「オマエは遊ばれただけだって」
「そうだよ、気にすんなよ。も、向こうは忘れてるって」

オレのとッッてもいいオトモダチのシナキ君とアラセ君。

オレを挟んでコイツら。

誰かを慰めるって初めてか!?テメーら・・・!

と、思わせるような、グサグサと突き刺さるセリフを
二段構えでオレに浴びせてくる。


駅の改札出た正面。
オレ達はタクシー乗り場の近くの手摺にケツ乗せて、
ボーッと、通り過ぎてくニンゲンを眺めてた。

「だいたいさ」
シナキが腕を組んで、また言い出す。
「オマエって、んな一途だっけ?チガクね?」
それに応えるのはモチ、オレじゃなくアラセ。
「チガウね。チガウ。全然キャラチガウから。合ってない
から」


で、悟った。イジメ?これ、オレ、イジメられてね?

そして、二段攻撃はまだまだ続く。

「も、いんじゃねーの?ホラ、いくらでも相手してくれ
そうな奴いんじゃん?誰かと、ヤッちゃえよ、もう」
失礼にも目の前を通り過ぎてくヒトを指差すシナキ。
「サ、ンセーーー〜!」
ガッコじゃ見せないようなビシッとしたアラセの挙手。

ますますオレの背中が丸くなる。
「・・グレていいか?」
「セイショー!マジわかれって!何が悲しくてこんな
夕暮れに、若いミソラでタカトビしたヤーさんなんか
待ってなきゃなんねーんだよ!?遊べ!オマエに必要
なのは、愛でも恋でもねえっ・・・・セックスだ!」
決まった。とばかりにシナキはオレを指差す。
「シナキ、カッキー・・・!でも、愛のねえセックス
なんてムダ。ムダだから。射精損だから。どっちかっ
つーといるのは出会いだから。純粋に」
「いーんだよ!今必要なのは、こいつの中からそのオト
コの・・・なんだ?触った感じ?テアカ・・?つーの?
それを排除するためにヤルしかねーんだよ」
「あ〜、残り香、ってやつ?」
「うー、ビミョウにチガウ!けど。ニュアンスはそんな
もん。オイ、聞いてんのか?セイショー」


コイツらって不器用なだけ・・?
それとも本気で、言いたい事言っちゃってるだけなの?



”アソバレテタ”なんて、わかってるっつーの!
勝手にオレが忘れらんないだけで。
アッチはマジ”ワスレテル”に決まってる・・・ってのも
わかってんだよ。
でもな。
でも。
戻ってくるってオレに言ったんだよ。
なら、いいじゃん。
オレ、待ってたって。誰にもメイワク掛けてないじゃん。


オレを挟んで、今日の議題にケリがついた二人は、オレを
尻目に目の前のドーナツ屋の店員がブスだとか手首がねえ
とか話し始める。
腹減ったとか、甘いモンが食いてーとか言う二人に、声掛
ける。
「も、帰れよ」
二人がオレを見る。
「バッカ。バーカバーカ!!」
マジ顔のシナキ・・・。

それには引くぞオレは。小学生かよ・・。

呆れてシナキを見てるとアラセが溜息混じりに口開く。
「あのなぁ、セイショウ。オマエ、今、どんな顔してっか
わかってる?モノ欲しそーなサビシそーな顔してるって、わ
かってなくね?」
シナキが舌打ちした。
「そんなオマエをさ。この雑踏に、夜に変わってくこの街に、
置いてけるワケねーじゃん?オマエなんかすぐどっか連れてか
れてクスリでも嗅がされて、ボコにされて、拉致ヨ拉致。んで、
性奴隷。流行ってるって知ってっか?そんな中に一人で居させ
られるわけないっつーの、ったく」

なら、もっとイタワリの言葉とか掛けてくれよ・・っ

・・・とは言えないけど。
一応心配はしてくれてるワケだな。

「・・・ん・・。帰るか」
「オシ!なんか食い行こうぜ」
言ってシナキが先に歩き出す。



ムダだってわかってる。
でも。
待ってたい。
人がたくさんいるのに。
どうして、アイツはいないんだろう。

駅からは、毎日毎日知らない顔がアリみたいにウジャウジャ
出てくる。
その中に、居たっておかしくなんかない気がするのはオレの
気のせいなのかな。
毎日、少しだけでも。
賭けみたいに。
あと30分だけ、とか。
オレは駅前で改札を睨んでた。
そんなオレの奇行に気づいた二人は、有難くも、オレを諭し、
オレとシノノメの再会を絶対阻止しようとしていた。


でもなぁ。
会いたいんだよ、オレは。
わかってくんねえかな・・?
アブナイオトコに惹かれるってキモチ、絶対誰でもあると思
うんだけどな。
あの目とか見たらサ。
あの冷たい目で、あんなスッゲェキスとかされたらサ。
もう動悸止まんないんだよ。
も、今だって、思い出すだけで、カラダおかしくなりそうだ
っつーのに。
こんなんで、オレ、誰とエッチしたって、きっと忘れられる
ワケねえんだよ。

「セイショウ。元気出せよ!今度オトコ紹介してやるから!
で、カラオケでも行こうぜ。もう1クラス分くらいオトコ集
めて!」
アラセが爆笑しながらオレの肩抱き寄せる。
少しだけウケた。
「やだよ。んなゾロゾロ」
三人で笑って、ブスな店員にドーナツを頼んだ。

