人を愛するとしあわせになる。

そんな気持ちを知る。





薄暗く曇った冬の空。

風に晒す喉元がビリビリと痛む。





「ったく・・・。うぜえなぁ。だからクリスマスとか嫌れえなんだよ」

白くなる息に本音がつい出る。

寒さにかこつけて、どんなカップルでもベタベタ寄り添ってやがる。

この季節がオレを苛立たせるのか、それとも、クリスマスだからと必死に
生殖行動しようとする野郎共にむかつくのか・・・。

どちらにせよ。

オレ、カネダジュンヤ(高2)は、このイベントが嫌いだ。

神様の誕生日を祝う日だろうに。

どうして、世間はその夜にセックスすることしか頭に無いのか。

「いつヤッタってセックスはセックスだろ」

だいたいにおいて。

オレは神様とか嫌いなんだよ。

そんなもんは居ねえからだ。

どんなにオレが死にそうになったって、姿なんか表さなかった。

そんな神様だ。

人間一人、救えない。

それとも、オレだけなのか?オレだけ、見捨てられたってだけなのか?

お前の人生は、コレしか無いんだって。

救いの手どころか、逃げる事も許されない人間ってか?オレ。

思わず、ニヤリと口元が上がる。

視界に入る人間、誰でもいいから、犯してやろうか?

誰を不幸にしてやろうか?

品定めするようにすれ違う人間に目を遣る。

一瞬目が合うと相手はオレを振り返る。


脈アリかよ。んな奴ゴメンだっつーの。喜ばしてどうすんだっつーの。

オレは滅茶苦茶に傷ついた顔を見てーんだから。

泣いて抵抗する顔殴って、その辺の階段で丸裸にして犯してやる。

アンタがここを通ったからだって言ったらそいつはどんな顔するだろう?

死にそうな顔するかな?

死にそうな顔?

そんなもん毎日鏡で見飽きてる。

つまらねえな・・・。


萎える。

バカらしい。

何もかもがバカらしく感じて、オレはまっすぐ帰る。

全てを頭から追い出せばいいんだ。

どうせ、もう冬休みだ。外さえ出なけりゃこの浮かれた雰囲気も目にしなくて
すむ。

マンションのエントランス。郵便受けを開ける。

やけに角の尖ったオレ宛の手紙。

しかも宛先が無い。

ひっくり返す。

そこに。

オレが愛してた男の名前。

”ハチヤ ユウイチ”

オレをずっと愛してるって言った男の名前だった。

胸が少し熱くなる。

手紙を胸に抱いて、ハチヤを思い出した。

イカレたオレを愛してくれたハチヤ。

まだ。

オレを忘れてないって?

封を切る。

元気か?とかそんな内容。

でも最後の締めに。

”いつもジュンヤがどうしてるか思ってる”


誰かわけわかんない奴なんかヤルより。

ハチヤを抱きたくなった。

抱いて、好きだって言いたくなった。

今ならわかってるから。

オレはアンタが好きだった。

アンタだけがオレの救いだったから。


マンションのエントランスから再び出る。

ゆっくり歩く。

歩きながら制服だって事も気にしないでタバコに火をつけた。

大通りへ出る。

空からは雪がチラついていた。






「センパイ。雪だ・・・!」

大通り。

オレ達はチャリの二ケツ。

ワタヌキの背中に寄りかかり、空を見上げる。

ワタヌキは真っ白な息を吐きながら、スイスイと歩道を歩くカップルを避けて行く。

「すげえ・・・ホワイトクリスマスじゃん・・!!」

オレ初めてだし!って喜んでも、このお方は無反応。

なんでこんなクールかな?雪だぜ?クリスマスに雪ってさ?すげくねえ?

キタムラとかだったらすげえ喜ぶと思うけど・・・。

多分、雪取るって虫網と虫かご持ってくるくらいハシャグと思うけどなぁ。

それ想像するだけでもかなり笑えるし・・・!

なのに。

アンタは本当に17か?

