滅茶苦茶にスキな歌があって。
そればっか毎日聞いてた。
その歌を空で歌えて。
その歌が流れてたりするとすっごい嬉しくて。
なのに。
何のきっかけなんだろう。
それは。
好きな人が、オレを好きじゃないってわかった
時みたいな瞬間に似てる。
何か。
その歌詞の中の一言に気づいて。

オレはヘッドフォンを外した。

カンチガイしてた。
そんな歌だったんだ。
ココロ惹かれた歌は、本当は後悔してる歌だった。
ハッピーな歌なんかじゃない。
本当は、少し後悔してる。
そんなセリフに気づいて。


それは、まるで。
オレ。
オレみたい。

床に置いたヘッドフォンからはまだその歌が聞こ
えてた。

そっとスイッチを切る。
色を無くした機械が止まる。

静まり返る部屋でオレは無性に寂しくなって。
携帯を開いた。
一番に記憶させたメモリ。
数回のコールの後。

オレは。

彼を呼ぶ。




「ツヅキ・・・・抱いてよ」







ココロは不安だらけ。









ヤエダ メグミ。16歳。






ツヅキタカヒサはオレの運命のオトコ。
まだ、彼はオレに気づいてくれてない。
今は違うオトコを見てる。
だけど。
オレはわかってるよ。
きっとオレにしか彼を救えない。
救えないし、救われないんだ。
だから。
いつかは、ぜったい。
オレ達はちゃんと愛し合える。
今はそのフライング。
ゴメンね、未来のオレ。
先にツヅキとセックスしちゃったオレを許して。
だって、オレ見つけちゃったら、我慢出来なかった
んだ。
好きで好きで好きで好きになっちゃったら。
我慢なんて出来なかったんだ。
自分から足開くくらいにネ。


駅の改札をくぐる。
駅の階段を降りた端。
今日は神経質そうな銀縁のメガネで、ツヅキが立ってた。


ツヅキの住んでるとこはオレんちのある駅の隣。
”初めて”、の後知った事。
近い。
近くて、二人でびっくり。
じゃ、また、とか言って。
オレ達は服を着たんだ。
ねえ、一度知ったカイカンは忘れ辛いよね?
合わせた肌は、離し辛いよね?
その気持ちは一緒でしょ?
オレ達はまた。
また、抱き合える。
その気持ちが一緒なら。

たとえ。
彼がオレを好きじゃなくても。


「タカヒサ」
名前を呼ぶと、ツヅキは嫌な顔をした。
銀縁のそれが余計に冷たい顔に見える。
「そんな露骨にヤな顔しなくたって・・」
苦笑。
「どこいく?」
「どこでも」
ツヅキは結構、寡黙。
要点しか話さない。
それは、やっぱオレが相手だからなのかな?

ツヅキはオレを抱くけど。
好きとは言ってくれないもん。
好きじゃない。
好きじゃないけど、キライじゃない。
だからセックスしてくれる。

それとも、ムカつくから、セックスしてるのかな?
ムカつくから。
セックスって一種拷問にも似てる。
オレは二ヶ月前、体育教師にヤラれた。
ソイツは鬱憤を晴らすためだけにオレを突き上げてた。
それを知ったらオレは体竦んで、動けなくて、怖くて
ただ、耐えてた。
暴力。
セックスは。
暴力になる。
言葉なんかより。
殴るより。
怖い暴力になる。
オレは、ずっと、そうやってソイツに犯されてた。
そこから、助けてくれたのがツヅキだ。


空手をやってるせいで、ツヅキの拳はゴツゴツとしてる。
その手をそっと握る。
ツヅキは握り返してなんかくれないけど、その手を指で
撫でて、オレは手を放した。
「ツヅキ、好き」
オレは目を閉じて俯いて、何度目かわからない告白をした。
ツヅキの反応を見るのが怖いから。
だから、オレは目を閉じて数秒待った。
びっくりした顔も、知らん振りも、見たくない。
オレが見たいのは、ツヅキのやさしい笑顔。
オレが好きだって言ったら、オレを抱き寄せてくれる。
そんな時を待ってる。
ジッと待ってる。