「な?手首ねえよ」
シナキが得意そうに耳打ちした。

















何処に行っても、オレは毎日毎日マイニチ。

目に留まるのは、背の高いスーツ姿のオトコ。
でも、どんなに似てても。
シノノメなんかじゃない。
絶対違うんだ。
なぜなら、あのオトコは、一人しかいないから。
どんなに似てたって、アイツとは比較にならない。
あんなオトコはそういない。
これが、惚れてるってコトなのか、わかんない。
滲み出てるオーラとか。
纏ってるフンイキとか。
メチャクチャ憧れて。
あんなオトコになりたいって思わせる。
そんなヤツなんだよ。
きっと誰が見たって、わかってくれると思う。
だから早くシナキとアラセにもホンモノを見せたかった。
そしたら、きっとわかるから。
なんでオレが待ってるかとか。
誰も敵わないような相手だから。
好きにならないワケないから。

遊ばれたって構わないから。
あの人に触れるなら、オレはなんでもいいから。
被害者と加害者でも。
一回限りの相手でも。
うろ覚えのガキでも。

すっかり忘れた、男子高生でも。

オレは待ってる。
また、始める覚悟くらい、とっくについてる。
アンタが全部忘れてるなら、オレはマヌケにアンタの前
で転んでみせる。
忘れてたって。
・・・いい。
オレは覚悟してるから。


毎日、アンタを探してる。
アンタは、ドコニイル?
ドコデイキテル?
イキテルヨナ・・?











暗くなるキモチ。
小さくなる歩幅。
自然と足は、ウチに向かってた。
鍵を差し込むと空回りした。
すぐドアを開ける。
「よ。おかえりぃ。」
中からはヘラっとした顔のラン。
「・・・タダイマ。ラン・・・」
ランはキッチンでメシを作ってた。
その背中を抱き締める。
「ん〜。どした?」
「らん・・・。泣きてぇ」
「ダメ。今仕込み中。話なら聞いてやる」
仕方無く、手を放すと、ランは右に左に棚に手を伸ばす。
それ見てると、ホント泣きついてる場合じゃないと思う。
しゃーないから、リビングにサブバッグ下ろして、上着
脱いで、袖を捲くる。
で、また少しだけ、シノノメを思い出す。
「イレズミしよっかな・・・」
腕を眺めて呟いてた。
それ聞いたランが、ナッマイキって笑う。
それから。
二人で黙ってキッチンでメシを作った。
主にオレは洗いものしただけだけど。
「も、帰ってくっかな・・・?」
ランがカーテン閉める。
「仕事・・・見っかったんだ?」
換気扇の下で、タバコに火をつけた。
「イヤ?釣りだろ。土手で」
「・・・・・。そんなダンナでいいわけ・・?」
いーんじゃん?ってランはオレのタバコ奪う。
「あ、そういや、どした?イジメられたか?ガッコで」
「・・・うん。ラン、・・・オレさ・・・」
ランに言っていいのか迷う。
ランなら、頑張れって言ってくれっかな?
ゲンなら、きっと言う。大袈裟に。いい加減に。
「・・・んだよ。言えよ。言いかけて止めんな」
「ん・・・。じゃ、言うよ」
「おう」
ハァーーッて息吸って。
「ヤクザ好きになった」




数秒。
口開いたままでランは口元に寄せたタバコ吸うの忘れてる。
「ラン、ランってヤクザの知り合いいるって言ってたよな?
何か教えてもらえないかな・・?」
「セイショウ・・・。オマエは・・・。あん時のヤツか・・?
なんかされたのか・・?」
ランにしてはマジな顔だった。
「サレタって・・!そんなん・・」
思わず、怯むと。
「ワスレロ」
履き捨てるような口調だった。
「・・・・むり・・・だ、よ・・」

やっぱランも、反対なんだ。
思わず俯く。両手シンクについて、項垂れた。

誰も。
結局。
誰もわかってなんかくんねーんだ。
ランでさえ。

「セイショウ。あんなヤツラと関わったらオマエ、いつ死ぬ
かもわかんねえんだぞ!?なんでヤツラがあんな派手な墨入
れてっと思ってんだよ!?庶民とは混じらねえって言ってん
だぞ。それを自分から・・・!いいカモだろうが!」
「しょうがねえじゃん!!オレだって、好きで・・・っ」
目の裏が痛い。
息吐いて。
「ランならって・・・思ってた。」
言って、オレはランの横通り過ぎる。
「・・・待てよ。オレならなんだよ。ヤー公と取り持ってく
れっと思ったか?」
ザケンナって呟いて、ランが包丁出した。
その切っ先がオレに向く。
ギラリと白く光る刃にドキリとした。
「何てヤツだ?言え。」
「・・・シ、ノノ、メ」
言うとランは腕を下ろして、携帯を開いた。
包丁を持ったままの手で、タバコを持つ、タバコを口に持っ
てく。
「ら、んっあぶねえって、ソレ・・」
そっと。そっと手出して、オレはランから包丁をゆっくり
ランの手から外す。
それをちゃんと仕舞って、ホッとすると、ランが喋り出した。
「知ってるか?シノノメってヤツ。・・・ん。調べてよ。・・
・・ん。ミチルさんは知ってるんだ?・・ああ。や、話だけ。
・・・ヨロシク。ん。来週行くから。じゃ」
携帯閉じて、ランがオレを見た。
オレもランを見る。

「・・・・ラン。・・・しらべて、くれんの・・?」
タバコ持った手で頭掻いて、ランが目閉じた。
「ちゃんと。フラれた方がいいだろ。したら、諦め、つく
だろ・・?」

もしかしたら、会える・・?
そう思ったら。涙が落ちてた。
ランがびっくりしてオレを見てる。
慌てて、オレは手で押さえたけど、笑ってごまかしたかった
けど、どうにもなんなくって、しゃくりあげる。
「セイショウ・・っ泣くなよっオマエに泣かれると、オレ
弱いんだからっオマエ、かわいすぎなんだよっなんで、こん
なゲンとそっくりなんだよ・・・!?」
怒ったような、困った声。
オレを抱き締めると、ランが、マジでかわいいなぁって、髪
にキスしてくる。
嬉しいけど。
「オレ、ゲンの、ミニチュアじゃ、ねえぞっ」
「ハイハイ。よしよし。」
まるっきり。オレの人格無視して、ランがカワイイカワイイ
言ってた。

