、オレとずっと一緒に・・・。

ラン。オレとずっと一緒に居たくなかったのか・・・?
あんな風に居なくなるなんて卑怯だぜ?
理由がわかんないんじゃ、オレどうしようもないじゃん?
ただ待つ事がどんだけツライか分かってんのかよ・・?
それとも。
アンタもずっと。
ずっと、待ってたのかよ?
ゲンを。
オレに抱かれても。
やっぱ忘れらんないで?








忘れられる訳ねえか。おんなじ顔、してんだもん、な。

「らん・・・」

帰って来いよ。
それで、ちゃんとしろよ。
ちゃんと、終わりにして。
それから、始めろよ。
アイツ、ホンット、いい年した大人のクセに。
面倒な事から逃げてばっかで。
だから、こんなヤクザなんかに追われるはめになるんだ。
そのトバッチリ受けてるオレの身にも・・・。

カッと熱くなった。

シノノメの背中を思い出す。
あの鮮やかな色。
バスルームでキスして。
あの目がオレを見つめてた。
不思議な高揚感。

あんなオトコに愛されるオンナってどんなだろう。

・・・・。

バカらしい。
アイツがセックスしてるとこなんか想像して。
アイツに比べたら。
ランの方が。
ランの方が・・・。

ちょっとだけさ。
ランのキモチがわかる。
どうして、オレと寝たのかとか。
なんとなく、わかった。
オレがシノノメのキス拒めなかったみたいに。
たぶん、ランも拒めなかったんだよな。
ヤサシクされたら。
やっぱ弱いじゃん?
今なんか、ヤバイくらい飢えてる。
そんな時に。
すげー優しいキスされたら。
・・・・きっと、好きじゃ、なくたって・・・。
受け入れるんだよ・・・。

ラン。

オレじゃ、ダメなんだよな・・?
だから。



「泣いてんのか?」
グズッて鼻啜ったすぐに、ドアが開いてシノノメが姿を
現した。
「シノノメ・・!」
グレーのシャツに黒っぽいツヤのあるスーツ。
口元が軽く上がって。
見上げてたらスッと顔寄せられてキスされて。
オレをベッドへ押し倒した。
両手。
指絡ませて繋がれて。
深く。
深くキスされる。
唇が熱い。
シノノメのキスはゆっくり締め付けるようなキス。
めちゃくちゃに暴れまわるようなんじゃなくて。
追い詰めてくる。
少しずつ少しずつ、奪う。奪われるキスだ。
息が上がる。
「し、ののめ」
「セイショウ。お別れだ」
「・・・え?」
アタマがボーっとしてた。
「足がついた。ランのバックが動く。オレは当分日本から
離れる」
「何ソレ・・・?ワケわかんねえんだけどっ」
「さよならだ」
シノノメが笑ってもう一度キスした。
で、指が離れてく。

ちょっと、ちょっと待てって!

「シノノメ!!」
オレはシノノメの上着掴んで引き止めた。
それ見て、シノノメが驚いた顔してから小さく笑った。
「また、戻ってくるさ」
手を握られて、指解かれる。
「またって。・・・・またっていつだよ!?シノノメ!」
呼んでも振り返らなかった。
また、オレはベッドに残されて。
部屋にはまた鍵掛けられて。

さよならって。もう、会えないって事なのか・・?
バカだ。
あんなアブネエ奴なんか二度とゴメンだ。
オレはここに誘拐されて、監禁されてんだ。

なのに。
何、考えてんだよッ

頭ブンブン振って、オレはドアを滅茶苦茶に蹴りつけた。
「開けろ!!開けろよ!!シノノメ!!出せよ!!テメー
オレ、置いてどこ行くつもりだ!!戻って来い!!この
クソ!!」

ガンッと踵で蹴ってすぐ。

ドアが開く。
「シノノメ!?」
入って来たのは違うスーツ。
驚いて凝視。
向こうもオレがマッパでビックリしてたみたいだった。

「カミジョウ セイショウか?無事だな?」
「・・・アンタ、誰?」
「さあな。オマエを探しに来たモンだ。シガが待ってる」
「うそ・・・ッ・・ランが?」
オトコがベッドのシーツを剥いで、オレに巻きつけた。
「なぁ、どういう事?」
「行けばわかる」
それだけ言うと、そいつはもう何も言わず、オレを車まで
連れて行った。
そして。
無言のドライブ。
その終点は。


市立総合病院・・・!?