ホテルの部屋に入ると、ツヅキが振り返った。
あ。
ツヅキがオレを抱き寄せた。
ギュッて抱き締めて、背中すごい力で撫で回してる。
や、やだ・・!
オレ、オレ、すごい感じるっ
キスもしてないのに、チンポが熱い。
ギュウギュウ抱き締められて、ツヅキの息が耳元で、
ハァーって聞こえた。
熱っぽい吐息。
背骨がなくなっちゃう。
ツヅキの背中に手廻して。
「ツヅキ、ツヅキ、好き。好き。ツヅキ、キスして」
オレは涙浮かべた。
好きだって思うだけで泣けるってなんだろう。
どうして涙が出るんだろう。
好きで好きで胸が痛い。
ツヅキを自分の体の中に閉じ込めたい。

ツヅキの唇がオレの顔に触った。
薄く目を開いて、オレもツヅキの方へ顔を向けた。
唇が重なる。
大好きだ。
このキスが大好きだ。
ツヅキの唇が。
やさしい口づけが、大好き。
オレは我慢が効かないから、自分からツヅキの口に舌を
入れちゃった。
だって、今はツヅキはオレのなんだもん。
オレが自由にしても、嫌がらないんだもん。
ツヅキと唯一のコンタクト方法。
すごい、いいと思わない?
言葉だけじゃなくて、体で、体張って。
好きって伝えられる。
だからオレはもうツヅキが好きで好きでしょうがないって
キスしちゃう。
「ツヅキィ・・・」
「ヤエダ」
ツヅキの目元が赤い。
感じてくれた?
それとも、恥ずかしいのかな?
オレ、烈しすぎる?
でも、抑えられないよ。
好きな奴とセックス出来るんだもん。
今、オレ、今まで生きてきた中で一番一生懸命かも知んない。
こんなに、一つの事に命燃やすくらい頑張れる事って無い。
「ツヅキ、ツヅキ。飲ませて。ツヅキの、飲みたい」
オレ達はまだドアの所に立ったままだった。
でも、構わない。
ここは皆、そういう事シにくるトコだもん。
外に聞こえたって構わない。
オレはツヅキとなら、全然平気。

オレはツヅキの麻っぽいイージーパンツをズリ下げて、下着
の上から、ツヅキのモノに唇を這わせた。
「ツヅキ・・好き」
唇で数回往復した後、そっと下着を下げた。
グラリとそこからパンパンに張ったカリが出てきた。
そのツルッとした先端に唇を当てる。
少しだけ咥えて、舌で撫でた。
カリの部分だけを咥えて舌を右に左に動かす。
そしたら、ツヅキの腰が少し揺れる。
本当はオレの口の中に、もう突き入れたいのかも。
ツヅキの手がオレの後頭部に廻る。

ああ、ヤリたいんだ・・・。
いいよ。喉の奥まで突っ込んでも。

髪をサラサラと撫でられるだけでオレも可笑しくなる位い
気持ち良くなってた。
大きく口を開けて、出来るだけ奥までツヅキを飲み込む。
と、ツヅキがビクッと動く。

ああ、これ、好きなんだね?
いいよ。
ヤッテ。

促すようにオレはツヅキの勃起をジュッジュッと唇でピス
トンした。
オレの涎がツヅキを握ってる右手にねっとりとつく。
オレはもっともっとツヅキを煽った。

ほら、腰動かしていいよ?
オレの口の中に出したくない?
全部飲むから。
ツヅキの全部飲ませてよ。
オレの口でイッてよ・・!

「ヤエダ・・・!」
呼ばれて、オレの口からツヅキのチンポがチュポンっと抜
けた。

え、なに・・?

イキナリ。
ツヅキが。




「アアアーーーー!!!」
オレは悲鳴を上げてた。
オレのアソコにツヅキが這入ってる。
ムリヤリにジーンズを下ろされて、膝が閉じたまま。
腰を高く上げさせられて、バック。
ドクドクドクドクと脈打ってる。
「わりぃ、もうダメだ。我慢できねえ」
ツヅキの声が朦朧とした頭の上で聞こえた。
それから。
ズンズンズンズンとお腹の中が抉られた。
「ハァー・・・!アンッアンッヤッアッアッンンンッアッ
ツゥ・・!!」
熱い。
何日ぶりだっただろう。
この熱が恋しくて堪らなかった。
ツヅキの手がオレのチンポを握ってる。
オレはカーペットの上で手を握り締めて、快感に耐えてた。
ツヅキにヤラレテルってだけで。
その事実だけで、イキそう。
「好き・・・ツヅキ・・好き・・アッアンッアンッ」
ジュッジュッてオレのお尻から音がする。
今日はジェルもなにも使ってない。
とても潤滑油になんかならないだろうツヅキをしゃぶった
オレの唾液だけ。
それだけで、こんな音が出るわけない。