でもさ。
ありがとうラン。
やっぱ、アンタはオレの味方だ。
オレも何があっても、ランの味方する。
あんたが人殺すコトがあっても絶対アンタの味方になる。

「タダイ・・・。何・・?泣いてんのか?オマエ!」
背後にゲンが立ってた。
「泣いてねえよっテメー働けよっ」
オレは慌てて涙拭いて、ゲンの横、すり抜けた。
「うっせーな。オレは当分働かなくてもランと生きてける
位の金持ってんだよ」
威張るゲンにランが目を輝かせた。
「へー。そうだったんだ。じゃ、車欲しいなオレ」
「免許持ってねえじゃん・・・。オレら」
「ゲン暇なら取れ」
「ヤダ。オレは誰かにモノ教えられるのキライなんだよ」
「よくそれで、会社行ってたな〜」
「オレも思う。よく働いてたよオレ」
「エライエライ。メシ食お、食お」
「セイショウ!手伝えー」


ランの転落事件から。
ゲンが隣に住んで。
隣に部屋借りてるくせに、ゲンはウチに居候してる。
この奇妙な同棲生活にも慣れ。もう、ランがゲンとナニして
ても、気にならなくなってた。
だってオレのベクトルはシノノメに向いてるし。
ゲンも何か気づいてるのか、オレに出てけとも言わなかった。
ランは逆に、出てくなって言ったけど。
家族なんだろって。
変なハナシ。

本当の家族はゲンの方だってのに。


また二人が、ビール飲むか飲まないかで揉め出す。
オレはムシして色違いの箸を並べる。
キッチンからは、勝ち誇ったランの声が響いてた。

















「ここだけのハナシ。シナキ。どう思う。コレ」
「オカシイナ。ゼッテエオカシイな!」
オレの後ろを歩く二人がでっけえ声で内緒話を始める。

「なんなんだよっ」
振り返ると、腕組したシナキとオレを半目で睨むアラセ。
「何かあったんじゃねえの・・?コイツ」
「あったね。しかもヤクザ絡みで」
「んだと!オレらスルーして進行中ってか!」
「一回シメた方がいいな」
「そうだな。しかもオレ的には今すぐシメてぇな」

学校帰りに、オレが駅前をグズらず改札を抜けると二人の
総攻撃が始まった。
オレをアラセが羽交い絞めにし、シナキがオレの股間を膝
でグリグリしてくる・・・!
「イテッイテえっって!玉イテェ!わっわかったよっ言え
ばいいんだろ!」
駅の構内でチンコ弄られて勃起させられるなんて冗談じゃ
ないっ

ラスタで来週シノノメの話を聞けるかも知れない事を二人
に話した。

「”ラスタ”か・・。オレ知ってる。あの辺の顔が集まる
って店だ。あの店で飲めるって結構スゴイらしいよ。ザコ
は12時までしか居られねえって聞いた事ある」


「で、ランさんは何て言ったんだよ」
シナキが聞いた。
「ランは・・・。ちゃんとフラれて、来いって・・」
オレは、昨日のランのセリフを、繰り返した。
「・・・・・」
「・・・・・」
電車がホームに入って来て、スゴイ風が起きる。
オレ達は人の波に逆らって、三人黙って突っ立ってた。
サラリーマンやおばさんがジャマだって言わんばかりに、
ぶつかってく。
それでも、オレ達は凍ったみたいに動けなかった。

電車が出てく。

数秒の間。
いったい何人の人とすれ違っただろう?
その中にもシノノメは居ないんだ。
階段を降りていく人間の背中をボーッと見つめてると、アラセ
が、呟いた。
「そのヒトさ・・・。ヤクザ、やめちゃえば、いいのに、ナ」

ヤクザじゃなかったら・・・?

その言葉に胸が痛んだ。

「気休め言うな・・・!期待持たせるようなコト言うんじゃね
えよ!」
シナキがアラセの胸を突いた。
「ごめっ・・・でもさ。オレ、本当はさ」
「言うな!今更言うな!」
「セイショウ幸せにしてやりてえじゃんっだったら」
「だから、ダメだって言ってんだろ!!ヤー公なんかとシアワ
セになんかなれっこねえんだよ!!」
「ヤクザじゃなきゃ、応援してやりてえよっもう、こんな寂し
そうなセイショウ可哀想じゃんっ」
「・・・しょうがねえだろ!セイショウのためなんだよっ」
駅のホームで、何人もの人間が振り返る。
オレらは三人して、目真っ赤にして、怒鳴ってて、皆が振り
返って見てる。
「シナキ、・・・・ごめん・・・。オレさ・・・オレ、きっと
ずっとずっと好きだと思う。この先ずっと会えなくても。アイツ
と会うコト出来なくても。なんか、ゴッソリさ。持ってかれちゃ
った、みたいなさ・・・。・・・ゴメン・・・ッオレ、アイツで
なきゃ、きっとダメなんだ」
シナキが俯いて、バカじゃねえのって舌打ちした。
「・・・オイ」
アラセが向こう、反対のホーム見つめて。
「シノノメだ・・!アイツ、セイショウ!!アイツだろ!?」
「ドコ!?」
シナキがアラセの指差す先を探す。
ゆっくり、見えた。
振り返って、一発でアンタを見つけた。
そこだけがポッカリ空間が透き通って見えて、アンタは誰か
スーツと一緒だった。
「シノノメさん!!!」
最初のシが掠れて、声が、喉が痛くなる。
一瞬。
シノノメは、顔を上げて、どこかで呼ばれたって感じに周りに
目をやって、そして。
「シノノメさん!!!」
オレの方を向いて、気づいた。
口を少し開けて、あれって顔した後。
二ヤッて。

覚えてた・・・!?