思春期とかもう終わってるんか?もしか?

ジっとワタヌキの頭を見つめる。

この無表情男め(って顔見てねえけど)。

コラシメテヤロウ。

大通りから一本抜けた道。

駅への裏道。

この道は信号とか無いからワタヌキは一気にスピードを上げる。

その耳元に顔を寄せる。

「タツト」

濡れた舌でその耳を舐めた。

瞬間!!!

年期の入った自転車みたいなすげえブレーキの音がして、思いっきりオレはワタヌキの背中に抱きついた。

「わっ・・・っあ、あ、あぶねッ!!危ねえよ!!センパイ!!」

自転車のステップから落ちそうになったオレは必死にワタヌキに抱きついた。

その顔がゆっくり振り返る・・・・。

「ナギ、てめえ・・・。このヤロウ・・ッ」

寒さのせいだろうか?ワタヌキの顔がかなり青筋の立った青い顔に見える。

「何がホワイトクリスマスだッ何が雪だッ!!お前、オレを煽って楽しいのか・・・?楽しんでんのか?ア?」

確かにイタズラに煽りました。

だけどな。

「ア?」って言われるくれえ悪りぃ事したか?オレ!

本の遊び心じゃん!振り向かない男を振り向かせるかわいい手だろうが!

チャリのステップから降りる。

「歩く」

目を見て、一言だけ言ってオレは歩き出した。

「ナギ」

シカト。

「ナギ。おい。ナギ!」

真横に並ばれてもシカト。

でも、オーラで怖いのがわかるから、オレの足はどんどん早くなる。

だけど。

実はさ。

この後の展開なんて読めてて。

拗ねたオレにワタヌキは絶対手出してくるってわかってたんだけど。

そのタイミングも、かなり過ぎてる気するな・・・って思ってオレは、ワタヌキを振り返った。

そしたらさ。

アイツ、雪が降る中、佇んでた。

で、オレをずっと見てる。

20mくらい離れた距離。

メチャクチャ切ない。

なんで追ってこねえの?いつもならすげえ怒って、無理矢理キスするくせに。

なんか動けなくて、どっちもただ相手を見てた。

なんも言葉が出なかった。

そしたら、ワタヌキがため息ついて。

「行けよ。体、冷やす」

って言った。

オレ、まさに氷点下って感じ。

なんだこの展開って、笑っちゃう。

半笑いで、でけえ声で言ってやった。

「なぁ!・・・キス!・・しねえの!?」

どんどん大きい雪が降ってくる。

ワタヌキの顔が見にくい。


なぁ、なんで?

なんで、今日に限ってこんなんなの?

アレ?もしか、これってクリスマスに破局とかいう最悪なヤツ?

オレ、なんかしたの?

ずっと愛されてるなんて自惚れてた。

もしかして、飽きちゃったんだ?

一発で好きになったみたいに。

一瞬で嫌いになれるのかもな。

あ〜〜、・・・やばい。目痛い。目ん玉滲む。

一回目瞑る。

そしたらなんかどんどん目が痛くなって目が開けられなくなる。

「ナギ」

顔、上げると、そこにワタヌキがいる。

抱きついて、オレからキスした。

ホワイトクリスマスのロマンティックなキス?

冗談じゃねえよ。

超必死に恋人を繋ぎ止めるキス。

オレが好きだろ?って、オレ、こんなにアンタ好きなんだよ?って。

ワタヌキの手がオレの涙拭いてくれる。

いつもの優しい手じゃん。これ。

目を開けて、ワタヌキの顔を見た。

ワタヌキはメタクタに眉間寄せた顔で、それでも、オレがしたのより濃いキスで返してくる。

「なぁ、オレだってな。夢とかあるって知ってるか?」

「え?」

ワタヌキがオレの髪の雪払って、オレのベンチコートのフードをオレに被せる。

「後、5日だ。オレはお前と一緒行きてえんだよ。お前と一緒、国立のフィールドに立ちたい。
今、お前調子いいのに・・・セックスしてみろよ・・・。
どうなんだよ?もし、腰痛めたら、お前のチャンスをオレ自身が潰す事になんだろ?
オレが一緒に行きてえのに・・・意味ねえだろ?ソレ。」