ああ、オトコも濡れるって本当だったんだ・・。
オレ、ツヅキを気持ち良くさせたくて、こんな体になっ
ちゃった・・。
嘲笑。
でも、嬉しい。
ツヅキにオレ変えられてる。
こんなに気持ちいいの、ツヅキだけだもん。
ああ、ツヅキ、セックスって最高だよね。
こんなに好きな人と繋がっていられる瞬間無い。
体が溶けそう。
ツヅキに溶かされそうだよ。
「ツヅキ・・、好きぃ・・っアアッ」
もう自分からどんどん腰上げちゃってる。
もっと突っ込んで。
ツヅキ。
オレの中で、イッパイ出して。
オレ、全部飲むから。
体の中から絶対出さないから。
イッパイ出して、ツヅキ。
「ヤエダ・・・イキそう。すげぇ気持ちイイ・・!」
烈しくピストンするツヅキ。
オレは嬉しくて、息するのも苦しいくらい突っ込まれて
たけど、笑ってしまった。




ねえ、未来のオレ、もうちょっと待ってて。
絶対。
オレ、ツヅキを落とすから。
それで、メグミ愛してるって言わせてみせるから。




それからオレ達は、ベッドでもバスルームでもヤッた。
何回ヤッても、やめられなかった。
体を離したくなくて、また始めちゃう。
本当は泊まる気なんてなかったのに。
二時間なんかじゃ終んなかった。
それでも泊まるなんてとんでも無いから、オレ達は夜中
に部屋を出た。
アソコがジンジンしちゃって、歩くだけで感じちゃう。
思わず股を押さえそうになって、立ち止まる。
その姿を、ツヅキが振り返った。
「平気か・・?」
「うん・・・。アソコが熱くて・・」
つい言ってしまって慌てて口を押さえた。
ツヅキは別にイヤな顔はしてなかった。
それどころか。
オレの背中に手を廻して抱き寄せるように歩いてくれた。

今、オレ達は服を着てる。
セックスしてる訳じゃない。
なのに、ツヅキはオレを抱き寄せてくれてる。

心臓が爆発しそう。
嬉しくて大好きで涙が出そう。

ツヅキの手が心配そうにオレの肩を撫でてくれてた。

未来はきっと近い。
と、思う。








夜中の駅前は時間の経過もわからない。
変わらずコンビニは開いてるし、駅からはいくらでも人
が出てくるし。
ツヅキは黙って歩いてる。
オレは少し遅れて歩いた。
でも、ツヅキは気づかない。
「ツヅキ」
呼ぶと、ツヅキの少し猫背の姿勢から顔が上がって、オレ
を見返す。
「どうした?」
オレは駅を見て、わがまま言ってみた。
「まだ、帰りたく・・ない」
ツヅキの顔を見る。
ツヅキは無表情にオレを見つめてる。
見つめてる。
「もう少し。一緒に居たい」
勇気のないオレは、やっぱりツヅキの顔を見ては言えなか
った。
どんな顔してる?
困った顔?
イヤな顔?
オレがわがままなのはわかってる。
だけど、言っちゃう。言って、少し後悔するんだ。
期待して、後悔して。
ツヅキの顔を見るのが怖くなって。
オレは俯く。

そしたら。
オレの頭にツヅキの手が。
「公園でなんか飲むか」
顔を上げると、ツヅキの目が笑ってた。
『そのくらいなんだよ』って顔。
「うん」
嬉しくて顔が笑っちゃう。
嬉しいついでにオレはツヅキの手を握った。
ツヅキは別に何も言わなかった。
言わないで、軽く握り返してくれた。
二人で手を繋いで道を渡る。
小さな駅前の公園。
その入り口で、ツヅキの足がピタリと止まった。
「モリヤ」
ツヅキの体が力む。
「え?」
公園を見回して、暗いベンチに誰かが座ってるのに気づいた。
でも、暗くて良くわかんない。
ツヅキはその暗がりを凝視して声を失くした。
だけど、きっと向こうからは公園の入り口の街灯で、オレ達
が良く見えたみたいだった。
「ツヅキ!」
確かにモリヤの声だった。
モリヤが立ち上がって、コッチへ歩いてくる。
暗いベンチに座ってたもう一人も続いて立ち上がった。
「モリヤ・・・」
オレが呟くと、ツヅキが公園に背を向けた。
それで。
「悪い、帰る」
小さくオレに言って、ツヅキは走り去ってしまった。
「・・・ツヅキッ・・・!ゴメン!!」
オレはツヅキの背中に叫んだ。