アンタ、
オレを忘れてなんかいなかったんだ・・・!!
「シノノメさんっっ」
三度目。
声は、反対のホームに一瞬で現れた電車に吸い取られた。
「あ、行っちゃうっあの人、電車に乗った」
アラセが指差す。
電車はあっと言う間に、滑り出し。オレの前からシノノメを
奪って行ってしまった。

「こんなコトってアリなのかよっ・・!」
シナキがチクショーって叫んだ。
オレはただただ涙流して、呆然とするだけ。
アラセがオレの肩抱き寄せて、セイショウセイショウってオレ
の名前呼んでた。
嵐のような数分がそこで過ぎて行った。
どうするコトもできず、ただ突っ立ったままで。

「アイツ、・・・笑った。オレ見て、笑ってた・・・。忘れら
れたわけじゃないんだ・・・」
アラセも目真っ赤にして、良かったなって言ってくれた。
良かったな、セイショウって。
オレ、応援するからって。









それから数日が過ぎて。
オレはランに連れられて深夜のラスタへ向かった。
店の中は夜の街からそこだけ抜き取ったように、静まり返っていた。
「何コレ。音ねえじゃん」
客もマバラなカウンターへ向かってランが軽く手を上げた。
カウンターの内側。グラスを拭く手を止めて、男の人が横を指差す。
そっちに。
四角いテーブルを囲んだソファ。
その一番奥に、シノノメが座っていた。

途端に。
頭上にズシッと重力が掛かる。心臓が重くて一歩も動けなくなる。

シノノメは。
前のめりに膝の上に肘を乗せて、視線は低く、眼鏡の奥から覗くヒ
カル瞳でオレを見上げてた。

喉が鳴りそうだった。

シノノメはオレが来るって知ってたのか、少しも驚いてなんか居な
かった。

その両脇にも、同じようなフンイキの男達が並んでグラスを口に運
んでいる。
「ミチルさん」
ランが振り返って、笑い掛けた。
シノノメを直視してられなくて、オレも振り返ると、そこには、い
つかの男がコッチへ歩いて来る所だった。
怖いと直感で感じた男だ。
背筋が寒くなる。
ここで何が始まるのか。

ヤクザが。
ヤクザ同士が、向かい合って、話をする。
そんな場面なんか想像出来ない。
ガタガタと震えそうな手を自分で握りしめた。
もう一度。
シノノメを見た。
笑ってない。
あの日見せた笑顔はどこにも無い。
笑った事などないって顔でオレを睨みつけてた。
それが。
それが、絶望テキで。
何にも話が耳に入らなかった。
ずっと。
ずっと、シノノメの目を見てた。

これが最後なんだ。
もう二度と関わっちゃいけない人なんだ。

こんなに、好きだって思うのに。
こんなに、睨まれてたって、オレは。
オレは。

握った拳が、白く筋を立てた。
「セイショウ」
ランがオレを呼んで、初めて、シノノメから目を逸らした。
「な、に?」
「何じゃねえだろ?聞いてろよ、オマエ」
ヤクザが失笑してる。
オレは恥ずかしくなって、も一度シノノメを見た。
「シノノメはウチのシマで使おう。流石にラスタの店員には
むかないからな」
ミチルが言うと、店の従業員がクスクスと笑った。
「しかし。あの風俗の裏を取れるとはね。コッチはイイシノギ
になりますよ、アキタさん」
「ああ、願ったりだ。セイショウ君に感謝しなきゃな。こんな
オトコのドコがいいのかわからんが。追ったかいがあった」
「暫くはゴタゴタする。この繁華街はウチのメインストリートだ。
落ち着くまでは、この界隈から出るなよ」
シノノメが軽く頷いて言った。
「買ってくれるならドコでも良かった。まさか、アンタがわざわ
ざ買ってくれるなんて思わなかったが」
久しぶりに聞いたシノノメの声・・・!

ミチルが笑って、ランを見る。
「元はと言えばコッチの管理ミスで始まったヤマだ。ウチのカワ
イイ看板息子のお願いとあっては、無理もする」
「元だよ。もう」
ランは豪快にグラスを飲み干した。
ランはちっとも緊張なんかしてない。
それよりも、ここぞとばかりに酒を飲んで上機嫌だった。

オレ・・・何しに来たんだろう・・。

オレは一人話にもついてけないで、ただ渡されたグラスを口もつけ
れないで持ってた。
ランは、もう一杯グラスを受け取って、オレの肩を叩いた。
「シケタツラしてんなぁ・・!アイツだろ?オマエが探してたヤツ
って」
ランが思いっきりシノノメの顔を指差した。
オレは慌ててその指を下ろさせる。

なんて、怖いモノ知らずな・・・!

「こんな硬そうなオトコのドコがいいんだよ・・?オレのが百倍
カワイイぞ」
「ら、ランッ」
オレはもう居ても立ってもいられなかった。
「お、オレっもう帰る」
言って立ち上がって、オレは顔あげらんないまま店を飛び出した。

コワくて。
なんて言われるのか、コワくて。
あの目が。
オレを拒絶してる気がして。
射すくめられて。
もうどうしようもなくて。
オレは逃げた。

夜の街の中を滅茶苦茶に走って、誰彼構わずぶつかって、どっか
わかんない所で、やっと、やっと足が止まった。
荒い息がオレの耳ん中いっぱい。
あの目を思い出す。
カラダの底から自分が恥ずかしくなって、どうしようもなくなる。
「・・・なに、やってんだよ・・っ」
やっと。
目の前に。
手の届く距離に、シノノメが居たのに。
オレは逃げるしか出来なかった。
何にも。
一言も話す事も出来ないで。

好きだって言うはずじゃなかったのかよ!?