「ここに、ランがいんの・・?」
「そうだ」
やっとオトコが喋った。
で、駐車場に入ると、また柄の悪いスーツがオレ達を待ってた。
紙袋を渡されて。
その中のシャツとズボンに着替える。
「こっちだ」
案内されるまま。ついて行く。
信じられない思いで。
オレは病室の前で立ち止まった。
スライドの扉が開かれる。
そこに。

「セイショウ・・・!久しぶりぃ」

あのヘラっとした笑顔がそこに。
そこに。
「ラン!!」
目がジワッと熱くなった。
もう涙が止まんない。
「ランッ何処行ってたんだよ!!すっげ、すっげ心配して!!
勝手に居なくなるな!!何も言わないで消えんな!!何もオレ
わかんなくて・・・!!」
ランが手伸ばしてオレ抱き締めてきた。
「悪かった・・。バカやっちまった。無事で良かったセイショウ」
「ランッランッ」


そのまんま。
オレ、わんわん泣いてた。
ランに抱き締められて、周りなんかマジ見えてなかった。
すぐそこにゲンが立ってったって事もゼンゼン気づかなくて。
その時は、ただランに会えて嬉しくて、切なくて。

その間。
ずっと。ランの手がオレの頭、ずっと撫でてくれてた。










さぁ。
あの夜。
二週間前。
何があったか。

ベランダに出たランは空を見てた。
ベランダに凭れて、それはもう背中から落ちそうな程。
それを見た、ゲンがソコにいた。
早々と、傷心旅行から帰って来たこの男は、ランを攫うべく
その日の内に、現ナマにモノ言わせて。
ウチの隣の部屋に入居契約し、コッチを伺ってたわけだ。

(セコイ)

「ら、ランっあぶねえ!!」
思わず差し出した両手。
トロンとしたランの目が、ゲンの姿に止まる。
「アッレー・・?ゲン?」
笑いながら、ランはベランダに足掛けて。
たぶん1mくらい離れてるベランダとベランダの間を。
飛んだつもりで落ちた。
しかも、二階の斜め下の部屋のベランダに。

「ランッ!!」
真っ青になったのはゲンだ。
慌てて、下の階へ走る。
その間、オレはビール探してたわけだ。

で、戻るとそこにはもうランは居なくて。
どうりで、下に落ちてないわけだよ。


名前を聞いてみれば。
ランが入院してた病院は市内のとこだった。
こんな近くに。
ランは居た。
両足骨折して。
歩けるようになるには、2ヶ月掛かる大怪我。
「禁酒だ」
ゲンがランを睨んだ。
「マジで、ランはもう飲むな。もうオレヤダ。こんな事ッ
で?あのヤクザは?ランにバックがついてるって言ってた
けど・・・どういうコトなんだよ?!借金は!?」
「ああ」
ってゲンが言った。
「昔、ランがバイトしてた店のオーナーの事だ。ヤクザの
親玉だ。ソイツがランの借金の連帯保証人になってる。
だから、コイツがもし借金を滞納しても絶対取り立ては来
ない事になってる。だがな。どうも裏で、その契約書に
ケチがついたらしい」
偉そうにゲンが言う。
「アイツだ。オマエがバイトしてた頃、ランを気に入って
店に来てたチンピラが居たんだ。覚えてるか?お前が店を
辞めさせられるすぐ前の頃だ」
ランは、ああ・・。なんとなくって言った。
ゲンは呆れ顔。
「そいつが。ランの借金に気づいて。裏で動いてたって訳
だ。残念ながら、ランは両足骨折して行方不明になってた
訳だがな」
「・・・それって・・・。シノノメって奴?」
恐る恐るゲンに聞いてみた。
「林って奴だ。借金に託けて、ランをどうかする気だった
んじゃねえのか?ソイツ」

シノノメじゃない・・・。
それ聞いて、ホッとしてるオレ。
で、思い出す。
そういや、オトコに突っ込む趣味ねえって言ってたっけ。
そうだよ。シノノメの訳ねえ。

考え込んでると、ランがオレの頭撫でた。

「セイショウ。ヒドイ目に合わなかったか?本当に悪かっ
たな。オレ、電話したかったんだけど・・・番号覚えて
なかったんだよ・・・。ホラ引っ越したばっかだったろ?
自分の携帯の番号も覚えてねーし・・。ゲンに伝言頼んで
も、絶対行ってくんねーしで・・・ゴメンな?」
「オレが電話するワケねーだろ。ランが骨折ってなきゃ、
とっくに飛行機乗ってるっつーの。だいたいな」
ゲンがオレに向き直る。
「テメーがヤクザなんかに捕まったりしなけりゃ、こんな
騒ぎんなんなかったんだ。ケータに感謝しろよ。お前が連
れてかれるのを見てなきゃ、オマエ、逆にヤツラに使えね
えガキだって、山奥にでも捨てられるとこだったんだぞ」