ああ、オレ、サッサと帰れば良かった・・!
モリヤにオレと一緒のとこなんか、きっと見られたくない筈だ。
オレなんかと、一緒にいるとこなんか・・・。
オレとの関係なんて、ツヅキは・・・!
何にも言えないんだ。
オレ達は、なんなのって。
誰にも言えないんだ。
言えない事をオレが、オレが無理矢理・・。
こんなの。
絶対モリヤに知られちゃいけないコトだから。

「ヤエダ・・・だよな?」
モリヤが近づいて来て、困ったような声を出した。
オレは背を向けたまま頷いて。
「ゴメンっ」
オレも早足で公園を出た。


・・・・もう、終わりかも知れない。
何もかもが。
この夜で。

終る。


駅のホームでオレは目を閉じた。
涙を堪えて、目を閉じて。
電車が駅に入ってくる突風に煽られた。
一歩だけ後ろに下がる。

ねえ、未来のオレは、知ってるのかな。
オレとツヅキは今日が最後だって、そう知ってたなら皮肉だよね。
オレは全ては始まる前だと信じてるのに。
始める前に、全ては終るんだ。
何かのマチガイだっただけ。
オレ達の関係は、何かをマチガエておきただけ。

このままオレは、未来のオレになるの・・?

未来のオレに、ツヅキはいない。

そう、・・・確信出来た。













それから。
ギコチナイ毎日。
モリヤをひたすらに避ける日々。
だって、何も言えないんだもん。
あんな時間に二人で居たって理由。
手を繋いでたのだってきっと見られてる。
今、この状況で。
もしも、モリヤに、付き合ってるんだろ?って言われたら
ザンコク。
カンチガイなのに。
そう思われるなんて、ツライ。
本当に付き合えてこうなってたら・・、どんなにシアワセ
だっただろう。
オレ達のウソの関係。
ごめん、ツヅキ。
ごめん、モリヤ。
オレは、何も言いたくないんだ。
ツヅキとのカンケイがウソだったとも。
ツヅキとのカンケイが何でもない事だとも。
オレにとっては、盛大な告白シーンだったんだ。
ずっとずっと続いてた告白中だったんだ。
それが、少し、シアワセだったんだ。
ツライ気持ちもあったけど。
でも、好きな人の肌は忘れられないよ。
ああ、どうしたらいいんだろう。
オレは、ただ、ツヅキと一緒に居たいのに・・・。

もう二度とチャンスは無いの?

オレは失敗したの?

オレ達は本当に。

終わったのかな・・・?










どんなに見つめてもあの背中はコッチを向かない。

そのまま、学校は夏休みに突入。

どこに打たれたかわからないピリオド。
オレは携帯を開いて鳴る事の無い番号を見つめてた。

いっその事、自分でキリをつけようか?
アイツはオレの事なんて何とも思ってない。
始めからわかってた。

オレは夜の街の中でゴロゴロ。
行く当ても無い。
頼れる奴も居ない。
誰も知らない誰かに、全部話してしまいたかった。
だけど、そうそうオトコに声を掛けてくれる男なんて
居ないんだよ。
もう一週間以上こうやってブラブラしてるけど、オレ
に声を掛ける奇特な人間は現れない。

じゃ、どうする?

自分から動くしか無い。
チラリ。
この通りの先を見つめた。
アヤシイ界隈。
この通りの向こう側は、冷めてて熱い。
感情さえ捨てれば、誰でも楽しめるオトナの世界が
広がってる。

誰でもいい。

誰でもいいから。
誰か、オレを。
ツヅキみたいに抱いて。

ツヅキみたいに・・・?