膝をコブシで殴る。何度も腕振り下ろして、涙が滲んだ。



その時。
聞きなれたメロディがケツのポケットからした。
見ると、ランの名前が光っている。
恐る恐る、携帯を開いた。
『モシモシ』
知らない声だった。
「もしもし」
『さっきの店にいたアキタだ』
「あ、・・・」
『戻っておいで。ランが暴れてシノノメを殴ってるぞ』
「ハ!?」
『君を泣かせたって、酒乱が暴れてる』
「マジで・・・!?ランが!?」
『シノノメにゃ効いちゃいないだろうがね。今、3人がかりで
押さえてる。早く引き取りに来てくれ』
「え、っと。そのオレ。ここドコか・・・」
『まさか、迷子になったって言う気か?』
アキタさんは大笑いして、シャレが効きすぎだって呟いた。
それから、少し音が遠くなって。
『迎えをやるからそこから動くな?』
って、電話が切れた。
「そこって、ここだよな・・・?なんで・・。オレ、どこかも
言ってないのに・・・わかんのかな・・」

トニカク。
言われたまんま、オレはその場所で、手持ち無沙汰で、なんか
の会社の壁に寄り掛かって待った。
その数分後。
5分もしない。
一台のメルセデスがオレの前でピッタリ止まった。
どっかの店の看板とかの派手な色をその車体に映らせて。
車の中は人影すら見せないのに、誰かが中から自分をジッと
見てる感じがした。
夜でも黒光りして見えるその車の真っ黒な窓が静かに下がる。
銀縁の眼鏡がネオンで反射してた。
「乗れ」
指で合図される。
ゴクッて喉が鳴ってから、やっと声が出る。
「シノノメさん・・」
呼ぶとシノノメは少しだけ笑ったように見えた。
助手席のドアがこっちへ開いた。
オレはガードレール跨いだ。
ドアの中へカラダを屈めると。
シノノメの手がオレの腕を掴んで、オレは引っ張られるまま、
バランスを崩してシノノメの腿に手をついた。
「ッシノノメさ」
「オレを待ってたって?」
ギクッとカラダが強張った。
「オレを、待ってたって、シガに聞いた。とんでもねえ酒乱
だ。オマエが飛び出して行ったと思ったらイキナリ、オレに
殴りかかってきやがった」
鼻で笑うシノノメが、オレの腕掴んだまま車を走らせた。
ハンドルの上をシノノメの手の平が滑る。
「ハッキリさせようか?」
シノノメの口元が上がった。
オレは何も言葉になんか出来ない。
車はゆったりと街の中を進んで行った。
掴まれた腕が。
シノノメの力がオレに伝わる。
握られた腕を、いつまでも離さないで欲しかった。











着いたのは駅からすぐのシティホテルだった。
シノノメは元々泊まっていたみたいでフロントに行くとナンバー
だけでキーを渡される。
エレベーターが少し上がってから外の景色を見せた。
なんとなく見つめて、1階エレベーターが上がる度に窓が一瞬壁
の中を通る、その時。
オレの後ろにシノノメの姿がガラスに映って、ビクついた。
その姿が少しずつ近づいて。
オレの真後ろで止まる。
シノノメの両手がオレの目の前のガラスにつく。
「この一ヶ月どうしてたと思う?」
シノノメの声が低く耳元に響いた。
エレベーターが昇りきり僅かな浮遊感を残して止まる。
ドアが開いて、シノノメのカラダがオレから離れた。
「降りろ」


カラダが震える。
こんな怖い思いした事なんかない。
これから、する事は。
だいたいわかる。
だけど。
それで、いいのか、それが、合ってるのかわからない。
オレは、そうしたいのか、したくないのか。

それとも。
オレはここに、全部終わるために、呼ばれたのかも知れない。
ランは言ってた。
フラれて来いって。

アンタなら、どうやってオレを振るんだ?
それとも。
ヤクザの手管ってヤツで、またオレをガンジガラメにすんの?
これは、ワナ?
アンタは全部お見通しで。
もしかしたら、初めて会った時から筋書きは決まってて。
オレがこうなるってのもゼンブ。

「セイショウ」
呼ばれて顔を向けると、シノノメがソファに座っていた。
深く背にカラダ預けて、また指で手招く。
オレは目の前に行って、自然と膝ついてた。
シノノメの前で跪いて。
手を取られる。
軽く引かれて、オレはシノノメの膝の上に顔乗せた。
そのアタマをシノノメが撫でてくる。
さっきまでの鼓動が嘘みたいに落ち着いて、目を閉じる。
「ネコみてぇなヤツだな」
クスリと笑って、強く腕を引っ張り上げられた。
「あっ」
カラダがシノノメの上へ上がる。
「オレが、何してたか・・・教えてやろうか」
両腕を掴まれて、シノノメの顔が寄る。
「シノノメ・・っ」
「禁欲生活だ」
笑って。口元だけ引き上げて、シノノメの唇が開いた。
それが重なる。
熱くねっとりと。乾いた表面も一飲みに、齧られて、舐めら
れて、ゆっくりゆっくり嬲るみたいな、キス。
一度離れて、深く息する。
「オマエに挿れときゃ良かったって、散々後悔したぜ。あれ
が最後だったからな」
ギュッと抱き締められた。

なんて事、言うんだよっコイツ・・・!!