そりゃそうだ。
アンタがランを絶対外に出すワケねーし。
したら、オレ人質の価値ねえじゃん。
そりゃお兄さん達だって囲ってたって仕方ねーもん。

でも。って思う。
アイツは。
アイツなら、いくらオレに価値なくなっちゃったって、オ
レ殺したりしないと思う。
なんて・・・。
オレ、・・・結構、シノノメの事、気に入っちゃったみた
いだった。

「ラン・・・・。なぁ」
ランを見つめて・・・・次にゲンを見る。
「・・・なんだ?」
いぶかしげな顔が、仕方無く口を開く。
「ランの事なら」
「貸してやる」
言うと、ゲンの目が見開いた。
「・・・ナニ?」
「コレだよ」
オレはランを指差した。
ゲンが呆気に取られてオレを見る。
「オレのだから、絶対に返せよ」
それだけ言って、ランを見る。
ランは噴出して、オレはモノじゃねーぞって言った。
「ヤダね。アンタはオレのモノだよ。家族だって言った
じゃん?オレはずっとそのツモリだからサ」
で、またランが笑った。
「聞いたか?レンタルオッケーだってよ!ゲン、ビール!」
「だから、オマエはもう飲むなっ」


ガキみたいな二人。
オレはそっと病室を出た。
出て。
足が急ぐ。
いつの間にか走って。
病院の外まで走って。
あの二人を探す。
病院の入り口で、あの車を探した。
車種なんて覚えてなかった。ただ黒っぽい車ってしか。
「カミジョウ君だね?」
後ろから肩を叩かれて、振り返る。
そこに。
見た目には、笑み。
金持ちそうな質の良さそうなスーツ。
でも、わかる。このフンイキ、シノノメにも感じたソレ。
ソイツがまた言う。
「オレは、アキタミチル。カミジョウセイショウ君。コイ
ツを知ってるな?」
目の前に突き出される写真。

シノノメ・・・!

「誰だかわかるか?」
一瞬にして、オレはこのオトコに教えてはイケナイと感
じた。
なぜなら、一生後悔するからだ。
そんな直感から。

息を呑んだ。

黙って。オレは首を横に振ってた。
それから、オレはアキタにジッと見つめられる。
「・・・・絆されたか」
呆れたような溜息がアキタの口から漏れる。
「それで、いいって言うのか?コッチは手がかり無しで、
お手上げでも構わない。大事なケジメはもう着いてる。
ザコに手は掛けない主義だ」
その言葉に思わず顔が上がる。
「が。
オマエに何が残る?優しさをチラつかせるなんてのは、
ヤクザの常套手段だ。それを。
こんなガキに使う、なんてのはもっての他だが」
アキタはオレのシャツの胸ポケットへ、トンと指で写真を
差し込んだ。
「見逃して・・くれんの?」
「ヤクザがそんな甘ちゃんでヤッテられると思うか?」
アキタは笑って歩き出し、オレの横を通り過ぎて行った。

そっと。

胸のポケットから写真を取り出して見る。
隠し撮りのソレは、少しボケた写真だった。
それに、少し胸が痛む。
もう、会えないのかって。
あのオトコにもう会えないのかなって。
あんな目した奴とはもう二度と会えないかも知れない。

寂しい。

素直にそう思った。
たった一回だけ。
ハダカで抱き合ったオトコ。
それだけ。

写真を胸に仕舞って。
病院の白い壁に寄り掛かって、ズルズルとしゃがみ込む。

ランがかわいかった。
ヘタレで、どうしようもなくって。

なのに。
今はあの強い男に会いたくてしょうがなかった。
絶対に弱みを見せないようなあのオトコに。
無表情でスッゲーキスかましてくるあのオトコに。
追われてるクセにオレにチューしに戻ってきたオトコに。
きっと。
オレがチクったって、チクんなくったって関係ない。
きっと、アイツなら飄々と生き延びる。

あの口元だけの笑みをまた見たい。









空を見た。
空を引っ掻いたような雲。


シノノメさん。
言ったよな。
また戻ってくるって。

なら、待っててやろうじゃん。
オレはな。

誰も居ない部屋は嫌いだけど、待つのは得意なんだぜ?


マジ、で。




















目の前にアンタは居ない。なのに、あのキスみたく。
オレから何かを奪ってく。
ソレを返して貰わなきゃ。
今だって、何かを少しずつ少しずつ奪われてく気がするから。



「返して貰おうじゃん。道理だもん」


そう。
そして、大事な事を決めなければイケナイ。
ソレハ。


オレが、抱くのか抱かれるのかだ!(笑)





「スッゲたのしみじゃん」

病院の入り口の横でしゃがみ込み。
ニヤけてるオレは相当にアブネエ奴だったに違いない。















それから。
ランとゲンとその息子とオレが一緒に住むのは一年後のハナシ。
つづく!








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