嘲笑。
オレは道端に座り込んで、口押さえた。
おかしすぎる。


バカ・・・。
オレってバカだ。
バカみたい。
ツヅキみたいにって。
そう思ってちゃ、誰でもいいなんて思えるワケない。


その時。
オレの肩が、トントンと叩かれた。
顔を上げると、スーツのオジサン。
くたびれた革鞄。
タレ目がより一層オジサンの顔を疲れてる印象にさせる。
「大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
オレは慌てて立ち上がった。
すると。
「退屈かい?」
やさしい、やわらかい笑顔だった。
「え、退屈・・・?」
オジサンはスッと前の通りを見て小声で言った。
「アッチは行っちゃダメだ。いい事なんか何もない」
それからまたオレを見て笑って。
「どうしても、行きたいなら、私とおいで」
差し出された右手。
オレはマジマジと見つめた。
こんな優しそうな人なら・・。
そう思うと、断れない。
もうオレはツヅキの事を無理にでも忘れるべきなのかも
知れない。
この手を取って。
向こうに行けば。
この人になら全部話せるかも知れない。
話して。
オレは。


その時。
簡素な携帯の着信音が鳴った。
オジサンが胸から携帯を取り出す。
「ちょっと、ごめんね」
そう言われて、オレは頷いた。
オジサンが半分背中を向けるその時。
携帯を持つその左手の薬指に銀の輪っかが見えた。

『いい事なんて何もない』

本当だ。
いい事なんか何も起きない。
惑わされて、振り回されて、オレどうにかなっちゃうのか
も知れない。
こんな得体の知れないオッサンとやっちゃったらオレ。
もう二度とツヅキに抱いてなんて貰えない。

いいの?

こんな絵に描いたみたいなヨゴレ方。

ツヅキ。
ツヅキ。
大好き、ツヅキ。

その時。
オレの携帯が鳴った。
その着メロは。
オレがずっとずっとずっと待ちわびてた曲だった。
あの大好きな曲。
ずっと好きで好きで、大好きなツヅキの番号にセットして
た。
あの歌がオレのポケットから流れた。


運命だって。
運命の相手だって、今度こそ信じちゃうよ?
すんごい思い込みだって言われるかも知んない。
でも、オレ、こういう少しの、たった少しの偶然のキッカケ
を大切にしたい。
オレは急いでポケットから携帯を取り出す。

お願いっまだ切れないで。
お願いっ

やっとで耳に当てた携帯から。
『ヤエダ・・?』
遠いツヅキの声が聞こえた。
「うんっオレ!」
声のトーンが上がっちゃう。
ヒソヒソ話してたオジサンがオレを振り返った。
『お前・・・、お前な』
「うん」
『お前が電話してこねーから・・』
オジサンと目が合った。
オジサンは携帯片手に手を振った。
そして向こうの通りへ歩いて行く。
『お前が電話してこねえからオレはな』

これで、良かった。
あの手を取ったら、オレはこのシアワセを二度と・・・。

『お前の番号変わったかと思ったじゃねーか』
ツヅキの照れてふてくされた態度が目に浮かんじゃう。
「・・うん。ごめん」
『イヤ・・・つーか・・・ゴメン。・・・・逃げて、ゴメンな』
ゆっくりと、ゆっくりとツヅキがしゃべる。
夜のネオンが涙色。
声が震えそうで、うん、とだけしかオレ答える事が出来なかった。
『ずっと、気になってた・・・オレ、すげえズルイ男で・・・』
ツヅキに見えないのに、オレは頭横に振ってた。
『なんもかんもシカトしてた・・・けどな・・なんか』
瞬きで涙が零れる。
『なんか、さみしい。お前、居ないのさみしいんだよ・・・聞い
てるか?』
「ん」
涙が止まんない。
唇が震えてまともに声も出ない。
『オレ、ズルイってわかってるけど・・・・オレ、お前とキスす
るの・・・結構スキなんだよ・・って、何言ってんだよな・・』
オレは大きく息を吐いた。
涙を少しだけ止めて。
「ツヅキぃ・・・好き。・・好きだよ・・会いたいよっ会いたい」
身を切り裂くような告白を、オレはした。
『・・・オレもだ』











ねえ未来のオレ。
聞いた?
ツヅキはオレのキスを好きだって言ってくれたよ。
ねえ。
少しずつ。
こうやって、好きになっていってくれればいいと思わない?
一つずつ、増やしていけばいいんだ。
そしたら。
きっと、未来のオレとツヅキに繋がるから。

少しずつ、オトスから。

未来のオレ、待っててね。
ちゃんと始めるから。
今までのはただのフライングだったけど。
明日からは、きっと違う。
違う一歩を踏み出すよ。










夜の街を走るみたいに急ぐ。
思わず口ずさんだのは、あの歌。

少し後悔してるあの歌だった。

やっぱり、好きだ。



この歌がオレ大好きなんだ。
















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