思わず、オレはその腕から離れようと体浮かせる。
それをまた強く押さえつけられる。
「逃げるな」
「ま、・・・っ待ってって・・!」
「ヒトツキ、待った。オマエも待ってたんだろ・・・?シガ
はそう言った。応える気が無いなら、会わないでくれってな」
「・・・・ランが・・?」
「足を洗うならってな。ま、成り行きで暫くはオモテには立てな
いしな。それもアリだろう。当分はアキタミチルがフォローして
くれる」

アキタミチル・・。
で、思い出した。
「さっき・・・。どうしてわかったんだ?オレの居たとこ」
シノノメは、ああ、って笑う。
「電波の基地でわかるんだろう。あの辺りは違法に電波のアンテ
ナが立てられてる。アキタはその電波の発信地を割るソフトを持っ
てるんだろう。パソコンで調べてすぐ、オレに地図でオマエのいる
所を当てたからな。この界隈の情報は全てヤツに入るんだろう。
盗聴器なんて古臭いモノを使わないでな。さて」
シノノメがオレの腕を掴んで立たせると同時、立ち上がり歩き出
す。
「な、に・・?」
「懐かしいだろ?」
シノノメが眼鏡外して、ニヤリと笑った。
開いたドアは広い洗面所でその奥は。
曇りガラスの扉を開けてシノノメがオレをそこへ押しやると、イキ
ナリ、蛇口を捻った。
「ワッ!!」
逃げようとするオレをシノノメが自分が濡れるのも構わずに押さえ
つける。
頭からモロに被って、息苦しくて口を開けて。
その口に。シノノメの唇が重なった。
苦しくて、シノノメの体を押し返す。
ビクともしないシノノメは、オレの口ン中で暴れながら、メチャク
チャに手でオレの背中撫で回した。
濡れたスーツにしがみついて、オレは僅かな隙間から息をして。
もう力なんか残ってなかった。
立ってるのもやっと。
「セイショウ。いい顔出来るようになったな」
シノノメが笑って、またキスしてくる。
「シノノメッ」
「抱かせろ」
シノノメの手がイッキにオレのパンツの中にねじ込まれる。
「アッウソっ待って・・・!オレ、ムリッ・・・!!」
指がグッと押し込んでくる。
「ヤッヤメロッヤダッオレッオレッ・・・!」
シノノメの指が容赦なくオレの中へ奥へ奥へと進む。
「ヤッ・・・!」
その口も塞がれる。
シノノメの舌がオレの舌に絡んで、一度引くと今度はシノノメの唾
液とまた這入ってくる。
それが喉の奥へ流されて、オレはそれを飲み込む。
その間に指がたぶん根元まで挿れられてた。
カラダの中で、シノノメの長い指が曲がったり伸びたりしてる。
その動きを感じる度に、どんどん力が抜けていった。
「た、すけて・・・!放し、て、くれ・・・!」
「全部終わったら放してやる」
低く掠れたシノノメの声。
でもそれもすぐ戻ってきて、また口の中を犯される。
膝に力が入らない。
でも。
力が抜けると、シノノメの指がもっと中に食い込んでしまう。
指は中で動く事を止めて、穴のギリギリまで抜かれ、再び奥へ潜る。
その度にオレはビクビクした。
シノノメの肩に必死でしがみ付いて、膝が崩れないように。
開けたままの口からは掠れた声が漏れた。
何度も何度も指がソコから這入り抜かれる。

ソコが熱くて、シャワーの温度より熱くて、シノノメの指の感覚すら
わかんなくなって。

もう息だけがバスルームにはぁはぁ響いてた。

「挿れるぞ」
その言葉にすら反応出来なくて。
グッとムリに服をずらされた後、そこへ指と違う体温を押し付けら
れた。
そのまま。
ソレは。
オレの中へ。

「アッアッアッ・・・!!シッノノ、メッ・・・!」
足を持ち上げられて、ズズッとソレが這入って来た。
もう足に感覚が無い。
掴まる手にも力が入らない。
カラダが落ちて、シノノメをイヤでも飲み込む。
「ガキのカラダが柔らかいってのは本当だな」
シノノメが薄く笑って、オレの背中を壁に押し付けた。
同時、腰が跳ねる。
「く、るしぃ・・・っ」
シノノメにはそんな言葉は届かない。
ドンッと突き上げられた。
「ハッッ・・・!」
心臓が止まりそうになる。
完全に両足を浮かされて、殆ど、繋がったソコだけでカラダを支え
られてた。
シノノメのスーツを掴んだ手は情けない程に震えてた。
「やっぱり、あの時、抱いておくんだった・・・!我慢なんてしな
けりゃ良かったよ」
なぁ?って言って。
シノノメが烈しく突き上げてくる。
「アーーーーーーッヤッヤメッダメッヤメ、テッウッウッアッアッ」
烈しくカラダの中を掻き回されて、摺れる痛みがあるのに、確かに、
イク前に感じる快感がソコにはあった。

ああ、このままされてたらイッちゃうかも・・!

剥き出しのチンポがシノノメのシャツに強く擦れる。
その刺激だけでもイキそうになる。
もう、カラダの全てがソコに集中して、熱くて、イキたくて、シノ
ノメのチンポを締め付けた。
ギュッと締まるのが自分でもわかる。
なのに、シノノメはまるで変わらないピストンをさらに続ける。
「ウッウゥッあああああああっ」
尿管をゾゾッと熱い精液が這い上がる。
「もっと、出せよっ」
もっと出るだろって、シノノメが更にオレの両足を開いた。
グリッと奥で当たる。
オレは飛び上がりそうに背筋が伸びた。
ケツに滴るシャワーで打ち付けられる音がパンパンと響く。
「熱いっも、は、なせっはなせよっああああっ」
「たっぷり注ぎ込んだらな」
シノノメが笑って、イクぞってカラダをもっとガクガク揺さぶられた。
「アッハッアッアッアッアッ・・・・!!」
突き上げのスピードが上がるとオレの声までスピードが上がった。
そして。
大きく突き上げられたまま、シノノメが動きを止めて荒い息を吐く。
カラダの中にジワジワと広がる熱を感じた。