ワタヌキが片手でオレを抱き寄せる。

労るみたいにゆっくり背中を撫でられる。

「クソ我慢してんだよ・・・。オレだってクリスマスだってわかってんだよ」

ギュッと抱き寄せられた。


オレ、それでマジで困っちゃった。

これでオレ、ゴンゾーさんに名前呼ばれなかったら・・・どんな刑が待ってんだろう・・・。

「頑張る」

ワタヌキの肩口で呟く。

ワタヌキがうんうんって頷いた。

雪が降る中、オレ達は離れられなくなってた。











「先客だ」

「ワタヌキじゃねえのか・・あれ」

角を曲がった所を思わず隠れる。

コンビ二で買ったビニ傘差して、オレ、アキタセイジとイズミサワケイタは壁際へ寄る。

覗いた向こうには、ワタヌキとモリヤが抱き合う姿。

「アホか!あいつら!雪で、見えねえとか思ってんじゃねえだろうなぁ・・」

「さすがヤング」

「ブッ・・センパイ!ヤングって!あんたオッサンかよ」

「だってさぁ?オレらなんか”雪だ!さっさと家帰ろうぜ〜”なのに。アキタ、
知ってた?今日クリスマスだって」

「知ってるっつーの・・・んなもん。オレだって一応いろいろ考えてっから早く帰ろうって言ってんのに・・・」

「へーーー!!何?何?ケーキとか?」

「食いもんは、シオさんが用意してるよ。オレはさ。やっぱアレよ。」

「アレ?」

「アレって言ったらアレじゃん」

「H?」

「・・・違います。ま、するけどね、聖夜ですから」

「いいなあ、オレもキスしたいよ。雪に打たれながら」

「打たれるって雷じゃねえっつーの」

笑いながら、オレはセンパイの傘を取り上げて閉じる。

両手を広げて、手でおいでおいで。

笑って抱きついて来るセンパイを抱きしめた。

背中を思い切り抱く。

苦しいくらい抱いて、それからキスもしたくなって、少し体を離す。

顔が見えるくらい腕を緩めて、唇を寄せる。

雪がオレとセンパイの唇をかすめてく。

肌を突き刺す冷えた風。

唇に熱を与える。

舌で舐めて、濡らして、センパイの中に入る。

センパイの柔らかくて、気持ちのいいベロ。

少しキツく吸うとセンパイが「ンッ」って声出す。

あ〜、その声ってオレダメ。

それ聞いちゃうと、このままどっかホテル入りたくなる。

でも、それじゃ今日はダメなんだよ。

オレさ。

センパイにプレゼント用意してんだよ?

んなカッコつけたのなんてあげれないからシルバーだけど。

指輪。

オレ達って、絶対、結婚出来ないじゃん?

だけどさ。

ずっと一緒だって誓いたいんだよ。

誓うなら、聖夜なんてウッテツケだと思わない?

キリストの神様って愛だろ?

”ナンジノリンジンヲアイセヨ”

どんなんでも愛があれば大丈夫って事だろ?

なら、今日。

オレ、センパイに一生を捧げたい。

もし、アンタがいらないって言っても、どんな形でもいいから、ずっとずっと側にいるって約束したいんだ。

神様、オレは誓うよ。

この人でなきゃオレ生きていけない。

この人を守って生きていくのがオレの使命だろ?

ずっとずっとオレにこの人を抱きしめさせて下さい。神様。

「セイジ。あったかい」

笑うセンパイ。

「行こっか」

早く。渡したい。アンタはオレのモノだって約束させたい。

誓って欲しい。

「え!いいの?」

「いいんだよ。アイツらなんか、からかってやろうぜ。バーカバーカって」

オレ達は手を繋いで、角を曲がった。

ワタヌキの背中に、口笛を吹いた。



end






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