出されたんだ・・・・。

中で、シノノメが、イッタ。
数秒、そのままのカタチで動けなかった。

「セイショウ。イキっぱなしだな、オマエ」
言われて、視線を落とす。と。
オレのチンポがタラタラタラタラと、漏らすように白液が
シノノメのスーツをシャワーと混ざり伝って落ちて行く。

顔が燃えるように熱くなった。
シノノメがオレの足を放して、オレの中からソレを引き抜いた。
膝が崩れる。
と、カラダをシノノメが支えてゆっくり降ろしてくれた。
シノノメも膝をついて、今度は背中から抱き締めてくる。
両手を前に廻して、オレのタマをヤワク握りこむ。
「い、たい、よ・・・シノノメ、さん・・っ」
もう片方の手はもっと奥へ伸びて。
開いたままの肉の中へ潜る。
「アッ・・・!やっ何、すんっの・・・!?」
「全部、出させてやるよ。指で前立腺を刺激する」
「い、いいっもう、いいってっ」
腕を解こうとしても張り付いたみたいに動かない。
「オマエ、こんなもんじゃねえだろ・・?前はもっと出てただ
ろーが」

じゃ、扱いてくれって言えないけど・・・!
本気でもうヤメテ欲しかった。こんな強引にカラダ満足させら
れたくなんかなかった。
「や・・・だよ、も。ヤダ。カラダばっか・・・!オレ、エッ
チしたくて、アンタを、待ってたワケじゃねえのに・・っ」
シノノメの腕を押さえながら、悔しくて涙が出る。
「オレはしたかった。目の前にいるのに我慢なんか出来るか。
オマエとヤル事ばっか考えてたんだ。好きにさせろよ」
ヒトツキも待ったってシノノメは再び指でソコを攻めた。
ビクンッ
腰がキモチ上がる。
も、どこも力が入んないって思ってたのに、ソコを弄られると
ケツがネダるみたいに窄まる。
「アッヤッアアッアッや、だっ」
グリッとする。
チンポの先からプクッと白液が押し出される。中から除々に、
少しずつ、押し出されてくる。
それは、シノノメの指とリンクして・・・。
這い上がってくる精子が出る度、背中が強張る。
何度も何度も何度も繰り返し。
どの位の時間が掛かったろう?
息をするのもやっとな程カラダがダルくなった。
「これで全部か・・・」
シノノメの声で、やっとで、指が抜かれホッとする。

ヤラれる方がこんなにカラダキツイなんて知らなかった・・。

自然と瞼が下がる。
このまま眠ってしまいたくなる。
そのカラダを。
シノノメが濡れてまとわりつくシャツを丁寧に脱がせてくれる。
ナスガママ。
ハダカにされて、抱き起こされた。
抱かれて、そこには、シノノメの体温。
薄目開けると、シノノメのあの鮮やかなイレズミが目の前にあ
った。
首の後ろを手で支えられて。
膝の裏にシノノメの手が入る。

え。

と思った時には。
カラダの中に再びシノノメを受け入れてしまっていた。
「う、そ」
すぐに揺さぶられて、シノノメがさっきまでの無表情じゃなくて、
苦々しく眉間を寄せて、睨みつけるようにオレの中でピストンする。
もう、自分のカラダじゃないみたいだった。
熱くて。
ソコしか感じない。
タイルの上で痛いとか、硬いとか、そんな事ぶっ飛んでて、ソコに
滑り込んでくるシノノメのモノが全てだった。
その感触だけ。
それを覚えこまされるように。
何度も何度も繰り返される。
繰り返し、吐き出された。
その感触を、忘れさせないようにするためみたいに・・・。

シノノメが中で震える。

それが、わけわかんないくらい、嬉しくなってた。






















カチャカチャと音がした。

皿とか洗ってるみたいな音。
ランが朝飯作ってる音かも。



・・・・・。
そんな訳ない!!

オレは一瞬で思いだして、飛び起きた。
シノノメがまた消えタンじゃないかと思って。
アレが夢だったなんて、許せない!

と、カラダを勢い良く起こす。

そこに。
ベッドのサイドボードへ朝食のトレーを置くホテルマンが居た。

ボウゼン。

その人はオレをチラとだけ見て、無表情で、失礼しますと頭を
下げると、部屋から出て行く。
そのドアから今度はシノノメが現れた。
「起きたか」
シノノメはまた暗い色合いのスーツ姿だった。
その顔を見ただけで、自分の顔がカッと熱くなる。
「オ、レ・・・」

ハダカだった。

それを。
それを、オレは・・・、今、見られたんだ・・・!モロで、ヤッた
後みたいなカッコを・・・・!!!

「もヤダッ・・・!オレ、もう外歩けねえ・・・・!!!」
枕につっぷす、とシノノメの笑い声が聞こえた。
「そりゃいい。オマエもオレとここで缶詰だ。それなら退屈しない
でいいな」
「シノノメさんっ」
ニヤニヤと笑うシノノメがオレの背中に唇を滑らせる。
「あ、アンタ、アンタなぁ!!あんな事して・・!あんな、あんな・
・・!!これで、サヨナラとか言ったら殺すからな!!!」
「何言ってる・・?もう寝た仲だろうが」
「・・・・?」
「一度寝たんだ。お前はオレのモノだろうが」
当たり前。みたく素っ気無く言われる。
「・・・・そういうモンなの・・・?でも、それって・・・」

オレを好きって事・・・・と、チガクない?ビミョウにチガクない?

「セイショウ・・・」
シノノメが口角を上げて眼鏡を軽く押し上げる。
顔をオレの肩へ乗せて。
「スキだって、言って欲しいのか・・?アイシテルって・・・?」

完全にバカにされてる・・・!

でも、オレは、言って欲しかったんだ。本当なら。本気なら。
でも、素直に頷けなかった。
シノノメの顔は、いくらでも言える。嘘でもいいならって笑ってる。

嘘なんかイラナイ・・・。

「そうだな・・・。オマエ、綺麗な背中してんなぁ・・・。彫るか」
「え!?」
「オマエが本気だってんなら、彫れよ。ガキのタワゴトじゃないって
言えるならな」

オレを信じさせろ。

その目が真剣だったから。
「いいよ」
即答出来る。

「それで、アンタが信じてくれんなら、切っても焼いてもいいよ」

そのセリフにシノノメが険しい顔になった。
「バカヤロウ・・!よく考えろ・・!そんなモンでオレが信じると
思うか?オレが信じるのは、カラダだけだ」
「・・・カラダだけ・・?」
「抱きたい時に抱きたいヤツを抱く。それだけだ」
わかるか?って聞かれて、首を振った。
「ガキッ」
舌打ちして、シノノメがタバコを咥える。
「・・・どうすりゃいいの・・?教えてよ・・。どうしたら、スキに
なってくれんの・・?」
少しだけ振り返ってシノノメが言う。
「寝るだけじゃわからねえか?」
「・・・・だって。セックスはスキじゃなくても、出来るよ・・」
それを聞いたシノノメが煙と一緒に溜息を吐く。
「どうしようもねえガキだな。変なトコばっかオトナで」
シノノメが上着を脱いだ。
続いてシャツのボタンも外す。
「抱いてやるよ。そういう抱き方を教えてやる」
顔が真っ赤になる。

そういうって・・そういうって!?

「ま、待った!オレは、口で、好きかどうか・・・オレの事どう思っ
てんのか聞きたいだけで!!」
「比べろよ。誰でもいいから。オレがどんな風に抱いてるか覚えろ」
肩に圧し掛かり、シノノメの両手がカラダ中を這う。
「く、比べるってっオレ、アンタにしか、ヤラれてないのにっ」
「ったくガキは・・・!」
覚えろって言われるまでもなかった。
カラダは隅々までシノノメの手を覚えてた。
ドコを触られても発火しそうだった。
「好きだって・・!言えよっ」
「ヤダね」
シノノメの目が眼鏡の奥で笑う。

どっちが!どっちがガキだ・・・!


結局。




オレは用意された朝食には手をつけず、再びホテルマンに事後を
見られるはめになった。

その上、無断外泊で、ランにも怒られて。

でもオレ、ランがシノノメに足を洗えって言ってくれたって知っ
てる。

やっぱり、ランはオレの味方だ。
フラれて来いなんて言って。
実は知ってたクセにさ。


さあ、オレはどうしたら、シノノメをオトせるのかなぁ・・・?

「・・・・名前でも彫るか・・?」
したら、ちゃんと、好きだって言ってくれんのかな・・・?











「やあ!シナキ君」
「よぉ、アラセちゃん」

放課後の昇降口。
靴を履き替えるその後ろに二人が腕組して立っていた。


来たな・・・。

オレは何がイヤだって・・・。
シノノメとヤッタ後で、コイツらに会うのが。
イッチバン・・・!!
イッッッチバンッッ・・・・!!!
嫌だったんだよ・・・っ

シナキとアラセがオレをジッと睨みつける。

な、何もオレ、変わったとこなんかねえよな・・・?
思わず、自分のカラダ摩りたくなる。
両肘、手で押さえて。
「な、なんなんだよっ」

「見たか?シナキ」
「見た見た。バッチシ見た」

「何をだよっ」
イヤでも顔が赤くなるのがわかる。
何、見たってんだよっこいつら・・!


「人のシアワセってこんなにも面白くねえもんだったんだな」
「ホント、マジ面白くねえな。あんな騒いでたオレらナニ?」
「あ〜あ。この胸にポッカリ開いたアナ、誰か埋めてくんね
えかな」
「マジ、オレも具合悪くなりそう。胃にアナ開いてたっつー
のによ。これ、誰か責任取ってくんねーかな?」

「お、オマエら・・・。何なんだヨッ奢ればいいのかよ!?」
「食欲でオレのアナが埋ると思うなよ?セイショウ」
「オレは埋る。奢れ。奢って、アラセに聞かせてやれ」

「なにを」

聞くと、アラセが耳貸せってジェスチャー。
小声で。
「挿、れ、ら、れ、るって、・・・ど、ん、な、ん?」

顔が、真っ赤になる。

それ見て、アラセは大爆笑。シナキはケッと舌打ちする。

「な、なんなんだよ・・・!オレはなぁまだシノノメと上手く
イッタワケじゃねえのに・・!」
シナキが振り返って指差してくる。
「んなオモッキシ、首吸わせてるクセに言うセリフか!?それが!」
慌てて、首筋を押さえた。
「遅い遅い。もう一日見せびらかした後だっつーの」
「は、早く教えろよっ」
益々、顔が熱くなる。
アワテフタメク、オレに、シナキがボソッと呟いた。
「良かったな」

「ん」
嬉しくて恥ずかしくてソッポ向いて頷いた。

ありがとな、シナキ、アラセ。

「あ〜ラーメン食いてぇなぁ。セイショウ奢れ」
アラセがオレの肩に腕乗せる。
「奢れ奢れ!奢ってやれ!セイショウ」
「そうそう。で、脱がされるとこから聞かせろよマジで」

「もう、それ言うな!!」

オレ、マジでプライド、ズタズタだよ・・・!



カミジョウセイショウ、オトコに抱かれる側になった記念に、
シナキとアラセにラーメンを奢りました。
(ラーメン一杯奢るから変な事言うんじゃねーぞ、裏約束)




「うまっ」
「うめーな」
「もう聞くなよ」








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